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第554話 √5-35 より幸せに

祝600更新目(途中エイプリルネタなどで跡地になっているものもありますが)

よろしくお願いします

 六月七日



 月曜日、昼休みを迎えるといつものように雨澄が待っていて慣れたもので二人定位置の階段へと足を運んだ。


「――……今日もあなたが?」

「ああ、まあな」


 本来ならばホニさんや姉貴が弁当を作るはずの日を、譲ってもらって俺が月曜金曜は優先的に作るようにしていた。

 きっとホニさんや姉貴の弁当の方が美味しいし、栄養価も高いだろうけども……やっぱり俺が作って雨澄に食べてもらうというのが、喜ばしいのであって。

 

「……飽きないか?」

「――むしろ毎回趣向が凝らされていて驚く」


 そう思ってもらえてうれしく思う……まぁ世辞も含んでいるかもしれないが。


「――いただきます」

「俺もいただきます」


 そうして二人弁当を食べた、今日も出来る限り早食いを努めたが……結果は僅差ながらまた負けてしまった。


「――ごちそうさま」

「そういえばさ、雨澄が金曜に言いかけてた……雨澄が神に願いたいことってなんだったんだ?」

「――……そういえば途中だった」


 いつも以上に少しの間があったところを見るに雨澄は半分忘れていたようだった……俺としては雨澄と接触できるタイミングといったらこの月曜金曜の昼時だけなのでもやもやとしていたのだが。


「――体調が芳しくない、病状の良くない母の病気を治してほしい」

「……そう、だったのか」


 俺は雨澄のことを何も知らなかった、何か事情はあるのだとは思っていたがお腹を空かしている印象の女子だったのだ。

 俺がユキ達に軽い気持ちで家庭の事情などとのたまってしまったが、俺の想像を超えて深刻な問題を雨澄は抱えていたと言っていい。

 そして雨澄はこくり頷いて続ける。


「――手術をすれば直る、けれどお金が無い。神裁で少しは稼げているけれど、生活費で消えてしまう」

「……雨澄一人がじゃあ、家のお金を稼いでいるのか?」


 再び雨澄がこくりと頷いて答えた。


「――幼い妹と、私と母の三人暮らし。妹や母には普通の生活をしてもらう為には……私が頑張らないと」


 雨澄がこんな身の上話をしてくれたのも意外だが、雨澄の家族構成にも驚いた。

 踏み込むべきでないし、聞くに徹するべきだとも思う。

 雨澄の今言った家族構成の中に”父親”は含まれていなかったのだ。


「――幸い神裁になった私は戦いを避けて、自分を存在させる力を抑えれば……少しのエネルギーで身体を持たせることが出来る」

「……それでカレーパン一つで一週間だったのか」


 いわゆる省エネモードなのだろうか。

 似たようなことを少し前にホニさんから聞いたことがある。

 俺とホニさんが出会うまで時陽子の体力の消費を抑える為に”存在感”などに当てるエネルギーを極限まで抑えてエネルギーの消費を抑えるというもの。

 その芸当が雨澄に、いやきっと神裁となった俺でも出来ることなのだろう。


「――貢献度も切羽が詰まっていた私は、総力であなたと戦った。それで負けた……エネルギーも使い果たして、結果あなたに助けられた」


 雨澄の事情がここにきてようやく分かった。

 雨澄は家族を養う為に、そしてひもじい思いをさせない為に自分がしわ寄せを受けて……これまで生きてきたのだ。

 それも神裁となって異を狩りながら、それでお金などを稼ぎながらという綱渡りの生活を過ごしてきたのだろう。


「――ホニ神の二百万という数字に目に眩んだとも言える。そして我は異を喜ばしくは想わないから」

「それは――」


 なんとまたタイミングが悪くチャイムが鳴った。

 もう少し空気を読んでほしいが、このチャイムが解散の合図でもあった。


「――……少し話し過ぎた。私は、なぜあなたにはこんなことを話してしまった……?」

「俺に聞かれても」

「――不思議、あなたはきっと聞き上手」


 特に俺は何をしたつもりもないのだが褒められてしまった。

 

「――お弁当、美味しかった。また金曜に」


 そうしてほんの少しだけ表情を緩ませて俺に空になった弁当箱を渡すと、俺よりも足早に去っていった。

 俺が少しの間その場に立ち止まってしまったのには理由があった。

 その雨澄の緩んだ表情、笑顔どころか微笑みとまでも行かない――そんな雨澄に一瞬でも見惚れてしまったのだ。


「あれ?」


 気づくと雨澄は居なくなっていた。

 俺もすっかり意識することはなくなっていたが、一番最初にすれ違った際の拒絶するオーラがすっかりなりを潜めていたことに気づいた。

 少し前までは、保健室の頃までは敵意を向けている時よりかなりマシであっても警戒している風ではあったのだ。

 

 そして雨澄が先週言おうとしたことがキッカケとはいえ、自分のことを話してくれたのが……俺は嬉しかったのかもしれない。

 この月曜と金曜の昼時とはいえ、接することの出来る時間があるのが――


『(雨澄さんって)気になる?』


 ふとユイがいつか放課後の通学路でした質問を思い出す。

 その時は単なる好奇心によるものだったが、今は……どうなんだろうか?



* *



 六月十二日



 体育祭当日を迎えた。

 六月初めには競技決めもあった、俺はせっかく福島に鍛えてもらっているのだからと長距離走を選んだ。

 最後の福島とのトレーニングで、磨きがかかったように思える。


 二人三脚を選択するとユイと組むこととなり、ユキと姫城さんがタッグを組み……マサヒロに関しては聞いてないが、適当な女子と組んだという。

 実際福島との練習も瞬発的な速度をあげるのではなく、あくまでも持久力の向上……異との戦闘時になるべく長く、そして早く走り続けられるようにということだった。


 数週間前から突貫的に始まった、体育授業の予定を振り返る形で体育祭練習が行われた。

 そして迎えたのは偶数週の土曜日こと今日、本来偶数臭土曜日は休日なのだが体育祭の例外によって休みは来週月曜に振り返られた。

 そのことでふと思ってしまったのだが、雨澄との弁当の月曜の約束はどうするべきだろうと考えてしまった。


 そうして体育祭は始まった。

 体育祭の多くの内容などについて触れるのはまた今度にするとして、結果を言えば――福島のトレーニングが功を奏し長距離走の男子のそのレースでは六人中一位を取れた。

 まさか一位を取るとは思わず、俺自身もユキ達も驚いていた。

 おそらく福島のトレーニングと異関連で外で走り回ることがなければ、そもそも長距離走に出ることもなければ、出たとしても散々だったに違いない。


 長距離走でグラウンドを何周もしている際に、雨澄と一度だけ目が合った。

 彼女は特にこれといったアクションもしなかったが、彼女の目線の先に俺が居ただけでも少し嬉しくおもったのだ。

 まぁ俺に意識を向けていたか、俺が走っていたこと自体を覚えているかはは別にしてもだ……完全に自己満足で何が悪い!


 ちなみにユイとの二人三脚は、無難な結果で六人中三位という微妙な結果に終わった。

 そうこうあって、ほどほどに盛り上がった体育祭も幕を閉じる。

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