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第551話 √5-32 より幸せに

「そういえば深夜に出かけるなんていつ以来か……」


 中学生の頃に興味本位で深夜のコンビニ目指して、姉貴にバレて説教食らった時以来だろうか。

 ……あれ以来姉貴が深夜に買い出しに行かないよう、俺がもし深夜に間食するであろうものに目星を付けて定期的に勝手備蓄しているのが大きいのだが。

 だからコンビニ以外空いている店も殆ど無いと言っていいこの町で、深夜に外出する意味がない。


『深夜のお出かけってワクワクしますね!』

「……お出かけ言うけど、一応異(コトナリ)狩りの為だからな」


 神は異を浄化と言っているが、俺はそんなの関係なく相応の言葉を当てはめて……実際見返りと貢献度狙いの狩りに他ならない。


『そうでしたねー、でも楽しいですよ。こうしてユウさんの手を借りてとはいえ出歩ける日が来るとは思えませんでした』

「……そ、そうか」

 

 正直ナタリーの話すことは、どうにも良く分からない時がある。

 そもそも喋る鉈で、ナタリーという名前の時点で良く分からないのだが。

 ……半分冗談と捉えてしまっていたが『ちなみに元人間の頃はユウさんと同い年の女の子だったよ!』とか言っていたのも思い出す。

 ナタリーはどうして鉈になったのだろうか――いや鉈になったとかギャグのつもりじゃないぞ、うん!


『まぁ私の設定なんてどうでもいいですね――異の場所はなんとなく分かりますよー、今ユウさんの脳内に直接送ります』

「そんな馬鹿な、脳内に直接とか……ッ!?(こいつ脳内に直接っ!)」


 なんとナタリーの言った通り俺の頭の中に地図のようなものが現れ、その地図のところどころが点滅し出したのだ。


「……すげえ、なんとなく分かる」

『ユウさんが”神裁”になったことで、私もそんな力を得たみたい』


 そういうことらしい。

 雨澄がさっき提供した情報を俺も得られるようになったようだ、何を介してかは分からないが雨澄も脳内に俺と同じような地図が浮かんでいると考えていいだろう。


「……ここから近いが、貢献度は低そうだな」

『初心者ですから、最初はそれでいいんじゃないですか?』

「そうだな、貢献度低くても数狩れればどうにかなるだろうし」

『それではレッツゴー、ですユウさん』

「とりあえず数日間分の貢献度は稼ぎたいところだ――」


 そうして俺は脳内にある地図の場所まで足を走らせた。



 その場に付いてみると、そこには一人の子供が居た。

 見かけは至って普通の子供であり、女子小学生ぐらいだろうか。


 しかし時間が時間であり、それも深夜のこの時間にランドセルを背負っているこの状況はかなりおかしい。


『この子憑かれてますね』

「貢献度は……二十か、脅威度も低いから結界内で倒せばどうにかなるだろう――とりあえず人助けもかねてやってみるか」


 その子が異に憑かれていることは”神裁”となったことで一目で分かる、決して強い幽霊ではないが彼女を操って深夜に出歩かせているのだ。

 そして俺は神に習った手順で結界を展開する。


「こう手をかざして……”狭範囲点繋式――虚界”っ!」


 そう言い放つと、世界が変化した。

 電燈と月夜の明かりだけが頼りなく照らすこの深夜の藍浜町の路地に満ちる色が――パステルカラーになった。

 コンクリ塀は薄い桃色、空は薄い水色、月はレモン色……桐のセピア色や雨澄のモノトーンと比較すると派手にもほどがある配色である。


「うおなんだこの絵本の中みたいな色は……」

『可愛らしいポップな色ですねー、これなら深夜も安心ですね!』

 

 嫌いではないけども、なんかこう乙女チックな色使いなのはなぜなのか。


『それでは目の前のJSを助けましょう!』

「ああ!」


 そして俺は鉈を結界内で小学生に振りかざした――


 とか出来るはずもなく、結界内とはいえ女子小学生を傷つけるなんてとその鉈は小学生の真横に振りかざされてしまう。


「やっちまった」

『あ、でも貢献度が低いおかげか――』


 ”神裁”が扱う武器を”神器”と言うらしい、その神器は結界内では異を打ち倒す為の武器であり、決して殺傷を目的としているわけではない。

 例えば振りかざされた鉈の周囲にいるのが、貢献度が低く、宿主への定着が浅いものならば――簡単にも憑きものは取れてしまうのだ。

 宿主から離れた異を俺は視覚することが出来る、そして――   


「”浄化ッ!”」 


 俺がそう言い放ちながら、空中に漂っていた老婆のような外見の異を横薙ぎに切り裂くと――消滅した。

 異の浄化が終わると共に、結界が消滅し周囲の色は深夜のものを取り戻す。

 かつての異の宿主だった女子小学生は現実ではふっと意識を失うようにして倒れ、それをなんとか抱き留める。


「……呆気なかったな」

『これならそこまで気負いせずに済みそうですね』


 しかし残されたのは俺が抱き留めているすやすやと寝息を立てはじめた小学生である。

 傍目に見れば誘拐案件というか、言い逃れの出来ない事案である。


「っと”浄化申請”しておかないと」


 俺は浄化申請と呼ばれる神に説明された異を浄化し終わったあとでの手順を行う。

 まずは異を倒したことを確認する――異を視覚出来るようになっている俺が認識できない時点で異は消滅している。

 そして宿主の生存確認も神裁となったことで容易であり、手の甲に浮き出た貢献度の数字をダブルクリックならぬ二度ふっと触れることで申請完了である。

 

「おお、消えたっ!?」

『”辻褄合わせ”が働いたみたいですね、今頃異の憑いていた宿主のJSは自分の家の自室ですやすや眠りに就いている……とアフターレポートが届きました』


 神の説明にあった”辻褄合わせ”というのは、本来ならば異が介在しないと起きない出来事を”なかったことに”するよう力が働くことである。

 浄化申請を行うことで『”異によって”深夜外出している女子小学生』というイレギュラーな状態を解消できるようになっているようだ。

 さすがに俺が女子小学生をお姫様だっこなりして、その子の部屋まで送り届けるというのはあまりにも難易度が高いというか……完全に不審者になってしまうことを避ける処置とのこと。

 いわゆる神が責任を持ってその異の宿主というある意味の被害者を、普通の生活に戻すようにしているとのことだ。


 そして浄化申請を行い辻褄合わせが行われた結果どうなったか、ということに関しても神器であるナタリーには分かるようになっているようだ。


「これで解決ってことか……おお、貢献度も増えてる」


 時間経過によって”二五〇”から減って”二四一”が”二六一”に回復していた。

 

『この調子なら今日だけで貢献度稼げそう』

「やれるうちにやっておくか!」


 そうしてまた俺は深夜の藍浜町に繰り出した。

 それから異の居るポイントまでの移動と戦闘で一時間半近く使って、合計四回もの異の”浄化”に成功した。

 それぞれ貢献度の低いものではあったが、今日だけで一〇〇もの貢献度を稼げたので上々だろう。





 家に帰ってくるとくたくただった。

 疲労感どっぷり、眠気もやばい。

 それでも町中走り回って鉈を振り回したのだからもっと足腰から腕までガタが来ていそうなものだが、”神裁”になったことで基礎体力の底上げがなされているようだった。


「……はりきりすぎた」


 神からの説明もあったが結界の発動には、何かしらのエネルギーや資源を消費する。

 一番てっとり早いのが自身が有している、食事などによって得られたカロリーなどだ。

 そのほかにも金や、鋼材や燃料やボーキサイt――などを元に結界を展開することが可能なようだ。

 ちなみに神によれば差し出せるものはなんでもよいらしく、結界だけでなく能力の底上げ・追加効果が行える”神代力(シンダイリキ)”などにカロリーだけでなく、場合によっては――血液から、臓器、そして寿命でさえも差し出せるらしい。


「なるほどこれは……」


 俺はもちろんカロリーを選択したのだが、四戦もすると体力も削られる上――


「腹減った……」


 深夜も四時近く、あと一時間ちょっと待てば朝食の準備の時間ではあるものの空腹がヤバい、背中とお腹がくっつく五秒前。

 雨澄が空腹で倒れる理由がよく分かった、もともと食に困っている雨澄が更にカロリーを結界展開で消費することによって限界に達するのだろう。


 ここで姉貴が俺の外出対策に備蓄していた間食用の食料が役に立ったのだった。

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