第144~145話 √1-18 ※独占禁止法は適応されませんでした。<微修正>
その後勉強会はつつがなく終わり……正直、ユキやマイが隣にいるだけで気が気じゃなかったが乗り切った。
そうしてテスト週間が明けた。
テスト自体の結果は勉強会の甲斐あってそこそこのもの、おおよそが七割以上で悪くない。
ただその勉強会の際ユイに”恋愛面”について釘を刺された俺は、あれから何度も告白しようと考えたが踏ん切りが付かずに居た。
ヘタレだからしょうがない……という逃げ道では済ましてはいけないのだが、あれだけ言われて行動起こせないあたり本当にヘタレている。
けれども、俺は告白することによって失ってしまうことが怖いのだ。
また、あの時のように。
何も言わず、答えも聞けずに、消え去り、全てを失ったあの時のようになるのが嫌だったのだ。
以降もしかしたらユキとの会話もぎこちなさがあったかもしれない、姫城ともマトモに顔を見合わせることも出来ていないかもしれない。
こんな状態が続くことは良くないことだとわかっている、それでも俺は覚悟を決められずにいた。
そんな俺は「生徒会だから」という口実で、二人から逃げるように文化祭の準備へと奮起していたのだった――
一〇月二七日
文化祭が迫る。
クラス展示の為に打ち合わせ、材料集めに奔走している生徒を度々目にする。
このクラスは体育祭を思い出すと行事には少し協力的で、お祭り好きなテンション高めの奴も居るので、総じて文化祭のクラス展示には前向きと見て良いだろう。
そんでもって俺は生徒会による文化祭の統括と、クラスの両方で走り回っていた。
「今年は文化祭巡り、難しそうだな──」
生徒会としての裏方としてこの忙しさが本番に無い訳がない、今年の文化祭は走り回って棒に振ることは目に見えている。
クラス展示は、何を思ったか「メイド焼きそば屋」
……誰がそんな奇抜な発想を思いつき、何故クラスが賛同したのか分からないが。俺がロングホームルーム中に舟を漕いでいた際に気付くと決定していた。
メイド服をどうやって人数分揃えるのかなども決まっていて、このクラスの謎の団結力には驚かされる。
まあ、そんな訳で飾り付けを主に行い、焼きそばを焼く機械をどこからか持ってきたりして、だいぶ教室の「メイド焼きそば屋」化が進行していた。
そんな文化祭準備合間に買ってきたカフェオレをちびちび飲みながら少し休憩をしていた時だった。
「ユウジ」
「……うん?」
実はユキが俺一人の時に話し掛けてくるのは久方ぶりで、正直な話お互いちょっと気まずいような空気が流れていたが為に話す機会を失っていた。
「休憩、あとどれぐらい?」
「んー、特に決まってない。たぶん大丈夫」
「そう……」
しかし次の言葉は、俺には予想だにしなかった――
「ユウジに伝えたいことがあるんだ」
「っ!」
思わず持っていた缶を落としそうになる。
ユキが……なんだって?
いや……鈍い俺でも流石に分かる、ユキが何を言おうとしているのかぐらい。
「……一〇分後、校舎裏の大きな木の下で待ってるから。」
それだけ言い残してユキは去っていく。
「俺も……ちゃんと決めないとな」
ユキから言わせてしまって凄くカッコ悪いな……というか情けねえなあ、俺。
でも確固たる意志を持って、今なら言い切れるのだ――
俺は──が好きであると。
俺は学園生活の、いやもしかすると人生全体にも及ぶ岐路に立っていた。
その決断はとにかく重大で、そして掛け替えのない機会だった。
俺はユキに呼び出されたのだ。
幼馴染であるユキ、長年連れ添った幼馴染の彼女は高校生になってから一段と魅力を増していた。
容姿の成長著しく、性格はかねてからの明るくて、多くの人に親しまれたひだまりのような笑顔の彼女は変わっていない。
俺はユキのことが好きだったのだろう。
それは間違いじゃない、ユキと付き合えるとしたら彼氏になれるとしたら、それがどれほど喜ばしいことなのであろうと思う。
でも俺はそんな自分が好かれるわけがないと、幼馴染という壁はおそらくは自分の思っているような高さでも厚さでもない――そう思いこんできた。
ユキにはもっとふさわしい人ができるだろう、俺はお呼びでないと断定した。
しかし俺の悪友であり親友のユイは言ったのだ。
いつものギャグ調にしてはぐらかすようにするユイが、真面目な口調で俺に意中の相手を決めろと言った。
そして、ユキもそしてマイも俺のことを好いているという。
マイはわかりやすかった、そもそも俺に告白をして、そして一度は振られているのだから……俺がだけど、でもそれから俺はマイと親しくなれたと思う。
だがユイはユキも俺のことが好きだという、それがもし本当ならば――
少なくとも、俺が記憶の中でユキに好かれるような事をしていたか記憶を呼び覚ます。
皆目見当がつかない……ただあるのは、ユキとの笑って遊んで話した記憶のみだった。
でも案外そういうものなのかもしれない、だって俺は身近にいるユキのことが好きだったのだから。
ユイに呼び出された勉強会のあの日からユキの態度がぎこちないことに気付かないわけがなかった。
俺もおそらくはユキを意識していただろう、だからお互いきまずい気持ちになってあまり顔を合わせられなかった。
そして今日が訪れた。
文化祭の準備の日のことだ。ちょうど休憩していた時に現れたのはほかでもないユキだった。
久方振りにまともに顔を会わせた気がした。
その時のユキはひどく思いつめた、まるで何かの一大決心をするかのような面持ちでいたのだ。
『……十分後、校舎裏の大きな木の下で待ってるから』
そう俺へと言い残すと、逃げるように俺の元から去って行った。
ここまで来てさすがに鈍感な俺が分からないわけがない……呼び出された意味も、ユキの表情の意図も。
俺は今日、きっとユキから告白されるのだろう。
自意識過剰ならそれでいい、でもこれを否定するのはユキを傷つけることと同じだと思う。
それから俺はユキを追うように飲料を飲み干して教室に出た。
生徒のほとんどが文化祭準備に奔走し、喧騒に塗れる廊下を進む……いつも以上に足取りは重かった。
このまま廊下が延々と続けば、ユキの”告白”を聞くこともないのだろう、などと考えてしまうほどに気が重かった。
俺の気持ちは決まっていて、きっとそれがユキの望む答えではないことを知っているのに――
俺は靴を履きかえて土を踏みしめて約束の場所へと歩みを進めた。
校舎裏の大きな木に寄りかかるようにして、目を瞑りながら長い髪を束ねたポニーテールがトレードマークの彼女、ユキがそこにいた。
「ユキ……」
俺の声で、ユキはゆっくりと瞳を開いた。
「ありがと、来てくれて」
彼女は笑顔で、そう言ってくるのだ。
その笑顔を見れば見るほど、心が苦しくなる……これから俺は彼女を傷つけるであろうというのに。
「あのね、ユウジ」
「……うん」
「私ね、ユウジが思っている以上に独占欲が強いんだ」
「そう、なのか」
何を言いたいのか、少なからず分かっていた。
ユキは俺と最近一緒にいるようになったマイに妬いていた、時折見せる不機嫌な表情もタイミングは同じくで合点がいく。
「ユウジが他の女の子と居るだけで……妬いてたんだよね」
かつての俺なら、それを聞いただけで狂喜乱舞した挙げ句に昇天間違いなしだったろうに。
でも、今の俺は違った。
タイミングの問題だったのだろうか、これが運命というものなのだろうか。
どうしてもっとはやく俺は彼女への好意をちゃんと自覚できなかったのだろうか。
「焦ってたの、ユウジがとられちゃうって……私の隣から居なくなっちゃうって」
嬉しい、嬉しくないわけがない。
それでも、そんな言葉がズキズキと俺の心に突き刺さっていく。
彼女を悩ませていたのも俺だった、早くに気づくべきだった。
「私は我が儘で欲張りな女なんだよ……」
「……そんなことないって」
ここまで彼女は我慢してくれたのだ、今の今まで何も口では言わなかった。
俺の挙動にも行動にも、何一つ言うことなく、表情だけで留めてくれていたのだ。
「嘘。私はそんなだから、ユウジをここに呼び出したんだもん」
「……」
「そして、今から言う言葉は──酷く卑怯で自己中心的だから」
自嘲するようにそうユキは告げる。
きっと来るであろう言葉を俺は知っている。
だから心が痛むのだ、俺の答えは決まってるから。
そしてユキは一気に息を吸い込んで、それは叫ぶように、
「ユウジ……私、ユウジのことが好きなのっ!」
その言葉が聞こえた時の風は、余りにも冷たく、痛く感じた。
「俺は……」
告白。
大好きだった女の子からの告白だった。
でも、その゛大好き゛は本当にそのままとらえてよかったのだろうか?
ライクなのかラブなのか……分かっている振りをして、俺は目を背けていたのだ
知っているはずだ、本当の彼女への気持ちの正体を。
このままのぬるま湯が心地よいから、身体がふやけようが浸かっていたかった――sぷ、俺はとても卑怯で臆病だ。
どうしようもないヘタレだった。
そうか。
彼女への好きは、二択で答えるとすれば――愛ではなかった。
それも彼女は俺にとってのアイドルのような存在だったのだ、夢にみて、見て憧れて。
いや、女神とも言えるかもしれない……馴染みなのに、高校に上がってからどこか遠くなって、俺には眩しすぎた。
喝を入れられて、元気付けられて、癒されて──ようやく理解した。
彼女に抱いていたのは恋心でなかった、と。
ただ俺は彼女を羨んでいただけだった。
そして今、俺の気持ちが向かっていたのは──マイだった。
俺をいつも狙っては、正直いつも警戒していた。彼女の琴線に触れないようにと。
でも違う見方をすると……他人とは違う反応を俺だけに、その感情・言葉・表情を見せてくれた。
それは次第にどれもこれも、微笑ましく感じていた。
手を繋ぐだけで失神しかけたり。隣を歩くだけで茹であがる。
横の彼女の顔は覗けば、とにかく嬉しそうで、表情はかなり緩んでいた。
考えればなんとも可愛らしい、そんなマイが作る表情などに惹かれていった。
惹かれていた、そしてそれは一つ感情に変わっていった。
今なら言える──マイが好きだと。
だから、俺は言わないといけないのだ、一大決心をして、勇気を振り絞ってしてくれた彼女への告白に対しての拒絶の意志を……最低の言葉で。
せめてちゃんと言おう、終わらせよう。
だから俺ははっきりとした通る声で――
「……俺はユキとは付き合えない」
そう、すべての希望を断ち切るように言った。
「っ……」
勇気を持って告白してくれた彼女を裏切り欺いた。
彼女にどんな表情をさせてしまったのか、覗くユキの顔は――
「ごめん、わかってた」
少し困ったように微笑んでいた。
微笑しながら俺に言葉を返してきた、瞬間俺は……その意味が分からなかった。
怒るなり突き放すなりすればいいのに──……いや、そうだな、ユキはそんなことする子じゃない。
まだその方が俺が救われてしまうから、ここまでも自分勝手だ。
「私にとっての最終確認。これではっきりしたよ」
ユキはどこか晴れ晴れとした表情でそう言った。何が……と、言う前にユキは話す。
「ユウジは姫城さんにご執心だもん」
「っ! マ、マイにか?」
「……言ってなかったけど、呼び方も」
「あ」
つい、口が滑ってしまった。
いや、もしかすると最近はずっとそうだったのかもしれない。
……うわあああああああああ!? 無意識に言ってたのか、俺は!? はっ! 何も言わなかったのは──
「それに、姫城さんもユウジに興味があるみたいだもんね?」
「……」
「はっきりと言ってくれてよかった……なにより、はぐらかさないでけれたことが嬉しかった……私はユウジの意志を聞けたことで充分だよ?」
「ユキ……」
「あーあ、フラれちゃった。一緒に居る時間はこっちの方が多かったのになあ」
「……」
「ごめん、今の負け惜しみ。でもこれで終わりだからさ」
「……悪いユ──」
するとユキのしなやかな指が俺が後に続かせるであろう言葉を止める。
「謝るのはナシ。ユウジが自分で選んだ答えなんだから、そうだよね?」
「……ああ」
「それならユウジにも、姫城さんにも絶対幸せになってもらうんだから」
「分かってる……あいつは俺が幸せにする」
「っ……! だから、その、厚かましいお願い……いや命令! 私の分も幸せになって」
幼馴染で俺のことを分かりすぎている。
優しすぎる強すぎる彼女には――本当に敵わない。
* *
「じゃあ、これでお仕舞い。もう私には心残りはありません! ユウジの健闘を祈っちゃうから!」
「ありがとう、ユキ」
ユウジは私に向かって、そうお礼をする。
「お礼なんて勿体ない、そんなことより姫城さんだよ? 告白はまだ?」
「ああ、うん」
「早めにしてあげなよ? ……というかここで私と話してないで、行ってきなさい」
「え?」
「え? じゃなーい、ほらほらさっさと行った行った」
私はユウジの背中を文字通りぐいっと押す。
「……わかった、じゃあ行くわ」
「うん、頑張んなよー」
私はユウジを見送る。
人気のない校舎裏から、喧騒溢れる校舎に大好きだったあなたが消えていくまで。
「あ、あれ……おかしいな」
膝からガクリ崩れ落ちる。ユウジが行った途端に全身の力が抜けた。そして──
「な、なにしてんの……私」
目を拭って、拭って、拭う。
「なーんで、私は──」
目元を擦って、払い落とす。
「止まんないや、涙」
ボロボロと溢れていく、それは止まることを知らない。
「はあ……弱いよなぁ、私は」
情けなかった。
私は僅かな希望を心のどこかで抱いていた、それは叶いはしないのに。
踏ん切りを付ける為に、わざわざ呼んだのに。
「……本当に幸せになりなよ。ユウジと姫城さん?」
見上げると少し薄暗い秋の空、風が吹くたび髪が空へと流れていく。
「あー……そうだ──」
これで終わり。
もしも、出来るなら――今までの日常に戻りたい。
「……無理、かなあ」
風は私へと吹きつける。
強く、強く。
それでも涙はとめどなく、乾きそうもなかった。