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第550話 √5-31 より幸せに

「ということで”神裁”になってきた」



 家に帰って、それから家事もろもろをして訪れた夜も十一時近く。

 それまでも桐やホニさんが何か聞きたそうにしていたが我慢してもらい、落ち着いたタイミングで話そうと決めていた。


「ということで……じゃない! お主、今のお主がどういう存在になったか理解しておるのか!?」

「え? そりゃ雨澄みたいに”放課後対魔アクション”出来るようになったんだろ?」

「……ふざけるでない。お主は今日から十日間の間に(コトナリ)を打ち倒さないと――消えるのじゃぞ?」

「っ! ユウジさん! それって本当なの!?」


 桐はなんでもお見通しだなあ、まだ言ってもいないのに。

 そしてホニさんが驚き、身を乗り出して聞いてくる。


「本当だよ。このまま何もしなかったら俺の存在は消えるらしい」

「ユウジさんが……消える」

「……なんということを。ただでさえ二週間でも猶予は少なかったというのに……変に義理立てしおってからに」

「しかし桐はまるで”前もって”知ってる口ぶりだな。もったいぶらずに言ってくれても良かったのに」

「そ、それは…………知っていても、わしにその行動を起こすことは出来ないのじゃ。面目ない」


 いつか桐がどんな存在なのか考えたことがある。

 四月の初めにユキの交通事故と共に、この世界がギャルゲーと現実のハイブリッドであることを証明した。

 そしてまさにゲームならば便利キャラとして設定されたかのような、多くの能力を使うことの出来る桐。


 いわゆるギャルゲーと現実のハイブリッドな今の世界の、いうなればプレイヤーサイドではない立場に立っているのだろう。


 思わせぶりなことも納得が出来る、そしてその桐はプレイヤーサイドでなくゲームの管理サイドと例えば仮定する。

 しかし管理サイドで、能力を行使して管理を行う一方で、プレイヤーサイドへの”過剰なネタバレ”は控えているか――禁止されているのだろう。

 知る立場でありながら、直接自分がゲームに干渉して展開を変えるようなことが出来ない……そんなところなのかもしれない。


『それに決してメリットばかりではなく――――くぅ、この程度の情報も許されぬのか!』


 桐が先日そう言っていたことも思い出す、桐が何かを言うとしたその間にはネタバレが含まれていたのだろう。

 桐が自主的にそうしようとしても、強制的にその言葉が発声されないようになっている……と、まぁここまで完全に憶測ではあるが。


 だから桐も、俺が”神裁”となることも知っていて。

 そして俺が雨澄に貢献度を譲渡することも予め知っていたのだろう。


「それは冗談として……それでホニさん、これからはホニさんに危害が加えられることは無いと思うから安心してほしい」

「ユウジさん、それはどういうこと……?」

「俺が言うのも難だし、神頼みなのは情けないんだが……ホニさんが雨澄たちから危害を加えられないようにお願いしたんだ」

「っ!」


 恩着せがましくなってしまうかもしれないが、ホニさんがこれからも神に願ったことで取り払われた敵の陰に知らず怯え続けるのは許せなかったのだ。

 だからこそ俺はその願いの内容を言った。


「……思い違いかもしれないけれど、聞かせてユウジさん」

「おう、なんだ」

「ユウジさんが”神裁”になったのは、我が危害を加えられないように神に願う為……だったの?」

「まぁ……大体は」


 ホニさんを守るためにはどうすればいいかとも考えた結果でもある。

 しかし俺は気づかぬ内に思ってもいたのだ――ホニさんが異と括られ、狙われることで雨澄と敵対しないようにするにはどうすればいいかと。

 嫌われてもいい、でも敵として雨澄相手に戦い続けたくはなかったのだ。


 情が移ってしまったのだろう、あまりの空腹で倒れたり、そして食には面白いぐらいに執着するのが少し可愛げがあって。

 表情が豊かではない彼女が唯一見せる、ほんの少し緩んだ隙のある表情を見せた――カレーパンを食べた時、姉貴御膳を食べた時、そして俺が作った弁当を食べた時。

 別にオーバーなリアクションをするわけでもないが、彼女がものを食べている時は美味しそうに食べるし、幸せそうな雰囲気をまとうのだ。

 朝早起きして、大人数の弁当を作って、そんな弁当を美味しそうに幸せそうに食べるのだから、冥利に尽きるというか。

 そんな彼女を見て、間近で感じるのが好きだったのもあるかもしれない――


「ごめんねユウジさん……赤の他人の我なんかのせいで、巻き込んで」


 ホニさんはそうして俯くとぽろぽろと涙を流し始めて、俺は焦ってしまう。

 俺はホニさんを泣かしたくてしたことではないのだ。


「ホニさんが気にすることじゃない! だってホニさんは何も悪いことしてないし、むしろ家の家事も手伝ってくれている上に、俺としてはホニさんがいるだけで暖かな気持ちになるんだ」


 ホニさんを見ていると和やかな気持ちになる、守ってあげたいという庇護欲がそそられる。

 容姿がそれに関与していないとは言わないが、ホニさん持前の健気さと勤勉さがそうさせるのだと思う。

 何も悪いことをしていない、害をなさないホニさんが命を狙われているのはどう考えたっておかしいのだ――納得できないからこそ、それを無理やり覆す為にも、俺は”神裁”になった。

    

「それに赤の他人だなんて悲しいこと言わないでくれ。俺はホニさんのことが好きだし、大事な家族だと思ってるんだ……ホニさんはそう思ってくれてないのか?」


 俺がホニさんと自分の認識の違いがあるのではないかと不安を覚える一方で、ホニさんは頭を振って強く否定した。


「そんなことない! そんなことないっ! ユウジさんの家族として受け入れてくれて嬉しいし、それにユウジさんのことが……大好きで!」

「そっか、なら良かった」


 俺のことを家族として好いてくれていることを聞けて、俺は嬉しくなった。

 ……まぁ嫌われてたら立ち直れないぐらい凹んでたけどね!


「そういうことで”神裁”になったことでホニさんや桐に、多少迷惑がかかるかもしれな。それは申し訳ない」

「ユウジさんが謝る必要なんて何もないよ! 我に出来ることがあったら何でも言って」

「うむ、わしもこれまで通り全力でお主をサポートしよう」

「はは、こりゃ心強いな」


 そうしてホニさんと桐に”神裁”となったことを報告することが出来た。


 そしてそれから数時間後の深夜二時。


「さて、それでは貢献しにいくとしますか」

『行きましょうユウさん!』


 俺は家を出て、深夜の藍浜町に繰り出した。

 目指すは――異。

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