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第547話 √5-28 より幸せに

「俺も”神裁”とやらになってみるかな」


 俺が言い放ったその言葉によって、少しの間部屋の時間は止まったようだった。


「――正気?」

「本気で言ってるのかお主!?」

「ユウジさん!?」


 おおう、雨澄含む全員から反応が芳しくなくて滅入るぜ……。


「――安易な考えでなるようなものではない」

「おお、雨澄気にかけてくれるのか」

「――…………」


 少しだけからかうように言うと雨澄は黙ってしまった。

 

「お主……”神裁”になるということは、相応の危険が付きまとい、戦いの日々が始まるのじゃぞ」

「そうだろうなと思う」

「それに決してメリットばかりではなく――<規制>――くぅ、この程度の情報も許されぬのか!」


 メリットが口癖なばっかりに雨澄にはそのメリットを聞いたが。

 デメリットも存在しうることは容易に予想できた、初期特典はどんな願いでも叶う特別仕様、そして異を浄化するごとに見返りだってある。

 確かに異との戦いは、雨澄のように武器を扱い、危険に満ちているかもしれない。


 しかしそれだけじゃないはずだ。


「ユウジさんそれってきっと……大変で! 辛いことだよ!?」

「まぁそうなるだろうな」

「ユウジさん!」


 ホニさんがらしくなく語気を荒げて抗議するように俺の名前を呼んだ。

 思ってくれているのはありがたい、本当に嬉しい。

 けれどももう決めたことだ。


「ごめんなホニさん、俺どうしても叶えたい願いが出来たんだよ」

「叶えたい願いって……?」

「それは秘密だ」


 家族を守るためにはどんなことだってする。

 それはこの現実とギャルゲーのハイブリッドな世界になる前、かつての対象は実妹ではあったが俺は出来る限りのことをしてきた。

 今はホニさんという俺の大事な家族が居なくなってしまいかねないところまで来ている、目の前にはその家族を消そうとする雨澄がいるのだ。


 なぜ俺はそこまでするのだろうか、と思うかもしれない。

 俺もそこまで情熱のたぎっている人間ではなかったはずだが、どうにも家族が絡むと俺は良くも悪くも冷静ではいられないのだ。

 引きこもりという形であっても俺の傍からその実妹である美優が離れてしまったのが大きいのかもしれない。

 今度はどんなことがあっても家族の一人でも失ってはいけないと、そしてホニさんを失う未来はもう見たくないと強く訴えるのだ。

 さっきの戦いの最中にも覚えた不思議なもので、まるでホニさんを以前に失ったかのような感覚が残っているのだ。

 もちろんホニさんと出会ったのは今年の春ということになっている、それでも記憶になくてもホニさんを失ってはいけないという暗示のものが俺の中にはあって。


「雨澄でも桐でもいい、(コトナリ)が居る場所を教えてくれ」

「――私があなたに情報を売るメリットが――」

「まさか道端で倒れていたのを運んで来て、美味しいご飯を食べられたのに、俺への恩返しは異の説明だけなのか?」


 こうなれば使えるものはトコトン使ってしまえと言わんばかりに、卑怯ではあるがそのカードを使わせてもらう。

 実際説明に関しては雨澄が倒れる前の時点で、雨澄が言い出したことであり対象外と言ってしまっても構わないのだ。


「――鬼畜の所業……」 

「しょぼいヤツでもいい、”神裁”になる為の権利が欲しいんだ……頼むよ雨澄」

「――あなたはきっと後悔する」

「やらずに後悔するよりも、やって後悔だ」


 似たような文言をモジっただけではあるが、その言葉は俺の意思そのものだった。


「――分かった、教える……でもこれは借りはこれっきり」

「ああ、もちろんだ。むしろ教えてもらえれば週二で雨澄への昼食弁当デリバリーも付けようと思ってたぐらいだ」

「――それは本当? 嘘ではなく、継続的なもの?」


 俺は軽い気持ちでそう提案すると、雨澄はものすごい食いつきを見せた。

 腹をすかしている雨澄というのは見るに見かねるもので。

 どうにかならないかとも思っていた、この機会にでも雨澄にそう提案できるならと願ったりと言える。

 どうして雨澄の弁当を作りたがるかと聞かれれば、俺がお節介焼きだということに他ならない。

 それにいざユイやクランナの弁当も居っしょに作るとなればそんな作業量は変わらない……食費は増えるが。


「お、おう。俺が責任を持って届けよう」

「――異の倒し方のレクチャーもおまけする」 


 なんと、雨澄による初心者向け異の倒し方レクチャーも異の位置情報だけでなくおまけしてくれた。

 弁当パワー恐るべし。


「――来週月曜、お弁当と引き換えに情報を提供する」


 曜日指定も入れてくるあたりちゃっかりしている、食への執念すら覚える雨澄である。

 そうして雨澄はしばらくして帰っていった。



 五月三十一日

 


「……おう、ご足労かけるな」

「――こちらから出向くのは当然のこと」


 月曜昼休み、俺の弁当と別に余分に用意した弁当を二つを持って廊下に出た際に。

 どうやって雨澄を探し出そうと思ったら、なんと雨澄が俺のクラスの目の前にまでやってきていた。

 ……無表情気味の彼女であるが、どこか期待に満ちた瞳をしているのは気のせいだろうか。


「これが弁当な、月曜と金曜の二日になるけどもいいか?」

「――まったく問題ない、それでは情報を提供するための場所に移動する」


 確かにちょうど弁当は俺の含めて二つ持ってきていたが、こういう展開になるとは。


「あ、ちょっと待ってくれ」

  

 雨澄に少し待っているよう促すと教室に顔を出して――


「ユイ、ユキ、姫城さん。悪い! ちょっとある人と今日は飯にするわ」

「……ある人?」

「ユウジ様、その方について詳しく――」

「わ、悪い! 後にしてくれ」


 別にユイたちと共に昼食するというのは約束していたわけではない。

 いつもの流れで一緒になっているだけで、今日一緒に食べようなどという話はなかったのだ。

 ……まぁ慣習になっていたのは確かなのだが。


「それじゃ行くか」

「――」

 

 雨澄はこくりと頷くと二人歩き出した――

 そしてたどり着いたのは教室から大分離れた、以前授業で使った地図を片付けるべく訪れた資料室の近くの階段だった。


「――ここならば、人目を気にしない」

「お、おう」


 確かにこの資料室がある棟はというと空き教室ばかりで、学食や購買からも遠く昼休みはもちろん他の時間でも閑散としていることが多い。

 しかし空き教室と言っても鍵がかかっていることが多いとはいえ、階段に座って昼食を食べることとなろうとは。


「――それでは、頂きます」 

「俺もいただきます」


 そうして二人並んで弁当を食べ始めた。

 雨澄はもともとそこまで口数が多くなかったが、食事に集中するあまり完全なまでの無言になっていた。

 決して下品ではないが、ひょいひょいと箸で口に具材を手早く早送りにように運んでいく雨澄の食べ方は少し面白い。

 そして雨澄はカレーパンの時も、

 

「――ごちそうさまでした」

「早っ」


 俺が弁当を半分に差し掛かったところで雨澄は完食を果たしていた。

 なかなかの早食いに俺も驚いてしまう。

 男子の俺も負けていられない、といっても既に負けてはいるのだが弁当を俺はかきこみ始めた。


「ごちそうさま……ふぅ」

「――お弁当、美味しかった」

「そうか、なら作った甲斐があった」

「――!? これは副会長謹製ではない……?」

「あ、ああ。今日は俺の当番だったんだ」


 そう俺が作ったといって驚かれてしまうと、俺はなんとも言えない。

 やっぱり副会長である姉貴手前、お世辞で美味しいと言っていたのだろうか。


「――……嫁に欲しい」

「……ちょっと何を言っているか分かりませんね」


 あとで分かったことだが雨澄なりのジョークだったらしい。

 こうして不思議な昼食を終えて、いよいよ本題に移る――

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