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第537話 √5-18 より幸せに

 ホームルームののち、そのまま一時間目の授業が終わって休み時間を迎えると同時にホニさんの周りには人だかりができていた。

 それもそのはずだ、見かけは中学生でも通じる髪の長いなんとも可愛らしい美少女の転校初日というのだから注目を集めて当然だろう。

 

 ちなみにホニさんを取り囲むべく居るのはほぼ女子であり、一方の男子は遠目にホニさんを伺って各々に話している。

 

「ねー、下之ちゃんって呼べばいいのかな? それともホニちゃん」

「ホ、ホニでも大丈夫です」

「下之君とはどんな関係なのー?」

「遠い親戚で、イトコ? 最近この町に引っ越してきました」


 などと主に女子に質問攻めに合ってあたふたとしている様子だった、傍目に見ていると慣れない環境に戸惑っていてちょっと可愛らしい。

 ホニさんが受け答えしているのは前日に桐がでっちあげた設定で、最近この町に引っ越してきた俺の親戚こと従妹ということになっているとのこと。


「下之君のことは前から知っていたの?」

「は、はい」

「ぶっちゃけ下之ってどう思う?」

「……かっこいいと思います」

「「本当!?」」


 色恋沙汰というのはなんとも盛り上がりやすいものできゃあきゃあと黄色い頃が近くでは展開されている。

 聞き耳を立てるというか、ホニさんの前の席なので丸聞こえというか……ホニさん俺のことそう思ってたのか、お世辞でも照れるもんだな。

 そろそろホニさんに助け舟を出そうと思っていると、思わぬ障壁が立ちはだかった。


「……可愛い従妹いたんだねぇ、ユウジ」

「初耳ですよ、ユウジ様」


 そして俺の席の前には微妙にフキゲン気味な我が幼馴染(ということになっている)のユキと何故か俺を(ゲームの設定上)好いてくれている姫城さんが立っていた。


「いやー、俺も最近従妹の存在を知ってな」

「……本当に?」

「さっきホニさんがユウジ様のことをかっこいいと言っていましたが、面識がないとは思えないのですが」


 くっ、設定に綻びが!


「前に会ったらしいけども覚えてなくてな、ははは」


 と取り繕うしかない、いや俺殆ど即興で考えなきゃいけないし勘弁してくれ。


「……幼馴染の私が知らないなんて、一体ユウジといつ会ったんだろう」

「とんだダークホースが現れたものです、ユウジ様が好みそうな容姿をしていますから」

「な、なんでそんなこと言えるんだよ?」

「女の勘です」

「なんとなく分かるかも」


 ……こういう時の女子の結託って本当怖い。


「ユイはどう思う?」

「え? アタシ?」


 近くになんとなく居たユイにユキが流れ弾を撃ち、不意打ちだったとばかりに素の声が出てしまうユイ。

 確かに内心ではホニさんの容姿もさることながら、内面含めてストライクだが高校一年のクラスにねじ込めたとしても中学生の容姿である。

 さすがに恋愛対象にすると犯罪臭がするというか……俺、ロリコンじゃないし!


 ユイも事態を収束に向かわせるべく、擁護してくれることを願うしかない。


「ま、まぁユウジ的にはたぶんストライクだろうん」


 悲しいかな、擁護ではなくユキサイドからの援護射撃だった。

 背後から撃たれた気分だぜ!


「とにかくホニさんとは何にもないぞ」

「うーん、まぁそういうことにしておこうかな」

「いずれタイミングを問い詰めるにしても、今日はここまでにしておきましょうかユウジ様」


 また問い詰められるタイミングあんの!?

 休み時間終了のチャイムが鳴ったことで話題は打ち切られ、次の授業の準備を始めるべく次第に俺の周りから人だかりが減っていった。


「……チャイムが鳴らなかったら即死だった」


 主に致命的なボロを出さなかったという意味で。

 そして後ろを振り返ると少しだけ疲れた様子のホニさんが居て、思わず声をかける。


「ホニさん大丈夫か? こういうことは慣れてないよな」


 ホニさんは神様とのことで、こんな学校の経験も無い……とは断定はできないが。

 おそらく学校初体験の素振りからして、初っ端から疲れてしまったのではないかと危惧をする。


「ユウジさん……学校って楽しいですね」

 

 しかしホニさんはそう言って微笑むのだ。

 そんなホニさんは懐かしむような声音さえ含んでのことで、俺は意外に思ってしまう。 


「いえ、心配してくれてありがとうございます。しばらくすれば慣れると思いますから」

「なら良かった……」


 ホニさんが嘘をついているようには思えずに、俺は少し安堵する。

 しかしさっきのホニさんの表情はなんだったのだろう、ホニさんはどうして神になってその前はどうだったんだろうというふとした疑問が沸き上がりつつあった。

 既に一か月以上一緒に暮らしているのに、俺はホニさんのことを殆ど知っていないことに気付いてしまったのだ。

 

 



 それからというもの、休み時間を経るごとにホニさんの周囲に集まる女子の熱も収まり始める。

 飽き性とまでは言わないが、彼女らも終日質問攻めでは疲れてしまうからと遠慮してくれているのかもしれない。

 

 お昼休みになって、きつねうどんが学食にあると知るとホニさんはもう上機嫌だった。

 そういえばホニさんと出会った時もきつねうどんのきつねこと姉貴謹製のお揚げの供え物を喜んで食べていたっけ、などとも思い出す。

 そして学食に着いていざ券売機に並ぼうと思った矢先に、俺は財布を教室に忘れたことに気付いてしまった。


「悪い財布忘れた。ユイ、ホニさんのこと頼んでいいか」

「いいぞい」


 一応は一緒に住んでいるユイに頼むと喧騒の昼休みの学食に向かう廊下の流れを逆流する。

 

「あー、先に食べてていいって言い忘れた」


 ……なるべく早く戻ろう。

 そう思った矢先に、以前にもあったとある感覚が俺の足を止めてしまった。

  

 それは鳥肌の立つような、冷徹なまでの拒絶を大いに孕んだ――明確な敵意だった。

 

 そして耳の奥まで響くようなキィンという音と共に世界が壊れた。

 溢れていた生徒が消失し、俺と彼女と二人だけのモノトーンの世界に変貌を遂げる。


『――結界は展開出来ても、神器は出せませんか……ある程度は対策したようですね』


 目の前には昨日今と同じ空間に誘い入れて、一方的までに矢を射って来た雨澄が立っていた。

 結界は連日展開出来るものではないと聞いたばかりだというのに、昨日の今日で俺は冷汗をかく。


「……ここで戦うつもりか、雨澄」

『――私の名前はどこで?』

「友人に女子に詳しいヤツがいてな、名前だけは分かった」

『――そうですか、まぁ名前が知れたところで変わりません。そして先ほどの戦うかの質問に対してはNOとお答えします』


 意外にも彼女は敵意こそむき出しではあるが、今は戦意が無いと言った。

 どこまで信用していいか分からないが、もしかすると今俺の隣にホニさんが居ないことが関係しているのかもしれない。


「そうか、なら何が目的だ」

『――宣戦布告です、あなたと(コトナリ)が共に居る場合は覚悟しておいてください』

「覚悟ってのは、俺とホニさんを一方的に攻撃するってことでいいんだな」

『――何が一方的ですか、あなた自身武器も持って学校にも妨害用の能力を行使しておいて』

「一方的に襲われた故の防衛手段なんだがな……俺とホニさんを見逃してくれることは出来ないのか?」

 

 俺は内心では昨日の一方的な攻撃を思い出して憤りを抑えつつも、ある程度の対話を試みる。

 

『――私はあなた方を浄化し、異を消し去ります』


 残念ながら彼女は昨日の言い分そのままで、対話の姿勢を見せることはなかった。


「……分かった、そう言うのなら俺はお前と徹底的に戦うからな」

『――それでは、また次に会う時はあなた方を浄化する時でしょう』


 そうして彼女は向き直って俺とすれ違うと、一瞬でモノトーンの世界は消失し喧騒の世界に戻ってくる。

 彼女意図的に結界を解除したのか、それとも俺とすれ違うだけで結界外に出るほどの結界規模でしかなかったのかは分からない。

 

 俺は昨日決意したとはいえ、後戻りのできない道を着実に進み続けていることを認識しつつあった。

 それでも指をくわえてホニさんが消えるのを見ていることなんて到底出来ないことであり、理不尽には抗えるだけ抗っていくつもりだ。


「……何考えてるのか分かんねえよ、雨澄」


 どうしてホニさんを異と称して消し去ろうとするのか。

 異が居ることでどんな危険性があるというのか、そもそも異の定義とは何か、そして異を消し去るという彼女らどうしてそんなことをするのか。

 彼女は何を考えながら、何を思いながら俺に宣戦布告をしたのか。


 雨澄という人間は、一体何者なのか。


「……早く教室に戻らないとな」


 俺は足早に財布を取りに戻る。

 思わず教室の時計を確認をすると、ほんの数分学食から教室に至るまでの時間しか経過しておらず、結界内の時間経過は無いのかもしれないことに気付いた。

 この頃から俺はそんな時を止められるような結界を張れる人間離れした彼女のことに、決して好意的ではないしにろ少しずつ意識を向け始めるようになった。

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