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第532話 √5-13 より幸せに


五月十六日


 

 日曜の昼を過ぎて夕方に差し掛かる頃、そろそろ夕食の支度を始めようとした矢先の出来事。


「ど、どうしよう」


 我、地味に窮地に立たされていたり!?

 調味料置き場を探して、詰め替え用の調味料を貯蔵してあるラックも確認して、冷蔵庫を覗いて、隅から隅まで探しても――


「塩が無い!」


 ずっと家に居る我の確認不足にして、多忙なミナさんも気づかなかった重大なミス!

 そのミナさんは珍しく友人と遊びに行くことになり、今日に関しては家事などを任されていた。

 そしてユウジさんは学校に忘れ物があると出て行ったばかりで。


 クランナアイシアやユイも休日だからと外に出かけていておらず、今この家に居るのは我と桐と美優だけで――

 

「てっきりあるものだと!」


 と言っても数日前に確認した際には今後数日は保つはずの量が十分あったはずなのに。

 

「……もしかして」


 そういえばここ最近クランナがちょくちょくこっそりと卵焼きの練習をしていたのを思い……出した!

 日本に来て料理下手を直すべくユウジさんの指導のもと練習しているのは知ってたけれど――

 それ以外にも時間を見つけてなぜか卵焼きを作っては、後片付けをしてを繰り返していて。


「そこが誤算だったんだ……」


 クランナが練習をすると言うことが頭から抜けていたようで、予定外に塩が底をついてしまったみたいです。


「う、うーん」


 塩が無い、というのは存外厳しいもので。

 醤油ほかの調味料で替えようのない場合もあって、さしすせその”し”こと塩は料理においてなくてはならない存在なのです!

 味が無いものの塩分調整が出来ません、枝豆を茹でて味の素をかけるわけにも行かず途方に暮れます。


「これは……出かけなければいけないのかな」


 我は実のところを言うと、この世界になってから家の外に出ていません。

 神石前で出会ったというのもあくまで”そういう事になっている”だけであって、記憶には存在していても四月一日以前の出来事を経験はしていないのです。

 なぜ家から出ていないかというと――


「……やっぱりそういう風に出来てるんだ」

  

 この世界はユウジさんがナタリーと出会う世界、そして美優の部屋で確認したユウジさんのこれまでの動きと照らし合わせると――

 我の世界に類似した展開で、ユウジさんのヨリとの二度目の接触と、ナタリーの存在がほぼそう決定づけました。

 あまり先を話せない桐も、我には「今回の世界はホニの裏ルート」と予告もしていたので、ついにといったところなのかもしれません。


「我がどうしてもこの家を出て、ユウジさんや桐を戦いに巻き込む風に出来てるんだね」


 我が覚えている、我とユウジさんが結ばれた記憶では、我はその世界ではちょくちょくユウジさんと外に出ていた。

 そしていつものように外に出た時にヨリとの戦いが始まって、それから戦いの日々が始まって。

 避けられるものなら避けたい、けれどこの世界を無駄にはしたくない次の物語に進む為には避けられないことだとも分かっていて。


 それでも今までに多くの変化があって、不測の事態が起きないよう桐が張っているという結界内にある下之家からは出ないようにしていた。

 ミナさんやユウジさんに買い物を任せるのは申し訳ないけれど、ギリギリまで戦いは避けたかったから我はこの日までこの世界では家を一度も出なかった。


「誰も戦わない、誰も傷つかない、我の裏ルートは存在しないってことなんだね」


 料理をしない、塩を使わないという選択肢もあるのかな。

 ううん、きっとそれを強引に回避しても別の要素で外に出ざるを得なくなりそうな気がしていた。

 これまでの世界、特に前回の物語のような”シナリオの強制力”はユウジさんを蒼のもとに向かわせることも許さなかったから。


「……その前に桐に報告しないと」


 今日は日曜で桐も家に居る、我は桐の部屋を訪ね、そして美優の部屋にも向かった。

 これから我とユウジさんと桐が生き残る為の準備をする――   



* *


 

 俺は完全に抜けていて、日曜だというのに学校に足を運ぶハメになった。

 というのも忘れたのは月曜提出用の宿題一式で、カバンに入れたことを確認せずに帰って来て気づいたのが日曜の夕方だ。

 

 宿題一式を手持ちして来てもいいのだが、どうせならとカバンをかけて取りに行った。

 どうにもナタリーが「休日の学校行きたい!」と聞かなかったのもあり、筆箱を入れたままで具合が良かった。

 そうして教室の鍵を開けてもらったりとなんやかんやあって、どうにか宿題をカバンに入れて持って帰る矢先のことだった。


「ん? あれは……」


 いつもの通学路を帰っていると、見慣れた容姿が目に入った。 


「ホニさんと桐だよな」


 珍しい、ホニさんが外出するのもそうだが桐が休日外に出ているというのも本当に珍しい。

 提げている買い物袋からして買い物帰りのようだが、何か買い忘れでもあったのだろうか。


「おーいホニさ――」


 俺がそう呼びかけると、ホニさんと桐は振り返ると俺にすぐさま気づき俺の方へと引き返してきた。

 その時だった――


 耳の奥に響くようなキィンという耳障りな音が響いた次の瞬間、周囲から生活音がすべて消え去り俺たちの声だけが残された。

 それから次第にモノトーンへと変わっていく世界、まるでアニメで見るような突如異世界に迷い込んだようで不思議な――


「っ!」


 そしてデジャブ。

 ぞわっとした、鳥肌の立つような、冷徹なまでの拒絶を大いに孕んだ感覚。

 それは以前、とある人物とすれ違った時に覚えた――


『――――』


 その感覚をたどって振り返ると彼女は立っていた。

 藍浜高校の指定セーラー服を身に纏い、深い緑色で片方の目元を覆んばかりの長い前髪とサニーサイドアップの髪型、そして見えるもう片方の瞳は――


『やはりあなたの匂いは間違っていなかった。見つけた――ことなりを』


 彼女”雨澄和”とのすれ違いか、はたまたナタリーとの出会いが発端だったのだろう。

 そうしてありふれ平和に過ぎていく日常は終わりを迎え、俺とホニさんと桐の戦いの日々が始まるのだった――

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