第142話R √1-16 ※独占禁止法は適応されませんでした。
R版差し替え済み
R版の完成分はここまで、以降はマイペースに修正していきます
アタシこと巳原ユイは、友人Aである。
友人Aとは出しゃばらない、かといって場合によっては役立つかもしれない、そんな立ち位置。
アタシが誰にとっての友人かと言えば――
一人はアタシにとって初めての男友達の下之ユウジという一人の男子だ……ほぼ同時期に高橋マサヒロとも友人になったが、彼もまた友人Bぐらいかと思う。
アタシがオタクになろうと思い、コミュニケーションの輪に入った先に居たのがユウジだった。
そいつがオタクになる前を知っているが、なんというか基本的には温和だがやる時はやるし、熱くなる時はトコトン熱くなる……不思議な人間だった。
それが悪いとは言わない、むしろアタシはそういうユウジの元来の主人公っぽさに憧れて居た節すらあったかもしれない。
でもユウジが主人公を辞めてから少しして、マサヒロ曰くはその頃ユウジはオタクになったのだという。
その時点でユウジという人間は自己主張もクラス単位では少なく、後から加わったアタシとユウジとマサヒロでの小さなグループでこじんまりと過ごしてきたのだ。
だからその時点でアタシ達はおおよそクラスメイトXYZぐらいなもので、もしこれが物語ならば話に影響しないような存在だったに違いない。
しかしユウジだけは違った、ユウジはまだ主人公を辞めきれていなかったのだ。
そしてアタシにとっての友人のもう一人はアタシにとって初めての女友達の篠文ユキという一人の女子だった。
不思議な話はあるもののユウジとは旧来の幼なじみであり、今に至っても腐れ縁の延長線上としても良好な関係を保っていたという。
明るく快活でアウトドアな性格から、クラス内外に多くの友人を持ち、そのギャルゲーから飛び出して来たんじゃないかと言う可愛いビジュアルをもつ彼女は――まるで物語のヒロインのようにアタシには見えた。
時折ユウジと話している場面もあれば、アタシ達のグループに顔を覗かせて一般人レベルの話題ではあるもののアニメなどについて話したりすることはあった。
いい子だと思う、アタシが男なら惚れてたかもしれない、という女同士もありかもしれない……まぁそれは半分冗談として。
そんな二人の友人Aを務めるアタシとしては、きっと二人の愛称は腐れ縁が続くぐらいには相性が良く。
もし、もしも……二人がくっつくものなら、心から祝福できるものだと思っていた。
主人公とヒロインが結ばれるのは、それぞれの友人Aであるアタシは誇らしい……と思ってもいたのだった。
とはいっても二人にそんな意識はないもので、まぁこうして仲の良い幼馴染二人を眺めるのもよいものだと鑑賞気分を味わっていた――そんな時。
姫城マイという子がユウジの前に現れた。
あくまでユウジの目の前にその時現れたのであって、それまでにもユキと双璧をなすような美少女にしてスタイルが良く落ち着いた和風美人ということで男子からの人気も高かった。
そんな彼女がどういう訳かユウジに惚れてしまったようなのだった。
ユウジとユキの関係を見守るスレ管理人としては、正直邪魔臭いというのがアタシの感想で。
でも姫城さんもまたユウジとの相性はある意味では良さそうに見えて――それがなんだか面白くなかった。
よくアニメやマンガやラノベで「どうして主人公はこっちとくっつかなかったかな!?」と思うことがある。
いわゆるアタシの推しヒロインが主人公に選ばれず、事実上の失恋と共に別の選択を主人公が選ぶというもの。
アタシはそれを現実と照らし合わせる、主人公を辞めきれなかった男子と二人のヒロインにおける奪い合い。
そしてアタシが応援するのはそれまでも良い関係に思っていた主人公とユキの組み合わせだった。
だから今の状況が、あまり喜ばしくないことは良く分かる。
姫城さんは積極的にユウジにアプローチをし、それにユウジも揺れ動かされ……それだけでユキが何とも思わないのならアタシだって諦めきれたかもしれない。
だがユキはどうやらそんな二人に触発された結果――ユウジを幼馴染以上に、腐れ縁も関係なく、異性として意識し始めてしまった。
そしてそんなユキの矢印は、鈍感気味なユウジに届こうとしていない……それが本当になんだか悔しくて、納得がいかなくて、面白くなくて。
二人はくっつくべき! と内心で熱弁していたアタシからすれば由々しき事態。
人の恋路で勝手に盛り上がるのは無粋の極みだろうし、余計のお世話甚だしいのもわかる。
しかし――ユウジが姫城さんと仲良くしているのを見て、辛そうにしているユキを見るのにアタシは耐えかねたのだ。
でもきっとそれをユイに聞けば、きっと「何のこと?」と言った風に無理をして誤魔化すのも目に見えていた。
そんな二人にとっての友人Aに出来ることととはなんだろうか。
このままユウジがユキの気持ちを知らないまま、姫城さんと結ばれる……それが嫌だった。
だからこそアタシは、アタシらしくなくお節介を焼く――
「ちょっとユキ殿や」
「……え、ユイ?」
アタシはユキを勉強会中に呼び出した――
「ユキ殿の少しお話があるのだ」
「お話?」
「ちょっと廊下に……ふうむユウジに聴かれても困るし。ミナさん、少し二階の物置部屋借りまする
「はい、どうぞ」
ちなみにミナさんにもアタシがここに住んでいるのは内密にして貰っている。
ホニ様にキロリにも一応言ってあって、どうやら二人は部屋に籠っている……気を遣ってくれたのだろう。
それならば――
「じゃあユキ殿参りましょう」
「え? え?」
と、ユキの手を引いて、階段を上がって二階の物置部屋まで連行していく。
薄暗い物置を開けて電気を付けると、アタシは扉を閉めた。
「ど、どうしたの……ユイ?」
「どうしたの――って台詞はユキの方なんじゃない?」
心当たりはあるはずだと思うんだがねえ。
「な、なんで?」
「最近のユキは苦しそうに見える。何かに悩んでいるようにも見えるのだ」
表情も暗いし、見てて居た堪れない。
「そ、そんなこと……」
「――悩みはユウジのこと?」
そう名前を出した途端にユキの表情が変わった、そして明らかにアタシから目を逸らすようになった。
「っ! な、なんでユウジのことなんか!」
間違いなかった。
そしてアタシは、ちょっと卑怯なやり方で――彼女の真意を聞きだしにかかる。
「ユキとユウジと幼馴染だよぬ? それほど近くに居たはずなのに、しかし何故ユウジは――」
「いや、別に、そんな――」
「このまま遠くに行ってしまう、いつの間にか自然に腐れ縁もやめてしまう。例えば――少しの引っ越しをキッカケに一緒の登校が無くなってしまうように」
「っ!」
そう、ユウジとユキは幼馴染にして腐れ縁にして関係もこれまで致命的に悪くなったわけではない。
それでも数年前にユキが町内で引っ越して朝の一緒の登校習慣がなくなったことで、ユウジとの関係は学校でたまに話す程度になってしまっていたのだ。
そこに意図は介在していない、二人もこぞって登校をやめとうと思っていたわけではく――自然消滅、してしまっただけのこと。
それが高校に入ってからしばらくして一緒に登校し始めたのを見て、アタシ的に嬉しいものがあって――
「まだ、自分の気持ちに気付いてない?」
「自分の気持ちって……」
そしてまた関係が強くなっていくように、ユウジもユキのことを時折意識している場面もあったし。
ユウジだってユキを単なる幼馴染としか見ているわけじゃない、ユキにとってもユウジを単なる幼馴染として見ているわけがない。
噛みあえさえすれば、二人が事情を話しさせすれば――二人は何のことはなく付き合っておかしくないのだ。
それが叶いそうにないことが理解できない、考えられない、受け止めきれない。
アタシはともかくユウジとユキが結ばれることを心から祈っていたのだった。
「ユキはユウジのこと、好きなんだろ?」
「!!」
「アタシから見てりゃ丸分かりだよ? 姫城さんに惹かれてくユウジを見ていて……もしや心が苦しいんじゃないか?」
「そんなこと――」
いつもならアタシはふざけたトーンで話すことも多いし、ユキからも「ないない~」のような軽い否定があってもおかしくなかった。
でも今のアタシは本気だったし、ユキもそれを冗談だとは思わないでいてくれて幸いだった―舵手
「苦しい……かも。でも! それとこれは別で、これをキッカケにユウジを好きってどうかは!」
「じゃあ、ユウジと話せて、隣に居れて――楽しかった、嬉しかったんじゃないの?」
友人Aは基本干渉しない、タダのカカシでしかないはずなのに。
「楽しかった……楽しかった。 けど! 友達だから……親友だから」
「それで片付けるならいいけど、後悔しない?」
アタシはらしくなく彼女を追いつめる。
「このままだとユウジと二人、嬉しそうに歩く場所に――ユキは居ないんだよ?」
「っ!?」
「それでいいならアタシは何も言わないよ、でも最近の表情から察するにそうは見えなかったってことよ」
アタシのカン違いならそれでいい、勝手に友人をカップルにして満足しようとしていただけの一人遊び。
怒られたっていい、嫌われても……しょうがない。
それでも、アタシは――
今の泣きそうな表情をしているユイを見て、アタシの考えを否定出来るわけがない。
そしてユキは苦笑しながらも「……なんか今日のユイは意地悪だなぁ」と呟いたのち
「でも、そっか――私はユウジが好き、なんだ」
もしかするとユキが初めて、口に出したのかもしれない――今までは否定していた、それでいて正体不明の想い。
ようやくの自覚、言葉にしたことで後戻りはもう出来ないかもしれない、ユキのユウジへの感情だった。
「おおー、良く言った」
「……強引に言いくるめられた気がするけど、ユイがどうしてそんなこと私に話したの?」
それは――
推しカップルが成就しますように、相性のいい二人が結ばれますように、主人公とヒロインは恋人同士になるべきだとか。
色々理屈や言い訳をしたとしても、根底にはアタシも認めたくはないし納得も出来ないだろうが――
「そりゃ友人の恋路を応援しない者はいないんだZE!」
アタシのなれないヒロインに憧れた。
多少の想いはあってもどうすることのできない|アタシのユウジへの想い《・・・・・・・・・・・・》を、アタシの代わりに叶えてほしいという下心のようなものあった。
ユキがユウジと結ばれることで、勝手に満足しようとしていたアタシが居たのも確かだったのだ。
「……ありがとう、ユイ」
「だから頑張れ、ユキ!」
「うん……そっか、わかった。がんばってみる!」
「その意気ぞ!」
果たしてユキの背中を押す行為は、結果的にユキにいい結果をもたらすだろうか。
アタソの自己満足かもしれないし、はた目から見ればユウジと姫城さんの関係性は良好であり、ユキには分が悪いかもしれない。
それでも願ってしまう、ユキがユウジと結ばれますようにと。
アタシの誇る二人の友人が、二人にとっての友人Aのアタシが二人が結ばれるのを祈るのだった。
あとは――
「なぁユウジ、ちょっといいかえ?」