表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
407/648

第529話 √5-10 より幸せに

 

 そうして俺は物置で喋る鉈と出会った。

 

 自分でも思うが相当におかしい事態というか、もはやこれは夢なのでは、または幻覚の類なのでは。

 アニメにハマるような二次元オタクの側面もある自分だが、まさか現実と二次元の区別もつかなくなっていたとは、知れず訪れていた末期症状だろうか。

 いやだって無機物だよ、日本では物に魂が宿るとは聞くがそれでも発声能力が備わるとはまったくもって考えにくい。


 機関車が喋りだしたり、魔法の杖が喋りだしたりのは画面の中で間に合っている。

 擬人化は創作だから許される、それを現実に持ってきてはNOなのだ。


 そんな俺はある一つの手段を思いつく、この末期症状に気付いてしまった俺の最善の対処と言えよう――


「……見なかったことにしよう」


 俺はその鉈を背に物置を出ようと歩みを進めようとしたその時だった。


『待って待って待って!? そりゃないよユウさん、私これでも長い事待ってたのにスルーとか! 本当に、無いよっ!』


 そもそも鉈が喋ることが本当に無いんだが、そこのところ鉈にどうなのかと聞いてみたい。

 というかこの鉈は平然と俺の名前らしき呼び名で呼んでいるのか、ますます幻覚か幻聴の類を疑いたくなる。


『いやユウさん! 今後私を使う機会があるからっ! ここで持ってってもらわないと予定が……』

「……俺が鉈を使う機会、か」


 なに俺犯罪者にでもなるの、鉈を民家で振り回す事案とか洒落にならないどころか刑務所行きなんだけど。


『置いて行ったら呪うから! 物置からユウさんの名前連ねちゃうんだから!』


 コミカルに言ってるけど呪うとか言い出した……やっぱり関わりたくねえ。


『というか鉈が喋る喋らないって今更だよね』

「いや流石に鉈が喋るのは衝撃すぎるだろう……」

『ここ数か月で妹のような存在が三人増えたり、この家に留学生女子二人ホームステイが決定したり、同級生が車に轢かれかけたり、同級生に殺されかけたりして、それで今更衝撃なの?』


 ……言われてみればそうだ、この鉈が異常に知っていることは気になるが確かに今更かもしれない。

 それに桐も”この世界は現実と架空がハイブリッドになっておる”的なことを言っていたし、鉈が喋っても何ら不思議ではない。


 そういう世界になってしまったのだから、しょうがない!


 鉈の説得もあって俺は内心でそう折り合いを付けた。


「なるほどな、理解した。この世界では鉈は喋るものと」

『いや喋る鉈は私ぐらいだよ、元人間で鉈に転生するのは私だけで十分』

 

 さらっと転生とか言い出したぞこの鉈ァ!?

 元人間……え? 結構前に転生モノがどこぞで流行ったとは聞くけども、その転生とは微妙に意味合いが違くない?


『ちなみに元人間の頃はユウさんと同い年の女の子だったよ!』


 さらさらさらっと、衝撃発言を連発する自称元女の子にして同い年の鉈……だめだもう意味が分からない。

 虚言癖が入っているに違いないと信じたくなるほどに、突拍子もないというか受け入れがたい情報が飛び込み続けてきた。

 ……よ、よし半信半疑ぐらいにしておこう。


「それで俺が鉈を持つメリットは?」

『敵から身を守れます』


 敵って何だよ誰だよ何者だよ!

 やだよ普通の男子高校生にバトル展開は酷だよ。


『それと寝る際には抱き枕ならぬ抱き鉈として』


 薙刀と語感が似てるけどそうじゃない!

 抱き枕感覚で抱きしめたら身体スパスパ切れてベッドが血だらけになるわっ!


『ここに置いておいたらブツブツユウさんの名前連ねて他の家族を不安にさせることになるよ? 本当にいいの?』


 これは脅迫である、まさか無機物の鉈に脅される日が来ようとは思わなんだ! 

 しかしこう脅されてしまってはしょうがない、この家に住んでいるホニさんや姉貴、美優などをこの鉈によって俺が原因でノイローゼを起こしてしまったらと考えると……この鉈に従うほかなかった。

 実際俺以外が喋る鉈と遭遇して正気を保てるかと言ったら厳しいものがある、なにせ俺はアニメでこういう展開に多少慣れているからな!

 免疫の無い者からすれば完全な心霊現象であり、発狂しかねない……ここで俺が処理するというか、対処するに越したことは無いのだ。 


「……分かった。じゃあとりあえず俺の部屋に持ち帰らせてもらうからな、いいな?」

『最初からそう言ってくれればよかったのにー、喋らないナタリー時代はすんなり自室に持ち帰ってくれたのにさー』


 ……なんだろうこの鉈、時折ピンポイントでイラつかせにきている気がする。

 塩水でもかけて錆びさせてやろうか。



 ということで成り行きで俺の部屋に鉈がやってきた。

 喋る鉈こと自称”ナタリー”は俺の部屋のベッド横に布を巻いて立てかけられている。


『ユウさんの部屋ってこうなってるんだー』


 ……時々この鉈が人のように振舞っているように見えるが、目とか口とかはどうなってるんだろうか。

 刃先全体が目だったり、刃を振動させることで発声しているのだろうかと少し考えたが、この”ハイブリッドな世界”で深く考えても無駄だと結論付けるのに五分もかからなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ