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第527話 √5-8 より幸せに

 

 ええとナレーションのナレーターです。

 ところ変わって夕方の同じ町の閑静な住宅街を抜けた先、そこには打ち捨てられた廃教会がありました。

 つい最近まで使っていたので致命的な損壊はないものの、ところどころのガラスが破られて隙間風が吹き抜けます。

 しかし内装が思いのほか劣化していないのは、ちょくちょくこの場所に集う者が綺麗にしているからでもありました。


「――――」

 

 一人の女子が雑巾で教会のベンチに積もった埃を拭き取っています。

 不健康さを疑うほどにガリガリに近いスレンダーな身体と、綺麗にも整った顔立ちと片目を隠さんばかりの前髪の深い緑色の髪に、他人を拒絶するような冷たく沈んだ色の瞳を持つ女子でした。


「やぁY、今日もご苦労様」

「――好きでやってること」

「そうだけどね、一応だよ」


 拭き掃除をしていたところに現れたのは一人の男子こと”S”、細身で中性的な顔立ちをして藍浜高校指定の制服とは異なる学校の紺色のブレザー制服を着用していた。


「よぉ、って掃除なんて無駄なこと良くやってんなY」

「――――」

「ケッ、無視かい」


 そう嫌味を言い無視されたのは体格の良い大男こと”T”、ジャージを着て背中には体格以上の物体を背負い、顔の彫りは深く鍛え上げられた厚い胸板や手足を有していた。

 

「これで全員かな、とりあえず今週の成果だね」

 

 そうSが言うと全員がそこらのベンチに腰をかけて、右手を拳を虚空に突き出した。

 するとその三人の腕が付きだされた丁度中心に、ぼんやりと光が生まれ始めます。


「えーっと、僕が”八”でTが”六”……Yは”二”かな」

「どうしたよ女、少なすぎねえか?」

「――申し訳ない」

「まぁ、謝られても辛いのは本人だからね」

「成果が少ないだけ自分に返ってくるもんだしな、俺らが知ったことじゃねえが……それでもやる気ねえのはムカつくんだよな」

「――――」

「彼女にも事情があるのかもよ? それとも”獲物待ち”だったり?」


 言われるがままだったYがこくりと頷いた。


「――そう、尋常でない力を有した”異”と接触している者を認識した」

「へぇ……尋常じゃないってことは”特A級”あたりかな、大発見だね」

「それで一発逆転狙いってことか、出来るのならやりゃいい。まあ、見つけ次第俺が狩るかもしれんがな」

「――逃さない」

「どっちにしろ僕は数狙いだから、強そうなのは基本構わないけどね」

「女、お前が不甲斐なければ俺が狩ることは覚えとけ」

「――――」

「うんうん、まあそんなところだね。じゃあこれで成果の確認も済んだことで解散かな」

「俺もこれから狩りたいヤツがいるからな、それで構わん」

「――異議なし」

「それじゃ、最後に――」

 

 実質的なまとめ役のSが音戸を取るようにすると、三人の声が重なった。


「「”捧げた我が身は神の御為、全ては神の命ずるままに”」」


 こうして廃教会に集った三人はそれぞれ散り散りに去って行った。



* *


 

 同じ夕方、舞台は藍浜高校に戻ってユウジ達視点へ――


「終わったー」

「お疲れさまユウくん」

「お疲れ様ですミナさん!」


 生徒会が終わり、俺と姉貴とクランナは帰路についていた。

 

「生徒会って色々やることあるんだな……」

「ユウくんやクランナちゃんのおかげで助かっちゃった」

「あ、ありがとうございます!」


 ホームステイ先の実質の主にして、生徒会での上司こと副会長の姉貴をクランナは少なからず尊敬の眼差しで見つめていた。


「ホニちゃんも積極的に手伝ってくれて、それにユウくんもよく手伝ってくれて……お姉ちゃん嬉しい!」

「姉貴一人に任せるのは忍びないしな」


 今年と言うか実質今年度というか、一気に家族の増えた下之家で今まで通り姉貴がほぼ一人で家事をこなすのはなかなか厳しい。

 最近でもホニさんや俺、時折他のユイやクランナにも手伝ってもらう時があるぐらいだ。


「日本式の生活、勉強になります」


 生徒会を志望するぐらいに勤勉な彼女クランナは、余裕が出てきたのか風呂の掃除なども率先して行うようになっていた。

 そんなことを想っているとクランナが寄って来てボソボソと俺の耳元めがけて話しかけてきた。


「……それであの、ユウジ。また料理みてもらいたいのですけれど」 

「ああ、今度の休日にでもな」

「っ! はい! お願いいたしますわ」


 このクランナと言う子は外国から来たのに日本語ペラペラで敬語なものの、ちょっと気持ちが緩むとお嬢様的な口調になってしまう。

 ですわ~、ですの、よろしくて……などなどが出てしまうらしい、少なくとも学校では聞いたことは無く家で姉貴の居ないタイミングに限ったことではあるが。


 それで俺は時折クランナの料理を見ているのだ。

 姉貴は忙しいので申し訳なく、ホニさんにも頼むのは忍びないと、消去法で俺だったのかもしれない。


「次もまた卵焼きに挑戦したいです師匠」

「そうだな、大分上手くなってきたしここで仕上げるのもアリだな」


 そしてこの料理を教える場合はユウジ呼び捨てでなく、師匠となる……理由は良く分からないが。


「そういえばですね、ユウジ。ユイって何か部活動に所属していましたっけ?」

「ユイ? いや、あいつは何も入ってないはずだが……どうした?」

「いえ、今日放課後資料を運んでいたら演劇部の部室から出てくるユイを目撃したものですから」

「演劇部にユイ……?」


 イマイチつながらない組み合わせだなあ。

 ユイが演劇部に用事があるとしたらなんだろうかと、考えても全く思いつかない。

 演劇アニメにでも影響を受けたのか?


「ユイ、何か企んでるのか……?」

「どうなんでしょう、私も心当たりはないのですが」


 そうクランナと話している内に家へとつくものの、ユイと演劇部が結局結びつくことは無かった。

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