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第534話 √5-15 より幸せに

「@ クソゲヱリミックス @」小説家になろうで連載を開始してからちょうど六年経ちました、ありがとうございます

七年目もよろしくお願いします


(こっそり訂正)



 心を落ち着かせる為に少しの時間をおいて俺の部屋に俺と桐とホニさんと、そしてついでにナタリーも集まった。

 先刻までの出来事をこの四人(うち喋る無機物を含む)で話し合い、状況を整理することとする。


「……桐、一つ聞きたいんだがこうなることが分かっていたのか?」


 俺は桐のあの状況での言葉が気になっていた。

 言われるがままに従ったものの「結界の有効範囲は有限」だったり「家に逃げ込めば勝ち」などと、まるで襲い掛かってきた相手のことをある程度認識し対応策も持っているように思えたのだ。


「……それは否定できぬ、しかしわしの口から話せることの制限があるのじゃ」


 桐はさっきアニメで見るような結界も呼び声と共に出現させて、俺たちを守っていた。

 この子は一体何者で、一体どこまで知っていて、どれほどのことが出来るのだろうと疑問が浮かび上がりつつあった。


「意地悪などではなくての、予め言えなくて本当にすまぬな」


 そう桐はあまりにも素直に頭を下げる。

 それがらしくなくて俺は謝られているのにモヤモヤとして仕方なかった。


 実際今回の出来事は衝撃的でこそあったが、脈略もなく唐突過ぎるとは思わなかった。

 これまでに何度か雨澄との異様な出会い方もあった、そして喋る鉈という存在のナタリーの存在もあった……いわゆる”前振り”はキチンと行われてきたのだ。

 そもそもの前提として桐がユキの交通事故回避を理由に話した「この世界が現実とゲームのハイブリッドであること」ものがあり、ゲームが混ざった世界観なら有りえなくないのだ。

 そして今目の前にいるホニさんという彼女が神様であるということ、これまでに神っぽさは感じられないが普通の女の子が自称神と騙っているとはとても思えもしなかった。


 だからこそ俺は発狂することなく、怒りに身を任せることなく状況をある程度は受け入れられつつあった。


『そんなこともあって私が働いたわけですよ、エッヘン!』


 そして今回俺たちを雨澄の矢から守ったナタリーはドヤ顔を……顔わかんないけど、多分そんな雰囲気。

 

『褒めて磨いてくれてもいいんですよ? ユウさん』

「確かに助かったよ、ナタリーありがとな」

『ちょっと取ってつけたようですが良しとしましょう』


 しかしこうは言ったがこの鉈も一体何者というか何物なんだろうか。

 日本では物にも魂が宿ると言うが、無機物が周囲を視認して喋ることの出来る仕組みは全くわからない。


「そういえば桐、とりあえず雨澄からは逃げれたことになってるけど本当に家の中まで入ってこないのか?」

「ああ、それは安心して良い。この家はこんなこともあろうかと外敵の侵入を許さない結界を常に張ってあるからの」


 こんなこともあろうかと……まぁもう言うつもりはないが。

 桐の言い方からして、さっきの結界といい桐がこの家を守る結界を張っていると考えていいのだろう。


「ここは安全だと仮定するとして、俺たちが家に逃げ込む様は見られたと思うんだがそこは大丈夫なのか?」

 

 俺が考えたのは俺たちの住む場所の特定だ。

 いわゆる外で待ち伏せしていればいつでも襲い掛かれるのではないかという懸念だった。


「それもおそらくは大丈夫じゃろう。この家に張っている結界には”招かざる客返し”という機能もあっての。外敵の存在が認定されると結界内では姿形を変えるよう設定されておる」

「はー、えらい便利だな。ありがたいっちゃありがたいけどこっちに都合が良すぎないか?」

「……バトル物のゲームにおいてセーブポイントと安全地帯は大事じゃからな、無かったりあまりにも条件が限られるとプレイヤーがコントローラーを投げかねんから難易度調整が大変なのじゃ」

「ちょっと何を言ってるか分かりませんね」


 いや言ってる意味は少し分かるけども!

 都合が良すぎるのは、ゲームの混ざった世界においてこっちの俺たち”プレイヤー側”への配慮ということなのだろう。

 そんなゲーム製作者の苦悩みたいなこと言われても俺は反応に困る。


「まぁゲームでいうところの詰まないための処置といったところじゃ……あ、あまり深く突っ込むでない」

「そ、そうだな。理解した」


 あくまで不利な俺たちへの配慮であって、決してご都合設定なのではないのだから!

 ……誰への言い訳なんだろうかこれは。


 そのあと桐から別に話された敵についての情報含めてある程度まとめると――


・敵は複数人存在する。

・敵が自ら発生させた空間の中では驚異的な身体能力を発揮でき、武器などを発現させることも可能。

・敵が展開出来る空間の範囲は有限であり、そして時間制限も存在し、展開出来る頻度も多いわけではない。


 ということを聞き出せた。

 ……妙に敵サイドに詳しいのは裏切りフラグとかそういうのではなく、俺たちへの配慮である。


「それで……俺とかホニさんが万が一矢で撃たれたらどうなるんだ?」


 それには俺もホニさんも息を呑んだ。

 彼女は浄化だの言っていたが、いまいちどういった意味合いを持つのかわからない。


「お主が撃たれ、意識を失うほか重傷を負った場合はホニさんに関連したことすべてを記憶から抹消させられて、そして視認できなくなる」

「……っ!」


 俺は驚くほかなかった、ホニさんとの関わりを断つと言うのが彼女の言う”浄化”だったのだ。


「ホニも敵に撃たれたことでの意識の喪失や、重傷を負った際にはこの世界からホニさんの魂含めた人格は消滅してしまう……といったところじゃな」

「ホニさんが……消えるのか?」

「うむ、それはあくまで最低限のことじゃ。しかしホニと体の主の結び付きが強すぎる場合は――いやもうやめておこう、ここまでにしかないかの……?」

 

 桐はその続きを言いたくはないようだった。

 おそらく残虐な真実を知っているのだろう、いくら俺らにとって都合が良いことがあったとしてもこれからのことは決して生易しいものではないのだ。

 でも俺は知りたかったのだ、ここまで聞いて逃げたくはなかった……俺が俺の為にホニさんの為に覚悟を決めて立ち向かう為には。


「桐、最後まで話してくれ……聞かせてくれ」


 そして桐は少しだけ間をあけて頷くと、気まずそうに心苦しそうに真実を告げるのだ。



「ホニの身体ごと空間で消滅させられて、現実には何も残らなくなる」 



 桐の言う通りならば、それは立派な殺人行為だった。


「お主の場合は敵の空間の中ではどれほどにいたぶられても……”死んだ”としても。完全に消滅さえしなければ現実では意識とそのホニに関することを記憶を失っている程度で済むのじゃがな……」


 そこで俺は雨澄の言葉を思い出す。

 浄化にあたっての苦痛は最初だけと、あなたが死ぬことはないと。

 空間の中では例え”死んだ”としても現実俺はで死ぬことはないのだ。

 

 しかしホニさんの場合は違うのだ、もしも。

 もしホニさんが憑いているという元の身体の主と深くつながっているのなら――


「なぁ桐、俺はどうしたらいい?」

「わしはお主を全力でサポートする、じゃがわしはあくまでも後衛であって主戦力にはなりそうもない」

「……その為の鉈ってことか」

『その為の私です!』


 そういうことなのだろう、俺が戦うために与えられたのはこの鉈のナタリーなのだ。


「ようは俺が強くならなきゃいけないんだな」

「……そうなるのう」


 単純明快で分かりやすい、俺が敵の雨澄に対抗できるほどの力を付ければいいのだ。

  

「なぁユウジ、怖いとは思わんのか?」 

「怖いぞ、だがそれ以上に――」


 恐怖がある、空間の中でも痛みもあれば死ぬことだってあり得る上になによりホニさんのことを忘れてしまう恐ろしさがある。 

 それでもそんな恐怖を上回る――


「理不尽のままってのも我慢出来ねえ」


 圧倒的理不尽。

 おかしいじゃないか、なんで俺が神様と仲良くしちゃいけないのか、それで俺が痛めつけられなければならないのかと。

 そしてなによりホニさんが何か俺たちに害することをしたか? 俺の家を支えてくれる立派な人じゃないか、むしろホニさんが居なかったら成立しないまでもある。

 健気で、それでいて明るくて、優しい彼女を排除する理由が全く分からない。

 

 彼女たちは異物だからと決めつけて、理不尽にもホニさんと俺含めた家族とのの関係を切り裂こうとしている。

 それが我慢ならなかった。


「突然現れた得体のしれないヤツらに、ホニさんを奪われてたまるか……!」

「ユウジさん……」


 得体がしれない、何の説明もなければ理解させようとする気もないヤツらに正義なんてあるものか。

 いや俺が正義だろうが悪だろうがどうでもいい、ホニさんを俺たちから奪っていくやつを許さないだけだ!


「ナタリー、俺と一緒に強くなってくれ」

 

 俺はさっきに撤退戦とはいえナタリーの意思によって、ナタリーの身を以て俺たちを守ってくれたナタリーをこれからは信じ頼る。

 与えられた選択肢がナタリーしか今は見当たらないだけかもしれない、それでも俺はナタリーを頼って強くなりたく思ったのだ。


『構いませんよー、ただし手入れはこまめにお願いします』

「分かった、こまめに言ってくれ」

『あとあと時々話し相手になってもらって、もちろん学校の行くときも携帯してくださいね! 私役立ちますから』

「ああ、頼りになるよ」


 そうして俺は決意する、彼女らとの徹底抗戦。

 少なくともホニさんを何の抵抗もなく失うことは絶対にありえない、俺がホニさんのことを忘れるのだって論外だ……だからもしもの時はその時だ。

 そんなもしもの時が無いように、俺は強くなる手段を探る――ホニさんを、俺の家族を守る力と方法を。

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