第523話 √5-4 より幸せに
特に意識してはいなかったものの時間が空いてしまいました
四月三十日
「……ふぁあ」
目をこすりながら手元の置き時計を見ると、五時半。
不思議と寝坊することのない我は体内時計で、きっちり起きること出来るので目覚まし機能は使わない。
我ことホニの朝は早い。
昨日のうちに時間予約をしておいた洗濯機が早朝に動いて、我が起きる頃には家族の洗濯の一部が終わっていて。
下之家は大人数だし、そもそもの洗濯ものも多いけれど女子の洗濯物と男子の……ようはユウジさんの洗濯もので別けるので、一日に何度も洗濯をする。
といっても我は気にしない……というか、ちょっと気恥ずかしさがないわけではないけれどユウジさんの洗濯ものに我の洗濯ものも一緒にしている、ミナさんに桐もそうだ。
あとのユイとかアイシアにオルリスが洗濯は別って、そう思うと丁度半分なのかな? なので二度以上一日に洗濯機を回すことになる。
洗濯物第一陣を取り出したら、すぐに溜まっている第二陣を投入して予約せずに洗濯機の電源をオン!
一番最初に来た時はさっぱり分からなかった洗濯機の使い方も、ミナさんに教えてもらって、それから何度もやっている内に覚えられたんだよね。
学校に行っていない我は、家事ならユウジさんに次いで出来る自信があったり! あ、あれ言いすぎかな?
洗濯もの第一陣をてきぱきと干して、それからミナさんの待つキッチンへ――
「おはようございます、ミナさん!」
「おはよう、ホニちゃん」
我よりももしかしたら早くに起きているかもしれないミナさんはすごい。
家事も、生徒会も、そしてこの家での”お母さん”みたいな立ち位置もこなすのだ、本当にすごい。
……結構前に、ミナさんがこの家から居なくなって神楽坂ミナになった時は目が回る勢いだったから、ミナさんには本当に尊敬している。
「洗濯ものありがとね、ホニちゃん」
「うん! 今から我も手伝うね」
「お願いね」
そうして我とミナさんがキッチンに並んで朝食の準備と、お弁当の準備を始める。
大人数ゆえに食事を仕立てるだけで時間がかかってしまうので、いつも我とミナさんと、今日はまだ寝ているかもしれないユウジさんは早起き。
さすがに毎日早朝起きはダメだと、朝キッチンに立つのは二人以上で、我とミナさん・我とユウジさん・ミナさんとユウジさんの当番の組み合わせ。
といっても一日中家にいて、タイミングを見つけて昼寝の出来る我はミナさんとユウジさんの当番の時も目が覚めて、三人で支度をすることもあったり。
我とミナさんに次いで起床したのは――
「おはようございます、ホニさんミナさん。シャワーお借りしますわ」
「シャワー借りますねー」
「はいっ」
「どうぞー」
我とミナさんと二人に答える。
留学生でホームステイのアイシアとオルリスは毎朝シャワーを使うので、給湯器の電源を入れたりと慌ただしい。
以前は朝シャワーをホームステイだからと遠慮していた二人だったけれど、本当は習慣になっているのでしたと言って最近早起きになった。
シャワーの都合上アイシアとオルリスは六時前には起きていて、それぞれ二十分近くシャワーを浴びる。
起床順としては、一番寝坊するのはユイで、桐も次いで遅めになるのかな。
「おはようホニさん」
「おはようございます、ユウジさん!」
アイシアがまずシャワーを浴び始めて少しして、今日は当番でないユウジさんが起床する。
「朝任せて悪いな」
「ううん! 今日は我とミナさんの日ですから! ユウジさんはもっとゆっくり休んでもよかったんですよ?」
「そうか……偉いなあ、ホニさんは来てばかりなのに」
「あ、ありがとうございます……?」
今のユウジさんと我はあくまでも、一か月前に神石前で出会った関係でしかない。
ここまで下之家事情に出しゃばる我は変に思われていないかなと、いつも不安になる。
「いや、こちらこそ助かるよホニさん」
「は、はい……」
そしてユウジさんは半ばクセのようになったのかもしれない、我の頭をそっと撫でてくれる。
「あ、すまん。つい」
「い、いえ! も、もっとやって頂いてもいいですよ……?」
しまった、つい本音が!
ユウジさんに撫でられていると、癒されるというか、この撫で方は今ままでのユウジさんと変わらなくて安心できるというか……!
「そ、そっか。ならもう少しだけ」
そうして我にとっての至福の時間が、僅かでも過ぎていく――
「じゃあホニちゃん、あとはお願いね」
「任せてください!」
生徒会の為に早くに出るミナさんを見送って、ミナさんから家事や下之家の朝事情を引き継ぐ。
「はいお弁当ですっ」
「ありがとなホニさん」
「ありがたいにゃあ」
「いつもありがとうございます」
「ありがとうございますホニさん」
我がユウジさん、ユイ、オルリス、アイシアにそれぞれ弁当を手渡す。
「いえ、いえ。あとでミナさんにもお礼言ってあげてください」
「ああ、分かった」
「それでは皆さん、行ってらっしゃい」
そうしてほぼ同時刻登校のユウジさん達を見送ると、我と桐だけが下之家の一階にいることになる。
居間に戻ると寝転がって朝のニュースを見ている桐がいた。
「なぁホニよ、わし小学校行く意味ってあるのかの」
「一応行った方がいいと思うよ」
「正直わしの小学生設定って死に設定じゃと思うのじゃが……小学校の描写もないし」
「はいはい、そんなことより髪跳ねてるよ。ちょっと我がやるから身体起こして」
「おおう、すまぬな」
我は桐に対してはあまり容赦がないと自分では思う。
でも何もなければぐだーっとして、時々ユウジさんに絡むだけの桐だからしょうがないよね……家事手伝ってくれないし。
……っていけないいけない、桐はそれでも我以上に何年も十数年も同じ世界を経験しているんだから多少は仕方ないよね。
それに年寄り言葉でもれっきとした小学生だもんね、我もちょっとストレス溜まってるのかなー?
「なんか悪口を言われた気がする、このわしの二十の特殊能力の一つ! 心眼によって――」
「分かったよ、髪結うから待っててね」
ピンチの時には頼りになるんだけどなあ、桐。
それかわ我は冷蔵庫に入れておいた一食分のご飯を取り出してお盆に乗せて、階段を上がっていく。
そして一部は使われていない部屋を通り過ぎた奥まった部屋の扉の前にたどり着くと、さっそくノックをした。
「朝ごはんおいてから食べてね」
そう、この部屋は引きこもりになったユウジさんの妹美優のもの。
以前我が来る前は冷蔵庫に入れておいてお腹が空いたタイミングで美優が降りてきて朝食にしていたものの、我が来たことで降りなくなってしまって。
止む無くミナさんと相談して我が桐の家を出る少し前のタイミングで朝食を持って行くことになったり。
「…………いつもありがと」
扉越しにそんな声が聞こえてくる。
「どういたしまして」
特に我が扉を開けることはなく、美優の部屋の前を立ち去った。
しばらくすれば空になった食器が置かれていて、それを我が持って行き洗うのが恒例になっているのかな。
食器の後片付けや、昨日乾いた洗濯ものの一部を畳んだり各部屋に運んで収納して。
それから洗濯もの第二陣が洗い終わると、洗い終わった洗濯ものを外に干しはじめる。
そんなことをしていると、もうお昼の時間になる。
「今日はきつねうどん♪」
冷凍庫から冷凍うどんと、ミナさんから習った作り方のおあげ。
冷蔵庫の野菜室からネギを取って刻んで、つゆはそばつゆをお湯で薄めてゆで上がったうどんと、刻みネギを載せてきつねうどんの出来上がり!
シンプルで安上がりだけれど、これが我にとっては豪華な昼食になる!
「いただきます」
冷凍とは思えないのどごしのよいうどんに、少し甘めのおあげ! というか我にとっておあげが主食!
おあげ大好き、なんでこんなに好きなのかもわからないけど本当に好き!
本当の一番最初、ミナさんが作ったと思う貢物おあげは最高だった……ミナさんのおあげには敵わないけど、時間も費やして近づいてきたと自画自賛してみる。
「ん~」
美味しいきつねうどんを食べながら見るお昼のバラエティは幸せの時間。
下之家で一人でも、我は割と楽しくやっているんだよね!