OVA PLUS+ 第001話 1-1 ユミジプラス+
新区分で本編の合間にちょくちょく更新予定です
一応学園ラブコメのギャルゲーモノなのに最近はラブコメのラの字も出てこないので息抜きもかねて
時系列に捉われませんので、半分パラレルに近い?
それでもこれまでの番外と違って本編に少なからず影響があるかもしれません
どうもナレーターです。
まぁ私が出てくる時というのは、便利に使われる時だけですね。
ほんと都合の良い存在ですねぇ!
『美優、ちょっと試したいことがあります』
暗闇の部屋、パソコンのディスプレイだけが照らす部屋で携帯ゲーム機のGPAの電源が独りでに入り人の声めいた電子音声が流れました。
「突然どうしたのユミジ」
その部屋の主は下之美優、下之ユウジの実妹でここ最近は自分の部屋に引きこもっています。
『今の私が入っているゲーム機はバックライトが付いていないので暗くて勝手が悪いです』
GPAことゲームポケットアドバンス(名称がいまいち安定しないのは気にしない)はまだバックライトが標準搭載されるGPSPの前世代であって、暗い部屋で遊ぼうとすると全く画面が見えなかったり。
これまでもこの美優の暗い部屋で画面が光っている描写があったけれど気にしてはいけませんよ、決して数年の時を経て今更気づいたんじゃないんですから。
『なので上位機種に移動したいのですが、何か適当なのはありますか?』
「うーん、一応旧型DSGならあるけど」
『二画面のものですね、それが良いと思います』
「う……まぁ最近は使ってなかったしいいけどさ」
美優としてはそのDSGは実のところ思い出深いものですが、断る理由を言い出すことが出来ませんでした。
『ありがとうございます、それではDSGの電源を入れてください』
「う、うん」
そうして美優はDSGの電源を入れました――が、そこで予期せぬことが起きました。
「あ、あれ電源点かない……そういえば充電してなかったし電池切れたまんまだった。ってあれユミジ?」
しかし移動するといった後にユミジはGPAから姿を消してしまいました。
一体ユミジはどこへ行ってしまったのでしょうか?
* *
時折覗くゲーム屋で、欲しかったゲームを中古で安く購入することが出来た。
「ねんがんの ラブフラス をてにいれたぞ!」
ラブフラス、次世代のギャルゲーである。
二画面携帯ゲーム機DSG向けに発売された恋愛シミュレーションゲームで、画面の中に居る3DCGグラフィックの女の子が現実の女の子のように音声認識で接してくれるという極めて画期的なゲームだ。
ギャルゲーマーだけでなくオタク業界を震撼させ、画面の中に彼女を作る人間が続出、場合によってはDSGの中の彼女と二人熱海旅行などと正気の沙汰でない者も現れたほどだ。
俺も興味はあったが人気だった上にDSGの携帯ゲームハードを持っていなかったために、俺はずいぶん出遅れたがようやく手にすることが出来た。
……正確には妹の美優が持ってはいて、共有していたのだが引きこもってしまったが為になし崩し的に美優のものになっていたので中古でDSGも揃えた。
今も人気のあるタイトルだが、次回作が発売された為安く買うことが可能となったのだ。
ゲーム機の充電よし、ソフトよし、発声練習も済ませて音声認識への対応もバッチリだ。
「よし! 起動っ」
そうして俺はゲーム機を起動させ、そしてラブフラスのゲームをDSGのメニュー画面をタッチしてスタートさせる。
するとラブフラスのソフトが起動し、そしてゲームのタイトルが表示された。
「きたー、やっぱこのゲーム開始する瞬間はいいな」
そうして俺が”タッチスタート”をタッチペンでタッチしようとした矢先のことだった。
「ん?」
突然画面にノイズのようなものが走り、二画面が灰色に染まった。
「……マジか」
スタート画面初っ端でバグった!?
確かに次回作が発売されたとはいえ、千円を切る値段で買えた時点で怪しむべきだったか……いわゆる不良品を掴まされるかもしれないということに。
「まぁかなり悔しいが安かったしなぁ……ああ、でも俺の九百八十円……」
そうガックリしていると灰色の画面に変化が訪れた。
その灰色地が白くなっていき、そして人の輪郭のようなものが現れはじめる。
「あれ、バグったと思ったら大丈夫なのか……?」
しかしその画面に現れる人の輪郭は少し違和感があった、というのもパッケージソフトにある三人はまた違ったキャラクターが浮かび上がりつつあるのだ。
それは深い緑の髪色をして長い前髪で顔を覆った藍浜高校の女子制服を着た女子……といっても雨澄ではない別人がそこには現れていた。
『美優、移動に成功しま……え』
「え?」
その画面の中の彼女は俺の聞き間違いでなければ妹の名前を呼んだかと思うと、俺を見て固まってしまった。
『下之ユウジ……なぜあなたがそこに?』
「え……」
なんか俺の名前も知ってるし。
これはもしかして――
「最近のゲームはすげえな、情報収集とか出来るのか」
『はい……?』
DSGは実名をニックネームに登録しているから、そこから俺の名前を引っ張ってきたと考えるのが自然だ。
そして妹の名前が出たのはおそらく俺がプレイするにあたって情報を自ら収集したのだろう。
次世代のギャルゲー侮れないぜ……!
『ここは美優の部屋ではない……ですね、照明が明るいですし』
まるで自分の意思を持ったように話す彼女……ゲームの進化はここまで来たのか、素直に驚くほかならない。
俺は思わずテンションが上がり、彼女と対話してみることとした。
「それで君の名前はなんて言うの?」
『わ、私ですか? ええと……ユミジです』
「へー、ユミジ! 何か懐かしい名前だなー」
俺は更に驚いた。
これは情報収集故か、はたまた偶然か美優と昔にプレイしていたゲームの共同プレイヤー名と全く同じだった。
ユウジとミユを合わせたもので、おそらくはもう何年も経って忘れかけていた名前でもあった。
『それで下之ユウジ、お聞きしたいのですがここはあなたの部屋で間違いないですか?』
「ああ、うん。そうだけど?」
『ということは移動に失敗……? しかしそれがどうして下之ユウジの部屋に……?』
このユミジというキャラクターは自発的にそんな俺には良く分からないことを話しているが、テンションが上がりきった俺は聞き流していた。
確かこのゲームは画面の中の女子と親密度を高めていき、交際まで持って行く段取りのはずだ。
つまりはこのユミジというキャラクターを俺は攻略することになる。
……まぁ桐にこのリアルとゲームの混ざったハイブリッドな世界で女子を攻略せよとか言われてはいるのだが、それはそれこれはこれだ。
しかし良く出来た人工AIというか、相当複雑なプログラミングがされているのだろう、俺には到底仕組みが分からないが。
ここで突拍子もないことを言って彼女がどういった反応するかを確かめてみたかった。
「あのさユミジ」
『は、はい。なんでしょう? 下之ユウジ』
「君のことが好きだ」
なんて言ってみる。
もちろんギャルゲーなら好感度もゼロの状態で告白しようものなら振られるのは定石。
確かに画面の中の彼女に振られるというのは……いや、現実とは別だからそれはそれでこれはこれだから。
今になって自分のトラウマをセルフで抉りに行ったとは思ってないから!
若干気分が沈みつつも、断る言葉を待っていると――
『っ!? な、何を言ってるんですか突然! わ、私画面の中の存在ですよっ!? 私なんか好きになってもしょうがないじゃないですかっ!』
振られて……はいないのか、これ。
というよりも前髪で顔を隠してはいるが、ちょくちょく見える髪の隙間からは顔を紅潮させた彼女の姿があった。
あ、あれ? 思ってたのと違う。
「俺は本気だ」
『え……ええええええええええ』
そうして俺とユミジの少し短い物語が始まったのである。




