第140~141話R √1-15 ※独占禁止法は適応されませんでした。
R版差し替え済み
俺の家での勉強会にあたって、集合場所を学校ではなく学校近くの公園としたのは……まぁ、土曜部活で学校に来ている生徒も少なからずいる中での待ち合わせというのは気が引ける、ということで。
ユイの父親と俺の母親が再婚したことで、家族になり認めたくはないが妹的存在になったユイも一応連れての待ち合わせ場所にやってきていた。
「家でギリギリまで寝てたいぞい……」
「一応俺とお前が一緒に住んでるの秘密にしてるんだから、もうちょい気遣ってくれ」
「えー! それってー? ○○と一緒にいるところ見られると恥ずかしい的なー?」
「まぁ我が家の恥ではあるが」
「ソレジャナイ」
なんてユイと無駄話をしていると――
「やっほー! ユウジユイ」
「やほ」
「やっほーですぞ」
手を振ってやってくる私服姿のユキさんではありませんか。
橙色のノースリーブに丈が長めの藍色の薄手のワイドチノパンツという、残暑だけに上は涼しそうで下は秋っぽいなんともオシャレで可愛らしい恰好でやってきた。
「他の子はまだなんだ?」
「そそ、ユキが一番乗り」
「アタシが一番乗りですぞ」
なんでそんな変なところで張り合った。
そもそも同居してる時点で一番乗りとかいう話じゃないんだが。
「委員長は来ないんだっけ」
「一応誘ったんだがな」
正直大して仲が良いとは言えないものの、勉強会にソロスタディとはいえ参加していた委員長もお招きしていたのだ。
まぁ社交辞令的な意味もあり、正直委員長自体の俺の中での好感度は悪くないこともあって、来ても構わないがむしろ委員長的には困るだろうとも考えていた。
すると――
『まだその域に達していないので』
と、微妙に良く分からない理由で断れてしまった。
……その域に達すると勉強会に来るのだろうか、そもそもその域とは。
と、話している内に――
「お待たせしました」
「実は十五分ほどふご」
「待ってないから大丈夫だ、こんちは姫城」
「こんにちはユウジ様、ユキ、巳原さん」
ユイが「アタシだけなんか他人行儀~」とか微妙にしゅんとしていたが、しょうがない……あんまりユイとマイって接点なさそうだもの。
そしてマイはというと――学校制服であった。
海水浴では他の子の水着に気を取られてよく見れず、夏祭りの時は浴衣は浴衣でベリーグッドだったがマイの私服も見ておきたいという気持ちもあって。
……まぁ勉強会だし、ある意味間違っていないどころか正しい服装だとは思うのだが。
「? どうか致しましたか?」
「いや、なんでもない。皆集まったし、俺の家に移動するか」
「まてまてまてまて! ヒーローは遅れてやってくるものだと相場が――いや、マジでスルーやめて傷つくぞ!?」
一番遅くにくるヤツが悪い、と最後にやってきたマサヒロも引き連れて家に向かったのだった。
そうして道すがらマサヒロとユイはアニメトークをしている中、珍しく混ざって聞き手に回っているユキがいて。
それ以外の俺とマイはといえば――
「ユウジ様のお宅……楽しみです」
「そうか、初めて来るんだもんな」
思えばマイを家に招く、どころかユキを招くこと自体初めてだった。
まぁそもそも俺に浮いた噂なんてこれまで無く、ちょっと浮かれた結果幼馴染相手に大爆死した苦い思い出しが残ってないのだが。
「既に場所は特定してありますし見取り図も想定出来てはいるのですが、やはり内部のレイアウトについて気になります」
「特定済み!? あれ? 俺家教えてないよな!?」
「はい、ユウジ様からは教えられていません――自力で特定しました」
なんか怖い! 比較的温和になってるからいいけど、初めて会った時ぐらいの行動力とか勢いがあったら惨劇になりかねなかった。
というか今思えばいつからか存在して、その内消えた視線の正体がマイってことは見てたんだろうなぁ……俺の通学風景とか。
「まぁそれは置いておくとして」
あんまり置いておきたくないのだが。
「ユウジ様のお宅にお邪魔出来るのがとても楽しみなのです」
「っ!」
そうして笑うマイには邪気の欠片も無く、本当に綺麗な子が魅せる不意打ちの可愛らしい笑顔といったもので。
それにドキっとして言葉を失ってしまうような俺がいて……ああ! もう、なんというか心がかき乱されてしょうがねえ!
「…………」
「……ユキ氏」
そしてその時ユキがどうして珍しくユイとマサヒロの話の輪に入っていたかと言えば。
それは俺とマイとの距離を置く為の行動であり、それを時折じっと見ていたのだと――この時はまた気づきもしなかったのだった。
「みんな、いらっしゃーい」
玄関では姉貴に迎えられた……それも何故か制服にエプロン姿の。
「突き当たったところが居間だから、そこで勉強会な」
「「お邪魔しまーす」」
玄関の床が来客者の靴で埋められていく、まぁドアを開くぐらいの余裕はあるけども。
なんというか……ここまで人が集まるってのは今まで無かったなぁ。
で、そんなことよりも――
「ちょっと姉貴サン」
「なにユウくん?」
皆と同じく居間に向かおうとしたところで引き留める。
「いや姉貴……そのエプロン姿、流石に料理をつくるのには早いんじゃ……」
昼跨ぎと言っても時間はまだ十時ほど、昼ご飯の支度にしても速過ぎるのではいかと。
「ううん、勉強会に参加してるとこから直ぐに料理出来るようにしたいからねー」
「なにもそこまで……」
「ユウくんとの勉強会楽しみだったんだもん~」
……そういえば姉貴も勉強会混ぜてくれって言ってしましたね。
で、皆追って居間に行くことにするかねー
「あとね! 友達のミヤコが制服エプロンは弟君に効くって!」
「効かない効かない」
正直姉貴のエプロン姿なんて見慣れてるから効くわけ……効くわけ……。
制服に、エプロンかあ……確かにこれはこれは……ハッ!
「……皆も待っていることだし、行くか」
「うんっ」
相手は姉貴相手は姉貴……と念じて俺は平静を取り戻しつつ、居間に向かっていった。
我が家の居間は和洋折衷のような作りで、テレビ周りにはちゃぶ台と近くにソファが並んだかと思えば。
キッチン寄りには椅子付きのテーブルと、それでいてガラス戸横には縁側があるという統一感もへったくれもないインテリアだった。
そして椅子付きテーブルに五人+姉貴が座れることも合って勉強会がはじまった。
「ちょっとお茶入れてくるねー」
そうして各自教材を広げ……教材?
「おーい、ユイそれは何だー?」
「あー、保健の教材だ(キリッ」
広げらていたのは大胆というか変態というか……二次元系のちょっとえっちぃマンガが載っているコミック雑誌だった。
もちろんユイ以外の女子勢は一斉にユイ辺りから視線を逸らす、そりゃああからさまに……仕方ないだろうけど。
「これは没収です」
「なして!?」
「ユイ、一応言っておくがな……マンガの描写は大抵参考にならない」
「OH……生々しいことを」
「大体そういうのこの場に持ってくるな、ベッド下にでも隠しとけ」
いつかユイの部屋の掃除に突入したところ、ベッドの下からエロ雑誌が出てきた。
お前は男子高校生かよ、と現役男子高校生の俺が現役女子高生(仮)にツッコミを入れるとは思わなかった。
「何故隠し場所を!? ……ってユウジいいのか?」
「……なにがだ?」
すると微妙に明後日の方向を向いているマイが――
「あのー……隠しとくって言ってた、ってユウジ様はそこまで何故関知しているのですか?」
「あ」
「そ、そうだよ! もしかしてユウジ……」
「いや、そのな」
マズい、バレる、これはヤバい。
確かに変なニュアンスというかなんというか、まるでユイと近くに居て親密なような!
とにかく誤解されかねない発言だったことは分かる、とりあえずはピンチだ……どうか、どうか気付かないでくれ!
「「その雑誌をユウジ(様)が読む為にユイ(巳原さん)に持ってこさせたんだね(ですね)!?」」
「そっちかー!」
心の中でホッっとする俺が――っていやいやいや!
「秘密裏に手渡すはずがミスをしてしまったことで明るみになったのですね……」
「ユイに持って来させたということは、ユイに買ってもらったかもなんだ……」
いやいや、そうはならないでしょ!
「男の子ですからね……」
「男の子だもんね」
「ユウジお前……」
「誤解だ! いや誤解じゃない! いや、やっぱり誤解――」
とりあえずユイの同居の事実に関してはバレなかった、というかきっとこれまでの話題からもギャグの一環だと思われているのかもしれないが。
それにしても二人の発想がおかしい、なんでユイをそんな俺の舎弟みたいな扱いをしなければならないのか、誠に遺憾である。
「なぁ……吹っ切ろうぜ」
なんとも爽やかな(眼鏡をかけていても分かるほどの)表情をするユイの姿が――
「お前のせいだろうが!」
こうして勉強会の始まりは波乱の幕開けだった。
……俺がユイにそんなことをさせていたということなんて屈辱意外の何ものでもないけれども。
ユイとの同居の事実がバレるよりはマシだと思い、悔しさに唇を噛みしめる俺だった。
なにはともあれ勉強会は進む、というか捗っていく。
相変わらずマイの教えてくれる数学はわかりやすい、自分なりに解こうとして上手くいかないことが多々あっただけに本当にありがたい。
そして勉強を本気に教えてくれている姫城は至って本気で、真面目で、真摯なのだった。
そんな彼女は一方で極端な愛情表現などを俺に向けて困らせたりする。
それでも勉強を教えている今はそのタイミングじゃないことを分かっていて……彼女はこう見えて切り替えがちゃんと出来る人なのだ。
むしろ俺はというと姫城の顔を伺って、その真剣な面持ちにドキっとしてしまうぐらいで――
「あっ、姫城落ちたぞ」
教えている内にマイは結構夢中になっている。
それほど真剣に集中して教えてくれるのはなんとも感謝しなければならないだろう。
それでいいて、今回は消しゴムを軽く肘で飛ばしてしまい――
「あっ、すみません」
俺は拾おうとした、その瞬間に――
「「あ」」
彼女も手を伸ばしていたが故に、俺とマイの手が重なった。
なんとも少女漫画からラブコメ漫画まで使い古されたテンプレートな出来事だ。
そう、分かっていても……なんだが……な。
「あああ、すまん!」
「いえ! 大丈夫です! お気遣いありがとうございます! むしろ合法的に触れられて嬉しいです!」
正直俺はガラに無く動揺しまくっていた。というか意識していたせいで過剰反応してしまったのだ。
一方で俺と手が触れられたことによるものか、ガッツポーズをしているマイは平常運行しているのがまた対照的で。
「いや、ほんと、悪い! マイ!」
「ええと、いんですって――!?」
その時の彼女の顔はなんとも衝撃を受けた表情を作る。
さっきの彼女は何処へやらと言った具合に、少し動揺した様子で顔を紅潮させていた。
「え、えと……ユウジ様?」
「あ、あ、なんだ? ひ、姫城」
「ああ、はい!? 今もしかして名前を――なんでも……ないです」
「そ、そうか!?」
というかこんなことで心揺さぶれまくってる俺カッコ悪いな!
落ちつけー、落ちつけー……平常心、平常心――
「あのー、どうかしましたか?」
「!?」
気付くと、俺の顔を覗きこむマイがががががががが!
「ほんと、俺は大丈夫! うん、大丈夫!」
「……そうですか? 顔が赤い気がするのですが……もしかして体調を崩されて!」
「いや、ダイジョブ。本当に!」
「もしかして熱が――」
そうしてマイはあろうことか、熱を測るのは手などではなく――何の躊躇もなくおでこを近づけてきたのだ。
このシュチエーションは……正直ヤバイ、今の俺には無理だった。
「す、すまん! ちょっと部屋に忘れ物したわ! ちょっと行ってくる!」
俺は疾風のごとく、もの凄いダッシュをして取りに行くものなんて無いのにもかかわらず廊下へ出て自分の部屋を目指すべく階段を駆け上がった――
* *
「どうしたのでしょう? ユウジ様」
ユウジの行動についてよく分かっていないマイが首を傾げる中――
「ユウジ……」
何かを察したようなどこか辛そうな表情でマイを見ながら胸に手を置いてきゅっと握りしめるユキの姿があり――
「ふむ……」
そんなユキを眺めながら顎に手を寄せるユイの姿があったのでした。