第005~006話R 1-4 プロローグのプロローグ
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「っと」
周囲の目線を感じて昇降口では流石に手を離す。
ユキも何故かは分からないが、惜しむよう俺の手から自分の手を離した……のだが。
「!?」
さ、殺気っ!?
この明らかに憎しみのこもった視線……複数居るだとっ!
この暑苦しさも感じる視線は女子のものではない……おそらく大半は男子によるものだろう。
じと~~~~という視線を感じる。」
……いや待て! その中でも一際深い呪いのようなものをドロドロに込めている奴がこの中に居るっ!?
怒り? 悲しみ? 羨望? 嫉妬? ……全てが闇鍋のごとくぐっちゃぐっちゃに混ぜられた奇妙な視線。
「(誰だ…………!)」
振りかえると、殺気とは関係のない全くもって意外な人物がそこには居た。
「おにぃーちゃん☆ さがしたんだよー?」
この猫かぶりっぷりからは想像出来ないがどうみても、見かけは完全に俺の妹になったらしい桐だった。
そんな桐が無垢な笑顔を形作ってそこに立っている。
小柄で愛らしいその姿は男にとっての理想の妹を鏡に写したようにも見える。
「ねー、おにいちゃん。聞いてるー?」
……それでいて何故にこいつがここにいるんだ?
「おにぃちゃん私ね、聞きたいことがあるのー」
「……悪い、ユキ先行っててくれ」
とりあえず桐がわざわざこの学校まで来て聞きたいこと、または話したいこと……というのはこの世界のことだろう。
果たして桐との話題を聞かれていいものか分からない以上、ユキを教室へ行くよう促す。
「あ……うん。じゃあ待ってるからー」
少し驚いたように答え、ユキは教室に方へ駆けて行く……これでいい
「ちょっと来て、おにーちゃん」
そして桐に連れられるまま、俺は――
「お、お兄ちゃんこんなところに連れ込むなんて……だめだよう」
「いや連れ込んだのお前だろ」
一階から下の用具倉庫に続く階段の下のスペースで、桐は容姿に頬を赤らめて身体をねじらせながら言った。
「つれないのう、まぁ良い――おめでとう主人公。最初のイベントをよく乗り越えた、わしの見込んだ通りの男じゃ」
「いや、見込むも何も俺がたまたまゲーム起動しただけだろ」
「…………それはともかく」
単なるお世辞だったようである。
「次のイベントも迫っておる、注意するようにな」
「んなこと言われてもな……パターン的には教えてくれないんだろ?」
「もちのろんじゃ。ただ――今度はお主が新しいヒロイン相手に命の危機に瀕すことになる、気を付けるのじゃぞ」
そうして桐はそれだけ言うと「またねー、お兄ちゃん☆」と帰っていった。
なんというか見かけとか声とかによらず割と親切なヤツなのかもしれない。
にしても今度は俺が命に危機に瀕すとは……割とろくでもないゲームなのかもしれない、シナリオライターの顔が見てみたいものだ。
「さて……と」
しかしこれで胸をなでおろすことは出来ない、そう……おれの戦いはこれからだ。
さきほどのユキとの手つなぎシーンやかわいい妹(猫かぶりヴァージョン)を持つ俺を見た男子生徒は怒りに身を狂わせている。
そうリア充シネ。
お前の妹がこんなに可愛いわけがない。
羨ましい、どちらもよこせ。
……俺への嫉妬に燃え狂う男子の刃から身を守りながら、我が教室に向かわなければならないのだ。
「……これはちょっとしたアトラクションだぜ」
そう一人呟いて、一気に勢いをつけて階段を駆け上がる。
「とりゃあああああああっ!」
「はぁ……」
俺は教室に着いた途端机にうな垂れ、盛大にため息をついた。
「死ぬかと思った」
阿鼻叫喚の地獄海図。トラップ満載当たれば即バッドエンド行き、その中を潜り抜けてきたのだが――
語り尽くせないのが惜しいぜ!
……今なら俺がその戦闘シーンを躍動感溢れる文章で原稿用紙三枚は書ける自信があるんだがな。
そして今の出来事も十分死に瀕しているといえばそうなのだが、桐が言っていた『ヒロインの』部分が噛みあわない。
だから今のハイクオリティバトルアクションと別に――俺はまた命の危機に瀕すのだろう。
「ようーユウジ」
軽っぽい男の声が聞こえる。
「よー……」
「どうしたユウジ死にそうだぞ?」
いや、本当に死にそうだったんだよ。
「まぁ気にするな」
「そういえばさーユウジ、最近新しいアニメ会社が出来てな―――」
「へえ、そういうの詳しくないけど。業界も大変なんだな」
こいつ、高橋 政弘
中学時代からの付き合いの悪友二人の内の一人で、完全なるオタクのこいつに俺は毒されたといっても過言ではない。
まぁ俺はアニメにまったく興味がなかった訳じゃないので、完全な被害者とは言い難いけど。
そして――もう一人はというと。
「むむ、今日もお勤めお疲れでありますぞ」
独特というか何とも言えない喋り方をする彼女。
……彼女で合っている。女子生徒なのには違いないのだが……その容姿や性格を見ても色気の欠片もない。
巳原 柚衣
「昨日の”らのべがーるず”は見たかな? 一人コンテ・演出・作画監督・原画とは素晴らしぬ1―――」
ボーイッシュという訳ではない。オタク色に染まりすぎて女性というものを見失った感じだろうか。
女子生徒の着るオーソドックスな白に紺のラインが入ったブレザーに、スレンダーなスタイルにセミショートの茶髪、足は長く肌も白いのだ。
そこまで聞いたらのならそれなりの良いスタイルの持ち主にも見えるが、そうは問屋が卸さない訳でして。
「コンタクトは好かん」と言ってメガネをかけているのだが、それが糞ダサイ。
その眼鏡はというと見事なまでに丸メガネで、さらにグルグル模様まで入っている。どこでそんなもん買ってくるんだよ、と思うシロモノを身につけ、更に――
「マサヒロは昨日の”らのべがーるず”見たか?」
「おー、なんかスタッフロールが一人しか居ないのはふいたわ、HAHAHA」
「あの人は前にも一人回やったからぬ、注目すべきぞい」
「おう、意識してみるぜ」
こいつら何言ってるの? まず俺には分からない。
俺もアニオタの括りではあるのだが、ここまでディープではないというか……面白いアニメは楽しく見る!
それだけで、声優も「可愛い声してるなー」とか「いい演技してるわー」とは思うが、中の人まで興味は沸かないような浅い具合である。
それでもこの三人でアニメトークしているのはなかなか楽しいものがあり――
「そういえばお前はまたユキさんと登校したのか」
そしていきなり話題が変わった。
「あ、まあな」
「むむ、なんというギャルゲの序盤展開」
いや……ギャルゲだから。
さっき”中学生時代からの付き合い”といったのをお覚えだろうか。
その通りの話なのだが、考えてみてほしい。
この世界はギャルゲーの内容で書き換えられたはず、今までの日常の要素がここまで残り、こいつらといつも通り話せているか、桐が言っていたことなのだが――
『そしてこの世界はギャルゲーと現実のハイブリッドな世界じゃ』
つまり今まであった日常こと”現実”に”ギャルゲー”びキャラやシナリオを繋ぎ合せたハイブリッドな世界。
その結果としてギャルゲーのヒロインは登場するも、今までの人間関係に変更は出ていないと考えていいのかもしれない。
「本当お前ユキさんと中学時代から仲いいよな」
……ただ、辻褄合わせのために周囲の人物の記憶が書き変えられているようだ。
勿論ユキは世界の書き換えによって生まれた存在で、中学時代から仲が良いというのはありえない。
ゲームの設定が影響しているのだろう。そのせいでかなりややこしいことになっている訳だけど……そんな違和感を持つのは”この世界の正体”を知る俺ぐらいなのだろう。
「そのユキさんはいずこへ?」
「あっ、ごめんユウジー」
教室の扉付近から聞こえるユキの声。
「噂をすればなんとやら」
ユキが話している俺たちの方へパタパタと駆けてくる。
「……そういえばさ、さっきの……い、いきなりあの手を繋いだのにはどんな意味が……あったのかな?」
などとモジモジしていうのは可愛いのだが、クラスの中で言わんでください。
「ユウジ貴様、抜け駆けたな!・」
「なんと! 既にルートは確定しているのかっ、裏山ですぞ~」
案の定ややこしくなったな……とりあえず。
「いやたまには手、繋ぎたくなることあるじゃん?」
ぶっちゃけ自分では”ないな”と思っているのだが。
幼馴染相手というか、まして恋人同士でもあるまいし、思春期まっさかりで手を繋ぎたくなるなんて――精神が追いつめられ、よっぽど人恋しくないと無理である。
「一理あるぬ」
ねえよユイ。
「あの繋がった時に感じる相手の汗! たまらねぇ」
……それはマサヒロお前が汗フェチなだけじゃないか?
「う、うんまぁ……あるっちゃあるけど……」
え……ユキもあるんだ
まあそんな他愛のない話題で盛り上がり、そうしてホームルームの始まりのチャイムが鳴る。
「……ユウジとたまに手繋ぐのも悪くないかもね」
そしてユキは俺にそう耳打ちしたかと思うと自分の机に笑顔で向かっていった。
……惚れてまうやろ?
……おっとここで俺の紹介を少しだけ。
下之祐二
容姿普通、学力普通、性格普通を決め込む……はずだったが、見事にオタクの道へまっしぐら、ちくしょい。マサヒロやユイとつるんでいることが多し。
そして最近になって、何故か俺はゲームの主人公になってしまったようで。