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@ クソゲヱリミックス! @ [√6連載中]  作者: キラワケ
第十五章 テガミコネクト
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第518話 √4-33 テガミコネクト(終)

??月??日



 この病室に人が訪れることは少なかった。

 入院したては毎日のように来ていた両親も、今では月一回来る程度。

 その月一の邂逅が、決して濃密な時間というわけではなく。


 あくまでも近況報告、医者にこう言われただの、こっちはこっちで事業が軌道に乗っただの。

 そこに親子の温かみある会話は殆どなかったかな。

 いつからか私は諦められていて、私を惜しむ気持ちも薄れていったのだと思う。


 別になんとも思わなかったわけではないけれど、仕方ないなとも私も諦めて。

 少しだけ体調が良くなって学校に行けることになった時は、親も喜んでくれた。

 結局学校に行けたのは入学式だけだったけどね、でもあのたった数時間でも高校生の実感を得られたことは嬉しかった。

 学校の制服に袖を通せたのが幸せだった、ああ私これでも女子高生なんだなって。


 私のいつも薄手の病衣を着ていて、飾り気もありもしない、可愛さのかけらもない、淡白なものを身にまとっていた。

 両親が置いていくファッション雑誌の中で着飾る女の子たちに幻想を抱いたことも何度もあった。

 でも私はこれらの服を着ることは出来ても、外を自由に出歩けないから、意味がないことだと思って着ようとは思わなかった。

 装いをそれっぽくしただけで中身の身体はとても弱いままで単に虚しくなるだけだと、分かっていたから。

 

 文章の中の私はおしゃれだ、最新のメイクもブームの先を行くファッションを着こなしている。

 文章の中の私はとても強い、ふと悪者をなぎ倒してか弱い女の子たちを守れる。

 文章の中の私は活気に満ち溢れている、いつも前を向いて未来を見つめて、今日を謳歌している。


 現実の私は、そんな文章を書くだけ。

 書いたところで誰も読むことのない、単なる落書き。

 学校には殆ど通えなかったけれど、その分時間はあったから色んな本を読んで勉強も出来ていて、物足りなさを感じて書きはじめた。

 

 テレビで見たこと、雑誌で見たこと、漫画で読んだことで文章を勢いで書いて。

 書き終わった時には僅かな達成感ののちに、自分の行為の無意味さを実感してその書いた文章を破り捨てる。

 それを繰り返していた、資源の無駄も甚だしい。



 それが変わったのは六月の初めだった。

 きっと私が学校に行けるのは一日だけだからと、色々と考えた結果、入学式の日に自分の机にとあるもの仕組んだことがキッカケ。


 それは、手紙だった。

 私の書いた、誰ともしらない人への手紙。

 その手紙を読んだ人に、返信してほしくて書いた手紙。

 

 けれど、正直私は期待なんてしていなかった。

 だって誰とも知らない者の手紙をまず拾い上げて、読むまでが奇跡だ。

 封を開けることなく捨てられてもおかしくない、または例え読んだとしてもなんだこれとやっぱり捨てる未来。

 無理だと、意味のないことだと分かっていたはずなのに。

 それでも私は、ほんの少しだけ期待していたんだ。

 誰かが私の手紙を読んで、それに返してくれて、あわよくば文通が始まるような、そんな夢物語。

 まさしく今まで私が文章に書いていたようなメルヘンな、ファンタジーな展開。


 叶うはずないと思ったそんな夢は、六月の初めに返信が帰ってきた。

 決して美麗とも言えない字だけれど、手書きでこの筆圧具合は男性だろうか。

 中身は非常に真面目で、まっすぐな性格が現れているかのような文章だった。

 万分の一の確率ともいえる、メルヘンでファンタジーな展開が現実のものとなった。

 

 浮かれて、色々と酷いことを書いた。

 初めての文通相手だからと、加減が分からずにとんでもなく失礼な言葉を連ねたと思う。

 それでも彼は返信を止めることはなくて、私の”ワガママ”である小説も毎回連載のように送ってくれた。

 その小説は日常の中に驚きが満ちた、エキサイティングな作品だった、男性が書く恋愛バトル小説。

 暇だからといつか読んだライトノベルにも似た、それでいてところどころに現実感のある不思議な作品。

 私は数日ごとのその作品の続きを毎回心待ちにした、読んでいる時はワクワクして、あとで読み返しても新しい発見があった。


 きっと私の人生で一番かもしれない、充実した日々だった。


 小説の主人公は一度失敗して全てを失うも、次はそうは行かないとやり直しに賭けて努力をして、奮闘をして。

 どうにかヒロインと幸せで平穏な日々を勝ち取った、けれどその日々は続かなくて、静かに訪れる別れ。

 最後に送ってくれた手紙は原稿用紙に換算すると何十枚にも及ぶものだった、大作だった。

 ラスト一文字まで、少しだけ視界はぼやけつつも読めたのは幸運だったと思う。



 その小説の感想を返す為に手紙を書くほどの手の力が残っていないのが、不運でもある。


 ああ、ごめんなさい。

 面白かったと言えなくて、感動しましたと言えなくて、自分勝手でごめんなさい。

 本当は返信用の手紙を書いたけれど、あまりにも字が酷過ぎて、自分でも読めないから送らなくてごめんなさい。



 せめて彼と会えたらと思う。

 けれど、それは叶わないし、望まない。


 だって私の身体は骨のようにガリガリで、髪の毛はところどころ退色してマーブル模様みたいになってて気持ち悪いし。

 彼にガッカリされたくない。


 でも心の中には彼に会いたいという気持ちがあった。

 文章越しだから話せることは少なかった、だけど対面ならどうだろう。

 私の話したいこと、聞きたいことがたくさん話せて聞けるはず。


 それでも私に彼に来てという勇気はなくて。

 だからきっと会えないままだとも理解していた、期待もしていなかった。


 だけど私はやっぱり諦めが悪くて。

 白馬の王子様のように、私を迎えに来てくれる……ってのは違うけれど、会いに来てくれることを夢に見ていた。


 

 やっぱりその夢は叶わなかったけれど。



* *



六月十九日



 それは彼に手紙を出した翌日だった。

 間隔的には明日来るであろう手紙が今から楽しみだった。 

 いつものように手紙を読み返している矢先のこと。


 ドアが看護師のコツンコツンとしたノックと違って、どこか力がこもったようなノックのあとに思わぬ声と名前を聞くことになる。


「失礼します、下之ユウジです」

 

 下之……ユウジ?

 それって、確かと読み返していた手紙の主の名前を確認すると――下之祐二だった。

 つまりは、どういうこと!?


「っ!? え、なんで、ちょっと――」


 待って、本当に彼なの?

 いつか会いたいと思っていた、手紙の主のあなたなの?

 

 待って待って待って!?

 私髪はボサボサだし、服もいつも通りの病衣だし、なによりガリガリだし会わせる顔がないのに!

 あああああ、どうしようどうしようどうしよう!


 そうパニックに陥っている間に扉はすべて開ききり、藍浜高校の男子制服に身を包んだ青年が姿を現す。

 ……なぜか松葉杖を付いた、重傷で。 


「え……えっと、大丈夫ですか?」


 私は想わず彼の状態を気にしてしまう。

 憧れにも等しかった彼が、何故か大怪我をしている上に、私の病室を訪れてきた。

 もはや意味が分からなかった。


「……あんまり大丈夫じゃないかもしれない」

「ええっ!?」

「とりあえず……っと」


 そして彼は松葉杖を付いて私に寄ってくると、何をするのかとつい身構えてしまう。



「続きの手紙届けに来ました」



 そうして少しだけしわの付いた手紙を私へと差し出したのだ。

 

「は、はい……」


 呆然と手紙を受け取って、広げると――そこには彼の文字があった、彼の文章があった、彼の手紙越しの性格があった。


「どうせなら本人に直接感想を聞こうかと、来てみた」


 そう彼はにっと笑うのです。

 その彼は確かに記憶の中にある、入学式で私に視線を向けたかもしれないという、少しだけ幼さを残した優しそうで真面目そうな顔立ちそのものでした。


「……そ、そうですね。少しだけ読む時間をください」


 私はふつふつと嬉しさがこみ上がってくるのを感じる。

 これほどに舞い上がるようなことは、返信の手紙が初めて来た時以来かもしれない。

 

 彼の文章はいつも通り面白くて、ホニさんは可愛くて、それからそれから――


「えっとですね。まずは――」


 それから私たちは二人束の間時間を過ごす、手紙の内容を話したり、彼の学校のことなども話してくれました。

 少しして看護師に捕まえられて連行されていく下之さんの姿には、ちょっと笑ってしまってごめんなさい。

 


「ありがとうございます、下之さん」



 私はそう彼にお礼を言った。

 せめて、直接言えればよかったのだけれど……あとでまた来てくれるといいな。

 その時の私はきっと満面の笑顔で居れたのだと思います、涙一つない嬉しさに満ちた表情だったのだと思います。



 これが私にとって最後の、最高の思い出になったのです。

 


三年越しの完結です……本当に申し訳ないです

書きたいことは書けましたが、ここに至る過程が無茶苦茶なので時間があったら修正しようかと思います


それでは次の話でお会いしましょう

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