第516話 √4-31 テガミコネクト
いつものように朝起きると、俺の腰の上には二人の女の子が乗って俺の顔を覗きこんでいる……まるでギャルゲーのよう。
「……起きたな、ユウジ」
「ぐすん……起きました、ユウジさん」
そこには明らかに不機嫌な桐と、涙を流すホニさんがいた。
寝起きという設定ではあるが、俺は失敗した世界をやり直して時を遡ったばかりであり、意識は覚醒したままだった。
と言ってもさっきの教室に居た記憶はあっても。
ところどころの記憶にボカシの入っていて思い出せないようになっている。
覚えているのは俺が中原さんと会うこともままならないシナリオの強制力に絶望し、死を選んだこと。
そして夢の中の少女……名前は思い出せないのだが、その子に俺はある提案をしたということだった。
「……悪かった。桐、ホニさん」
俺はまず謝った。
「許さん」
「ごめんなさいっ!」
そして両方の頬をそれぞれが平手打ち。
桐とホニさんによるビンタはなかなか効いた――
それから俺はその自殺を選んだ”言い訳”をした。
あくまでもその選択肢しかなかったとしても、すべてを放り投げて逃げて、ちゃぶ台を返して台無しにするだけの死と言うものは言い訳でしかないのだ。
「……確かにわしは彼女に会ってはダメとは言ったが、よもや空間的に行けないようになっているとは」
「どうすればいいのかな……」
しかし桐の反応は意外で、桐は病院に俺が絶対に行けないということ自体は知らなかったようだった。
「シナリオの強制力そのものは以前からあったが、今回はちと厳密すぎる気がするのう」
「やっぱり神楽坂の世界が影響しているのかも……」
「神楽坂?」
「ああ、ユウジは知らなくて当然じゃ」
「はい、仕方ないことです」
「?」
神楽坂と言う聞き慣れない固有名詞というか……名前なのだろうか? それが影響してるってなんぞや。
しかしそれを疑問に思い聞く場面でないことは理解していた。
「……ごほん。とにかくお主はアオに会いたいのじゃな? そのために世界をやり直したんじゃろ?」
「ああ」
「ふむ、それで考えはあってのことか?」
「一応あるっちゃあるんだが――」
正直自信がない、俺のその行動も結果的にまた変化してしまうのではという疑念がある。
「我は反対だよ! ……って言いたいところだけどね、ユウジさんその為にやり直したんだもんね」
「わしとしても、反対したいところではある。実際かなり際どいと思うのじゃが……成功するかは微妙じゃの」
しかし彼女らは俺の意見を全否定しなかった。
「もしやるなら、私も神パワーは惜しまないよっ!」
「わしも少しぐらいなら空間に干渉することも出来るじゃろう、わしの二十ある特殊能力にある”空間改ざん”で!」
「協力……してくれるのか?」
「「ユウジ(さん)がやるなら仕方ない(です)」」
そう彼女らは口を揃えて言った。
「ありがとう……桐、ホニさん」
「ユウジさんのお役に立てるなら!」
「最近鈍っていたところじゃった、特殊能力の肩慣らしをするのも悪くない」
俺のその計画を認めてくれた上に、更に彼女たちは俺に協力してくれることを申し出てくれたのだ。
「日程はどうするかの」
「出来るだけ早い方がいい、中原さんの手紙の文字が乱れ始めたのは亡くなる一週間前ぐらいだった」
「ということは……あと五日ぐらいかな」
「ギリギリにすると分からないから、あと二日でその計画を実行できるぐらいが望ましいかな」
「ふむ、分かった」
「うん」
そうして三人で計画を立てていく。
その計画は、計画と言うにはあまりにもシンプルすぎることで、それでいて危険が伴う。
「ならタイムリミットは――転ぶ練習が必要じゃな」
そう、俺のこの計画は骨の一本・二本を犠牲にする必要性があるのだ。