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@ クソゲヱリミックス! @ [√6連載中]  作者: キラワケ
第十五章 テガミコネクト
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第514話 √4-29 テガミコネクト

 返信が届かなかった。

 俺の夢に見たホニさんと桐との物語をすべて書ききった手紙を送ってから十日が経とうとしている。

 

「……よし」


 俺は病院に行くことを決意した。

 




 桐にそう言われた、だから今までそうしてこなかった――という訳ではない

 俺は何度も病院に行くことを試みた、だがそれはいつも徒労に終わるのだ。

 まるであれは『来るな』『行くな』と警告するように、俺は病院にたどり着けない。

 地図通りに行っても、病院の建物が見えるのに辿り着かない、道だって間違っていないはずなのに。

 

 それを思い出しながらも、俺は走った。

 万が一に賭けて、もしかしたら、病院に行けるのではないかと。

 ある種の予感、確信があったのかもしれない。

 しかしそれと同時に、最悪の結果に行き着くのではないかという疑念も頭に渦巻いていた。





 想いが通じたか、俺は病院にたどり着くことが出来た。

 俺が病院に行けることが許されたのは何故か。

 嫌な予感がする、悪寒がし始める、まさかそんなことはないはずだと自分に言い聞かせて。

 それを思考する暇も惜しんで、俺は案内カウンターに詰め寄った――



「中原アオさんは――」



 その案内カウンターでしばらく、内線か誰かと何かの確認を取った後に話されたのは。

 彼女が亡くなった旨だった。

 十日前のことだという、六月末に容態が急変してそのまま息を引き取ったということだった。


 俺はその事実をすぐに受け止めることは出来なかった。


「…………」


 病院の廊下にただ茫然と突っ立っている青年がいる。


 頭の中が真っ白になった。

 少し前まで手紙を介して話し、関係のあった人が亡くなったのだ。

 その事実を認識するまでに時間を要した。

 容姿は特徴をうっすらとしか覚えていないし、声も知らない、文章と文章を交わしただけの赤の他人。

 

 しかし彼女は亡くなってしまったのだ。


 物心ついた時には父親は亡くなっていたので『死』の実感を覚えることもなく過ごしていた。

 たった今、この時に知った『死』は体中の鳥肌を立たせた、顔も土色になっているだろうし、小刻みに震える。

 悲しい、怖い、悔しい――色んな感情が混ざり合って、自分でも驚くほどに気持ちが悪い。


 手紙の返信が来ることは永遠に有り得なくなってしまった。





「君が下之さん?」 

 

 気づくと俺の目の前には若い看護師が立っていて、俺の名前を呼んでいた。


「はい、下之ですが」

「そっかー、君が下之さんか。私は中原蒼さんの担当だった白河と言います」


 俺は未だぼんやりとした思考の中で彼女を見るのだが、ふと見覚えがある気がする。

 そして看護師の白河さんもまた俺の顔を凝視してきていた。


「下之……こういうこと聞くのも難だけれど、下之さんって以前にここに入院したことあったりする?」

「はい、確か数年前に」

「えーっと……階段から落ちて頭打ったりとか?」

「え、なんで知ってるんですか?」

「あー! あの時の下之さんかっ! 私担当看護師だった!」

「……マジですか」

「いやー、偶然だねー」


 そんな風に白河さんとの予期せぬ再会と、その彼女の明るさに俺は救われた気がしていた。





 俺は白河さんと話す為に、自販機のある休憩スペースまでやってきていた。 


「コーヒーでいいかな?」

「ありがとうございます」


 素直に白河さんにおごってもらった、ここで遠慮するのも違う気がするし。


「というか、ここまで来て言うのも難なんですけれど……俺って彼女の接点って手紙ぐらいしかなくて」

「十分あると思うな、中原さん君から手紙が着始めてから凄い楽しそうだったよ? それに……もしかすると手紙越しとはいえ、最後に私たち以外と言葉を交わしたのは君が最後かもしれないし」

「え」


 俺はそれを聞くと、両親はお見舞いに来なかったのかと考えてしまった。

 すると彼女は一枚の手紙を差し出す。


「これ中原アオさんが持っていた、君宛ての手紙なの」

「俺宛て……ですか」

「書きかけだから、出すのも違うと思うし……親御さんの了解も得て、あなたが来たら渡すことにしていたの」 


 俺はそれを受け取り、看護婦さんの話を聞きながら手紙を開いた、そこには――



『お手紙、付き合ってくれてありが』



 彼女らしくない歪んだ文字で、そう書かれ文章は途切れていた。

 ありがとう、と書こうとしてくれていたのだろうか。


「中原さんが手紙を書く時はいつも嬉しそうだったわ。きっと君は彼女の支えになっていたんだと思うよ……ありがとうね、下之さん」


 手紙から顔を上げることが出来ず、それでも看護婦さんは言葉を続けてくれた。

 脳裏にその光景がイメージされる、入学式に見た色薄な彼女が、手紙を書いている光景を。


「いえ、俺は……」


 むしろそれぐらいしか出来なかった。

 白河さんが言うのが本当ならば、彼女の元に見舞いに行っていた人間は少なかったのかもしれない。

 もし俺がシナリオの強制力が無くて行けたらと思うと、悔しくて仕方なかった。

 俺が行ってやれば喜ぶとまでは想ってはいないし、もしかしたら彼女がそれを望まなかったかもしれない。

 

 それでも俺は、何度も行こうと考えたのだ、行きたいと思ったのだ。

 だがそれは叶わなかった。

 

 俺は自然とベンチを立っていた。


「……それじゃ、俺」

「っと、付き合ってくれてありがとね。どうしても彼女と付き合いのあった下之さんにお礼が言いたかったんだ」

「いえ、こちらこそありがとうございました」

「それじゃあ、私は仕事に戻るね」


 そう言うと白河さんは足早に去っていく。

 中原さんのことがなければ、以前俺が入院したときのことも話せたかもしれないが……それはそれで俺にとっては良い思い出ではなかった。

 

 なによりベンチを立ってしまったのは、自分の中でかなり苛立ちが渦巻きはじめていたからだった。

 このまま話してたら――白河さんに八つ当たりしそうだったのだ。


 シナリオの強制力がなければ、会いに行けたのに。

 ゲーム通りだからなんだ、それを順守して何になる?


 面白いのか、楽しいのか、都合がいいのか。

 本当にくだらない、馬鹿馬鹿しい、頭がおかしいとしか思えない。


「…………くそ」


 俺は俯きながら帰路につく、とてつもない喪失感と、時間が経つにつれ増す『死』の実感を心が支え切れないからなのかもしれない。


「ねえよ……こんな終わり方なんて」


 もし出来るならば俺は彼女と会って話がしたかった。

 会った瞬間に「好みじゃないです」と言われても、それでも「いや、そう言わずにね」と手紙のことを話したと思う。

 実は手紙の主なんです! と言って「幻滅です」と言われても「いや……なかなか傷つくよ!?」と返して「じゃあ、また」とほんの挨拶だけでも良かった。 


 だから俺は何度も病院に向かったのだ。

 そしてはじめて病院に行けたのが今日、そうして彼女はここにはいないのだ。



 ゲーム的にはこれが正しい終わり方なのかよ。



「……ふざけんじゃねえ」



 ふざけんな、ふざけんな、ふざけんなふざけんな、ふざけんな、ふざけんなふざけんな、ふざけんなあああああああああああああ! 

 

 俺の意思を無視する、この世界に怒りを抱き始める。

 いいじゃないか、会いに行かないシナリオがあったとしてそれを考えずに彼女に会いにいって何が悪い。 

 彼女と話そうとして何が可笑しい、彼女の顔を見ることの何が許されないのか。



 本当に……本当に。



 この世界には絶望した。







 

 そして、俺はふと思い出す。

 それは夢のことだった。

 中原さんに書いた手紙の中身、俺と桐とホニさんとの戦いの物語。

 

 その話の中で俺は”一度死んでいた”。

 アロンツに敗れ、目の前でホニさんや桐が痛めつけられていくのを目に焼き付けながら死に絶えていく。

 さすがにこれは中原さん宛ての小説では描写せずに、倒されてゲームオーバーのような表現に変えた。


 俺が死んだあとはどうだったか。

 死んで何もかもが終わったわけじゃない。

 知っているようで知らない、学校の教室の空間に居て。

 そして前髪で表情が多く隠れた彼女に選択を提示されたはずだ。


 きっとシナリオの強制力によって”シナリオ通り”に話が終結したこの世界は、きっと終わりを迎える。

 彼女が亡くなって、こうして看護師に彼女のことを聞いて、そこまででゲームのシナリオであり、正規のエンディングなのだろう。

 

 なんだよ、そのクソゲーは。


 そんなクソみたいな方法で迎えたエンディングのどこに感動がある?

 台本通りに作った世界のどこに自由はある?


 だから考えてしまったのだ、俺は一番最悪で最低のことを。



「そうか、なら死んでやり直せばいいんだ」


 

 それは亡くなった中原さんへの冒涜でもあった。 

 それでも一度思ったことを曲げられる気はしなかった、一時の怒りで、一時の後悔で、俺はどうにかなってしまった。


 夢に見た通りだと、きっとこのまま時間が過ぎればこのシナリオは終わるのだろう。

 正規エンディング、お涙頂戴のシナリオ。


 シナリオが終わり、世界が終わる前に――俺が終わって、やり直せばいい。







 

 そして俺は、走った。

 思い切り車道に飛び出してやった。

  

 面白いように車が突っ込んできて、俺を撥ね飛ばした。

 激痛のあとに、身体中から血が流れていく感覚と、周囲の悲鳴を最後にフェードアウト。


 そして俺はあっさりと事故死した。

 あっさりと春の初めに幼馴染のユキを事故死させようとする、このクソみたいなシナリオをリスペクトしてやったんだ。



 シナリオとやらは、俺の行動を責められないはずだぜ?

 



ー GAME OVER ー

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