第513話 √4-28 テガミコネクト
六月二十九日
私にとっては一日が貴重だった。
そんな一日が過ぎていく、薬を飲んでも抑えきれない痛みで永遠とも思える苦痛の時間が過ぎていく。
昨日手紙は来なかった、二日ごとに届いていた手紙は昨日届かなかった。
それが一日遅れて届いた。
その手紙の量は今までの比ではなく、書くのに時間を要した結果だと私は理解もしていた。
けれど、私には時間がなかった。
「あぁ……」
視界がぼやけていく。
あと少しで読み終わる、今はホニさんと主人公の別れのシーンで、あと文量的には後日談の内容のはずだった。
必死で読んだ、最終的にどうにか目を凝らして無理やり読んだために彼の小説に秘めた真意をくみ取ることは出来なかったかもしれない。
けれども――どうにか読み切った。
「……はぁ」
読み終わったあとに訪れるのは、達成感と寂寥感だった。
ああ、これでなんとか読み切れたという感動と、物語が終わってしまったことによる寂しさ。
なんとか私の身体は持ってくれたらしい。
「返信しな……いと」
ペンを取ろうとして取り落す、それを繰り返す。
なんとか握れたとしても――その手の震えは文字を書けないまでになっていた。
だめだ、もう手は使い物にならない。
せっかく最後まで読めたのに、面白かったですという感想を言いたいのに。
でも身体はもう無理だと訴えている。
「ああ、面白かったなあ」
決してハッピーエンドとは言えないけれど、救いのあるエンディングだった彼の紡いだ物語は、私に生きる希望をほんの少しの間でも与えてくれた。
ホニさんがいなくなったあとの、陽子ちゃんと主人公の会話が印象に残る。
『……でも私はこのホニさんが守ってくれた命を大切にするつもりだよ』
『素晴らしいものだったんじゃないかな? ホニさんにとってのこの日常が、ユウとの日々が』
『俺にとっても素晴らしいものだった。ホニさんとの毎日はな』
全てが失われたわけではない、結末。
それが私には嬉しかった、逆に新しく始まる主人公と陽子ちゃんとの関係が明るく楽しく思えるほど。
「ありがとう……ございました、下之さん」
そして神様ありがとうございます。
この手紙を読み終えるまで、なんとか私をここに居させてくれて。
もう……大丈夫ですから――
六月三十日
私の視界は真っ暗に染まっていく。
別に目をつぶったわけでもなく、何かに覆われたわけでもなく――
すっと、口から何か空気のようなものを吐き出したかと思うと意識がプツリと途切れた。
それが、私の、終わりだった。