第137~139話R √1-14 ※独占禁止法は適応されませんでした。
R版差し替え済み
八月二十日
「ユウジどう? 日焼けしてるー?」
「お、おう……境界線くっきりだな」
なんて、ユキは夏休みを経て健康的に焼けたことで生じる、服に隠れていた部分と肌が晒されていた部分で生じる日焼け境界線を無防備に見せて来る。
正直俺含めた高校生男子には目に毒キノコなのだが、本人意にかえすことなく臆面無い表情だけにフェティシズムを刺激されましただなんて言えるわけがない。
「…………」
そんな俺とユキの場面を嫉妬――ではなく、なんだか羨ましそうに遠くから見つめるマイの姿が目に入ってしまった。
正直劇的な出来事ではないにしろ、何故かやたらとそのマイの挙動が気になって仕方なかったのだ――
夏休み中の登校日が終わり、俺は家に帰って自分の机で”姫城マイ”という一人の女の子について考える。
俺が彼女を認識したのは教室で、彼女の物を取り落としてしまった時だった。
最初に綺麗だと思った、清楚で落ち着きがあってスタイルも良くて――美女だな、と。
しかし彼女は俺に愛の告白したかと思えばまさかのヤンデレ属性持ちだった、それより前に感じていた視線の正体は彼女だった。
――そして俺を殺しにかかったと思ったら自殺しかけた。
色々俺らしくないことを言って彼女の正気(?)を取り戻させたことで、告白の撤回を経てひと段落したのだった。
そのあと彼女は至って普通に、なんのことはなくごく自然なやり方で俺と関係を築こうとしてくれていた。
いわゆる友達から、それから少しのスキンシップもありつつも彼女という人間を俺は知っていくことになる。
俺が苦手だった数学の勉強を嫌な顔せず教えてくれる、夏場には皆の体調を案じてか飲み物を持ってきてくれる、お礼だってちゃんと言うし挨拶もしっかりする。
いい子なのだ、ただ思うに時折思考が極端になる子なのだ。
だからこそ俺を殺すか・自分が死ぬか、他の女子に俺がセクハラをしたら自分をも……というように。
果たしてこれは単なる性格だと片付けることが出来るのだろうか。
俺としては彼女の人格形成においてなにか出来事があったのではないかと邪推する。
それに、彼女は自分の……その、胸を触らせることはあれど肌は殆ど見せない。
まぁ淑女としては何も間違ってはいないし、肌を見せろと言いたいわけではない、ガードが堅いというのは悪いわけじゃない。
ただ――それがあまりに徹底してることが気になってしまうのだ。
そもそもの制服も丈が長めなものを着ている、それだけではなくユキやユイから耳にした話によれば優等生なはずのマイが水泳授業だけは一度も参加しなかったということ。
そして海水浴に来て一人だけ水着を忘れたことで、果たして本当に忘れたのだろうか――最初から水着になる気が無かったのだろうかと、深読みしてしまったのだ。
「姫城……マイか」
そんなことを考えたところで、彼女はギャルゲーのヒロインであり創作上のキャラクターでしかない。
何をそこまで俺は真剣に考えているのだろうか……いや、確かに桐の言う通りなら彼女を攻略しないとこのクソゲーが終わらないことに違いはないのだろう。
だからもっと打算的に、ゲームを・ヒロインを攻略することを建前に、彼女との関係を進めるべきなのかもしれない。
「なんだろうなぁ」
ただギャルゲーのヒロインで言えばユキの方が好みなのだ、もう一目でこれは好きだと思った、付き合いたいと思った。
確かに姫城さんは綺麗だし美人だしスタイルも良いが、やっぱり独特なキャラクター性で少し躊躇してしまう。
でも、今の俺は――これほどまでに彼女のことを考えている。
彼女の謎を解きほぐそうと記憶を探っていると、出て来るのは彼女の胸の感触……はおいておくとしても。
勉強会での真剣な面持ちで俺の勉強を見てくれる姫城さん、海水浴で一緒にかき氷を食べた時の憂いを帯びた表情をする姫城さん、夏祭りの時の「デートみたいですねっ」という純粋な笑顔の姫城さん。
彼女との場面が沸き上がってくるのだ、それを思い出してはなんだか――幸せになれるような、そんな気もして。
どうやら俺は相当姫城さんを意識しているらしい。
「マイ」
なんて、名前で呼んでみたりして……ねえな。
まだ彼女とそこまで深い仲ではないはずで、まだクラスメイトにして友人止まりだ。
でも内心で彼女をマイと呼ぶのは何ら問題ないだろう、ただなんとなく……なんとなくだが。
「ああ……」
果たしてこの感情が、どういったものなのか分からない。
友情から来るものなのか、それとも関心から来るものなのか――はたまた恋愛感情か。
そしてそんな感情の動きはギャルゲーのヒロインにおける主人公だからなのか、それとも……。
「あー、モヤモヤする」
結局結論が出ないまま、その思考はほかの関心にまた流されていく――
九月二十四日
「飽きた」
「はぁ?」
「学校で勉強するのあーきーたー」
「あっそう」
男がゴネるだけで、これほど気色悪く不愉快だとは……。
今日は二学期中間試験に向けてのテスト勉強をしていた、一週間ほど前から始め、十月の初めのテストに向けて勉強している。
それでいて春の中間試験・夏の期末試験と同じように授業中や成績からの担任の信頼を盾にして放課後、クラス教室をテスト期間は貸し切らせてもらっている。
たまに委員長も来るのだが、今日は来ていなかった。
来る日来ない日で法則性があるかは知らないが、どうやら週の半分ほど俺に言ってから勝手に机を借りて勉強している。
で、今日はいつものメンバーでの勉強をしている。
ちまちま……というかすごい速度で勉強を進めていたマサヒロのシャーペンが止まり――先程のようなことをほざいた。
「だってー、ずっと教室なんだぞ?」
「俺が交渉して手に入れたこの空間にケチ付けるのか」
担任からの信頼無ければ、この教室貸し切りなんぞ許してもらえんだろうに。
「ああ」
こいつ!
「ならマサヒロ退場な」
「またぬー」
「ということで、高橋君ばいばい」
「お疲れさまでした」
「誰も引き留めようとしてくれない!?」
そんな人望存在しない。
「悪かった悪かったよ!」
そうして男の癖してやすやすと土下座してやがる……土下座なんてする事態を考えられない俺としては侮蔑の目で見下ろした。
『転校生ヒロインの土下座したお主が何を言うか』
「っ!」
ちょっと最近音沙汰なかったとはいえ思考に割り込んでテレパシーするのやめろ桐。
「……でも、まぁ高橋くんの言う事もちょっとだけ少しごくわずかに一ミクロンぐらいは分かるよね」
「分かるのか!?」
まさかのユキさんの擁護に少しばかりのショックを受ける俺、といってもほぼマサヒロが全否定されたようなぐらいにしかちょびっとしか考えてないニュアンス。
……まぁ、確かに勉強以外じゃ何もすることが無い上に、同じ場所でずっと勉強というのはマンネリなのかもしれない。
「じゃあ他に勉強出来る場所とかあるか?」
「そうだねー……うーん。あっ!」
そんな簡単に思いつくものなのだろうか、そんな都合の良い場所なんて――すると、ユキさんは俺をズビシと指差して。
「ユウジの家!」
まさかの提案!
「えっ」
「ユウジの家か、確か居間が広かったよな?」
……マサヒロの言う通り元旧家だけあって居間だけでもゆったりとした作りでこの数人余裕で座れる程に広いですけども。
「ああ、アタ……ユウジの家の居間は広いぞ!」
「「…………」」
ユイ、さりげなく口滑らすな!
……かと思えば誰もがスルー!? 今さらっと自分の家の居間が広いとか言い出したのに、誰も関心を抱こうとしない!
「ユウジ様の家……ぜひ行ってみたいです!」
「ユウジの家、行きたいなー」
「いやさ、姉貴に許可取ってないし――」
姉貴ならきっと、どうやら最近俺がクラス女子と仲が良いことを面白く思っていないからこそ断ってくるはず――
『明日? いいよー』
「なっ……!」
電話越しのまさかの反応に驚く……!
『学校もお休みだし、勉強することはいいことだよ!』
「えー」
『その代わりにお姉ちゃんも混ぜてね?』
「いや、いいけどさ……」
『お昼ご飯とかいる?』
「聞いてみる……えーと皆さん、姉貴がお昼は食べるかって?」
「と、いうことは……」
「まぁ、姉貴は良いっぽいが……」
「「やったー」」
「しめた!」
「アタシは自分の家から動かないから楽だぬ」
するとマイとユキがハモった上にハイタッチ、やっぱり君たち知らぬ間にすごい仲良くなってない?
そしてマサヒロがガッツポーズを、そしてユイも隠そうとしない同居の事実をいくら話そうと誰も反応しない……なに? 実は俺にしかユイの声って聞こえないとかそういうのなの?
ともかく、それから皆に聞くところによればお昼跨ぎ希望ということで――
「じゃあ、俺の家……分からない人も居るだろうから学校近くの公園集合で」
「「わかったー」」
ということで自宅での勉強会開催が決まったのだった。
しかしギャルゲーの主人公とハイブリッドしたとはいえ、クラスの美少女二人をお招きすることとなろうとは……世の中分からないものだ。