第522話 √5-3 より幸せに
それは夢の中。
現実と架空の境界、曖昧な世界、とある教室
「なぁ、中原」
「何でしょう、ユウさん?」
「……中原がしたいことってこれなのか」
「はいっ」
「私も巻き込まれるとは思いませんでした」
「ユミジさんもそう言わずに」
私の願いは何かというと――
「……私はお邪魔ではないでしょうか」
「ついでにユミジさんも学生気分味わいましょうよ!」
学生ごっこ。
私が生前は叶わなかった、学校での普通の学生を疑似的に体験するというもの。
小説の中では私は学校でもかなりのモテモテっぷりだった……今思うと悲しくなってくるけど、そんなロールプレイがあの時の私には楽しかったんだ。
「俺が男子生徒役で」
「私が女子生徒役ですか、流石にこの展開は予想外でした……」
私を鉈に転生させる上での条件提示、まずはこの教室に下之さん……もといユウさんを呼ぶこと。
そしてついワガママを言ってみたら叶ってしまったのが今回、ユウさんからは言質取ったし、ユミジもそこまで否定はしないと踏んで言ってみた。
ついでにユミジを問い詰めて、下之さんの呼び名で他の誰とも重複しない呼び方を考えて”ユウさん”を生み出し、実際にそう呼ぶことにした。
ほらホニさんはユウジさんだったり、ユミジは下之ユウジだったり、結構みんな変えてるから私もね。
「言いたくないけどよくユミジも付き合う気になったな」
「それは……彼女に貸しがありますから」
「何か言いました?」
「「いや(いいえ)」」
二人で内緒話らしきものをしていたので聞いてみるけども、はぐらかされた。
……この二人割と怪しいよね。
「そういえばユウさんとユミジさんってどんな関係なんですか?」
「俺とユミジ……どういう関係なんだ?」
「私に聞かないでくださいよ……」
そう聞いてみるとユウさんも単純に疑問に想い、ユミジさんに至っては困っているようで。
「そもそもユミジさんって何者なんですか?」
「ストレートすぎるだろ中原!」
いや、だって気になるし。
「…………なんと言いましょうか、物語の観測者と言いますか」
「いやーそういうのじゃなくてですね、私の勘的にユミジさんとユウさんって並ならぬ関係がありそうで」
「そうなのか?」
「だから私に聞かれても」
思いのほかこの二人はアレな関係ではないようで、それにしてはユミジさんのユウさんに対する対応がこなれているというか。
まるで親しい友達のような家族のそれの雰囲気さえ――
「そういえば俺ユミジのこと知らないんだよな、ここはついでに教えてくれないか?」
「ついでって……」
「私も知りたいです!」
「……はぁ、勘弁してください」
ユミジさんには悪いけれど、こんな複数人での何気ない会話が私にとってはとても楽しいもので。
つい手紙でユウさんに生意気なことを書いてしまったように、私はなってしまって。
でもその手紙の返信でユウさんに遠慮しなくていいって言われたから、私もぐいぐい行くよ!
「へー、ユミジさんの名前の由来ってユウさんの妹さんと名前組み合わせたものなんだ」
「そうそう、二人であるゲームにハマってな。二人でする為に二人の名前をもじってプレイヤー名作ったんだよな」
「ということはユミジさんってもしかして妹さんだったりとか!」
「あー、引きこもりの美優が昔のプレイヤー名使って俺と話しかけてると……ちょっと、いいな」
「良くないです良くないです勝手に妄想しないでください、私と美優は別人格ですし行動もすべて別です」
「本当ですかー?」
「思えばユミジは、俺の妹からツンを抜いて成長させたような性格してるしな……なるほどな」
「ちょ、勝手に納得しないでくださいよ――」
そんな風にユウさんとユミジさんを弄りながら時間が過ぎていく。
それはまるで私が本当に普通の学生になれたような時間だったんだ。
疑似的な学生間の会話を出来ただけで、私は自分の選択が間違っていないのだと思い始めていた。




