第502話 √4-17 テガミコネクト
キーンコーンカーンコーンと授業終わりのチャイムが鳴ると、数学教師の山田がやっと終わりか、と言わんばかりの面持ちに教室を去った。
生徒の一部怠惰な人含め、彼らにとって”良い先生”である。
なにせ休み時間を長くとれるのだから、授業授業の合間でカードゲームやらガールズトークやらに花を咲かせられるのだ。
以上、ユイのお意見。
一方、勉強に勤しむ勤勉な人らにとっては、休み時間にはみ出してでも内心鼻息を荒くしながらノートや黒板と教師とをにらめっこする。
特に授業でキリのいいところで終わらないと、かなり不満だという。
と、委員長に語られた。
ならばじゃあ俺ことユウジはどうなのかと問われるかと言えば、両方である。
時と場合による、授業の種類による、休み時間の重要性による。
そして、今日の場合俺は――
「ユウジ、神妙そうな顔でどうしたんかい?」
椅子に座ってえんぴつの芯ではない方を顎にあてながら考え事をしていた俺を、右手にライトノベルを持ちながらユイが覗き込んできていた。
「え? あ、ああ。ちょっと考えごとだ」
「むむ! ならばアタシが乗ろっか人生相談!」
「いや、そんな大層なものじゃない。というか僕妹ならユイの方が相談してくるパターンだろうに」
原作は読んでないけどもアニメは見た”僕の妹がこんなに可愛らしいわけがない”を人生相談と言うワードでなんとなく思いついた。
それをなんとなく口に出して見たが、意図することは当たりだったようで、ユイはグルグル眼鏡越しににんまりと笑った。
「おおう! 分かってくれましたかユウジ氏! さすがですぞっ!」
「その呼び方やめてくれ、というかその口調イライラする」
「ではでは、ユウジどのー!」
「普通で! 普通にユウジでいいから!」
なぜ思いついたかのようにテキトーなことを言い出すのか、このグルグル眼鏡は。
「普通って言うなぁ!」
新しい谷さんみたいな声だしやがって!
「はぁ? 普通が一番だろ! 普通に出来ないことがいくらあると思うよ!? 普通イズナンバーワン! シンプルイズベスト!」
「いや、ユウジそういうネタであって……」
「絶望した! 普通という本来のスタンダードが、下に見られる世の中に絶望した!」
「……なるほど、ユウジやりおるな」
と、ここまで時折あるアニメ系コント。
もしかすると何も考えずに、気が抜ける瞬間はこういう時なのかもしれない。
「で、本題に戻るぜい。考え事とはなんぞや?」
はぐらかせたはずが失敗。
いやはぐらかす必要はないかもだけども、どうにもユイからクラス中に伝わりそうなのがなんとも、な。
まさか妄想交換日記してるだなんて言えない。
そこで顔をしゅっと引き締めて、おそらく真剣な表情でろうものをユイへと向ける。
「ユイ……俺さ、話したいことがあるんだ」
「な、なんだ……?」
突然の真面目か! に少したじろぐユイを見て少ししてやったりと思いながら――
「俺……この学校を卒業したら小説家になるんだ」
「なん……だと……?」
嘘だがね。
いや嘘が本当になるかもしれない。
実際物を書くことは好きなのを手紙書いてると再認識したし。
「レ、レーベルは何を目指してるんか!? ジェイエイか? それともギギギ? まさか雷撃っ!」
レーベルを聞くところによると、たいていはラノベのレーベルだった。
自動的にラノベ作家と認識されたか……それはそれでどうなんだろうか。
「まだ考えてないな。とりあえず書き溜めておこうかと」
「いいね、いいね、いいねっ! グッドだよユウジ」
そう瞳を輝かせて俺の手を掴むとブンブンと振るユイ、すごい喜んでるなコイツ……とわずかにだが引く。
「ぜひ応援してくれ」
「うん、うんっ! いいぞー! 読者一号はアタシがもらうぜ」
なぜここまで喜んでいるのか、理由はわからないが。
喜んでくれることに越したことはない。
「じゃあ出来上がったら読んでもらおうか」
「了解! 把握した、楽しみに待ってるぜえ! ジャンルは問わず受付中っ!」
「ユイ嬉しそうだな、俺が書くのはとんだ駄作かもしれないぞ?」
書くのが好きなのはおいておいても、面白い話を作る技術が、センスが、才能があるかは別である。
自分が渾身の作品も、駄作の烙印を押されることも容易にあるのだ。
「なにをいう! 名作も、佳作も、良作も、駄作も全部愛してやんよ!」
ちょっとカッコよかったとは口に出して言わない。
思えばユイはアニメもマンガもゲームも会話中だと時々文句こそいうが、結局全部揃えたり、読んだり、遊んだりするのがユイだ。
学校に持ってくるラノベは毎日違うもので、ラブコメからファンタジー、四コマ小説まで好き嫌いするイメージがなかった。
すべてのジャンルに寛容である、すべての作品に好奇心を持っている、すべての作品に愛を向けられる。
そうユイこそ、真のオタクなのかもしれない。
それが少しまぶしく、羨ましく感じた。ユイに対すちょっとした憧れをも覚えた。
ユイに自分の作品を読んで喜んでもらいたい、そう思い始めてしまったのだ――
「あ、でもキルユーベイビーは微妙だったかも」
「台無しだよ!」
ということで嘘から出た真か、小説家を目指すことになってしまった俺。
中原蒼への手紙の中の小説を通じて俺は進んでいくのかもしれない。
あぎりさん可愛かったですよね?