第494話 √4-9 テガミコネクト
六月四日
今朝欠伸をしながら新聞を取りに、自宅のポストを開いてみると。
なんと、そこには、まさか、本当に? あの、衝撃的な――
「水道料金の明細ねえ……姉貴に渡しておくか」
人が増えた分、水道料金もちょびっと上がったなあ、と思いながら俺はポストに入っているチラシもろもろをゴッソリ取ると。
パラリと、一枚何かが落ちた。
「ん」
それは白い封筒だった、未だに寝ぼけ眼な為にそれがなんなのか理解が追いつかず、ボーっとしながら玄関扉を締めて中に入ったところで、
「んん?」
これは何かデジャブ……裏を見るとそこには、
「中原……蒼!」
中原アオ、先日――色々あって手紙を送った相手だ。
このご時世にまさかダイレクトメールで文通をするなんて、意気揚揚と手紙を書いて送った後にと冷静になっていたが。
「本当に来るとは」
嬉しい、かな……これは。
返信が返って来る、言葉が返って来る、携帯メールならどことなく当たり前なことがなぜか嬉しかった。
……『文章も構成もなっていません、二十点』とか書かれているだけの可能性も皆無じゃなくゼロジャナイーだろうけども……流石にないよね。
その手紙をズボンのポケットにしまって、チラシ云々を棚上に置き、姉貴に明細が着ていることを知らされると、俺はトイレに籠った。
「いよいよラブレターを読むような気持ちになってきた」
ラブコメで使い古された、隠れてこっそりラブレター読む図。
誰にも見られる事のないトイレという最後の聖域は、家族や友人でさえその牙城は崩せない。
頭上にドーム状の小型な機械が設置されているが、火災探知機だろう。
そうに違いない、そうであって欲しい。
「いざ」
手紙を開くとそこには最初見た丸っこい文字――
『返信ありがとうございました』
いえいえ、構わないですとも。
『プライバシーが叫ばれるこのご時世に、挑戦的にも個人情報まるまる書き込んで返してくれるその心意気、感服いたしました』
「喧嘩売ってる!?」
まさか馬鹿にされるとは思わなかった、というか文学少女像がバラバラに崩れていくんですけど!
それで丸っこい文字で書くもんだから、ギャップで怒る気にもならないという。
『と、いうのは冗談です。気を悪くしたらごめんなさい(テヘッ☆)』
「うざい!」
危うく手紙をゴミ箱ダンクしそうになったところで踏みとどまる。
テヘッ、いらないし! 気分悪くした意識あるなら書くなしいい!
『ならば携帯メールのアドレスを教えてほしい……ふむふむ』
言ってないよ!?
いやまあ、確かに疑問はないわけではないが、なんかくやしい。
『携帯持ってないですし、パソコンも持ってないんですよね、このご時世に』
ブーメラン刺さってる! ご時世ブーメラン刺さってるよ!
『ということで、出来れば手紙で会話にお付き合いしてくださるとうれしいのですが……あ、お付き合いしてくれるんですね、ありがとうございます!』
「言ってないから!」
言うつもりではあったが……それはー、うーん……。
しかし予想外な返信が来たもんだと、別人ではなかろうかと勘繰ってしまうぐらいに。
といっても最初の手紙は短い文だし、色が出ていなかっただけなのかもしれない、またはここ数か月で作風が変わった――
まあ読み続けてみよう。
『では、何を手紙に書こうかと考えていたのですが……思いつきませんでした(笑)』
「(笑)じゃねえ!」
ここまでの振りで、そのオチはないよ!?
『ということで創作小説を次回から披露したいと思います』
「なぜ!?」
なぜ、なぜそこで創作小説!?
分からない……文章越しでも感じるの電波さは、なんなのか分からない!
『出来れば、あなたの面白い話も聞いてみたいです』
無茶振りだー! 無茶振りがきたあ!
面白い話……中学生の頃に姉貴率いる生徒会軍団で職員室を占拠したこと……は違うな。
じゃあ、味噌爆発事件か……それともミユのステーキ風ホットケーキ事故……いやいや、面白い話……面白い話。
「あとで考えよう!」
『……ここまで本当に突拍子もないことばかり書いてごめんなさい』
自覚有ったんだ。
『私には友達がいないもので、どう書いていいか分からないのです』
そうなんだ……。
って、初対面にこんな手紙の時点である意味完成してるよ! 分かってないのこれで!?
『なので、返信楽しみにしています』
…………。
最後の文にちょっと萌えたのは内緒だ。
割と自分は特殊性癖寄りなのかもしれない。
ユウジ、スク水好きな時点で気づいて