第493話 √4-8 テガミコネクト
どうもナレーションです。
ここで突然ですがお便りコーナーの時間です……ペンネームほにがすきさん
『裏方のナレーションがしゃしゃり出るんじゃねえよ、個性を出すんじゃない、ナレーションはナレーションらしく台本読み上げてればいいんだよ』
いやー辛辣なご意見ですねー!
いやはや私も少しばかり苛立ちを覚えますが押さえておきましょう、例え文章にしたところで私の怒りは通わらないことでしょうし。
お便りについてへの返答は、私は”台本しか”読み上げてませんよ?
こうしてこの質問も、私のアドリブに見えるそれも、あなたが誤解したような個性が見えるような描写も。
ぜーんぶ台本通りです。
台本を逸脱すれば<規制>ですからね……ここまでにしておいて、ということで本編参りましょう。
ユウジが手紙を出して、学校で一悶着あった翌々日。
六月二日
白い天井、白い床。
足の付け根までかけられた布団、この季節になるとその布団が少し過剰暖だ。
身体を起こして横を向く瞳の先には、ぴとぴとと水粒の音聞こえる窓越しの景色がそこにはあった。
なぜそれを見ているのか、特にそれは意味はない……というのは嘘である。
「(沢山の雨粒は私、透き通るように景色を反射してまるで鏡のよう、ぶつかって……弾けてロック!)」
ポエム(?)を無表情に考えているのであった、そもそもここはどこなのか。
そしてこのポエム(!)を考える主は誰なのか。
「はっ! ……いけないついつい詩を」
あれが――詩!? ポエムでなく詩! いや文芸は自由だけども! それにしてもファンキーすぎない!?
……おっとナレーションの自分でも少々語気を荒げてしまいましたね、失礼をば。
「退屈だなあ」
起こしていた身体を倒して、仰向けに彼女はなった。
目の前にも見えるのはとっくに見飽きた蛍光灯だというから滅入る、これなら目を瞑っていた方が良いのかもしれない。
瞳を閉じた真っ暗闇の世界で、彼女は妄想を空想を、世界を広げる。
画面越しに見た景色にはいないはずの自分を置いた、理想の想像の世界。
瞳の中ではどんな世界にだって自分は飛べる。
病院歴十周年を晴れて迎えた彼女は眠りにつく。
退色した白髪は、光を反射して銀髪にも見える……が時折混ざって残る黒髪が不純物だ。
七対三でモノクロカラーな、それなりには手入れされている長髪を持つ、華奢で色の抜けた茶色の瞳を持ち幼さ残る出で立ちの彼女は――
「中原さーん、お手紙が届いてま……あ、ごめんなさいね」
看護婦が扉をノックした後に扉を開き、すやすやと寝息をたてる彼女を見て声を抑えて入室した。
起こさないでおこうと忍び足に彼女のベッドの元へとその持っていた手紙を置いた。
「ここに置いておきますね」
そうして失礼しましたーとゆっくりと戸が閉まる。
数時間後にうつろな表情で、手紙を眺める彼女がいた。
「んー?」
なんだこれは、なにがどうして私なんかに手紙が。
何かの勧誘チラシなのか、あいにく自分は病弱っ子なのでハードなことはムリだ申し訳ない、と拒否して手紙を捨てようとした時に。
『一年二組 下之祐二』
手紙……白い封筒の右下にはこう書かれていた。
「一年二組……私が在籍してるクラスだ」
そして彼女はゆっくりと思い出す、一度出席した入学式。
おそらく自分明日は学校に来れないであろう、そしてもしかするとそれからずっと来れないであろうと。
病院の図書室で手紙を貼りつける技術やら、看護師にお願いして物資の調達やらして出来た渾身のギミック手紙!
その日に自分の机の天板裏へと貼り付けて、たった一度だけの一学期出席を終えたのだ。
「しかしなんで今」
思ったより糊が頑丈だったのか、その手紙がどうしたかといえば。
「……って、これ返信!?」
今更気づいた、そうではないか。
ご丁寧にも切手に新しい封筒までこしらえて、私の住所書いた通り送ってくれたということだと!
「すごい……」
こんなことあるんだ!
普通こんな怪しい手紙拾ったら捨てるし、ここまで住所やら個人情報やら書いて逆に怪しいし、切手代が更にかかるし手間もかかる返信なんてありえないよね!
熱烈なユウジに対する皮肉ですね。
「それでは御開帳」
そして出てきた手紙には、また住所ほか郵便番号までご丁寧に。
「(馬鹿なのかな)」
プライバシーが叫ばれるこのご時世にリアル個人情報書き込んで見知らぬ人にガチ手紙……!
くっく……面白い、面白すぎる! 釣り人が大物が釣れた時の気持ちってこんななのかも(笑)
「いや……ごめん」
いくら自分が一瞬でも思ったからって、こんなバカにするようなこと思っちゃだめだよね。
いわゆるツンデレなんだよ、テレを隠す為のこれなんだよ、許してほしい。だって、だってさ……
「まだ手紙も見てないのにこんなに……嬉しいんだよ」
あっちも人が好いなら、自分は易いだろう。
映画の予告篇で感動してしまう人みたい、ちょろいってヤツだよね。
まったくやんなっちゃうよ、あっちというか名前からして……彼?
改めて手紙を眺める、ご丁寧に手紙は二枚。もう一枚は自分が使ったものとは違う色・種類のまっさらな便箋だ。
「…………」
自分の字の自虐やら、まるで番組のお便りのごとく矢印先に振られた住所郵便番号。
文章そのものは短いもので、秀逸なギャグが仕込んであるわけでもなく、見どころはなかった(何様なのかと)
「うん」
なんとなく手紙越しに、微妙に真面目そうな男子の顔が見えた。
そして文通に付き合ってくれるそうだ、物好きだ。これ以上に物好きな人はおるまい。
付き合ってくれるというのはウソで、からかう為に仕込んだドッキリ的なことを想像する。
手が込み過ぎだ、それになんとなく彼はあと一回は最低でも手紙に付き合ってくれる気がした。
「よし」
キャスターの付いた移動式の小タンスを引き寄せ、ペンと封筒を取り出す。
目の前に折り畳み式のテーブルを広げ、筆が走る――
「あの、すみません」
数時間後、体温を測りにきた看護士に彼女は声をかけた。
「この手紙を出したいのですが……」
と言って差し出した先にいたのは、さきほど手紙を届けてくれた看護師であるがそのことを彼女は知らない。
しかし看護師側は事情もある程度察して、
「分かったわ、宛先とかは大丈夫?」
「はい」
「そう、じゃあ出しておくわね」
「お願いします」
そうして看護師は手紙を持って部屋を出る。
出たことを確認したところで、あれ? 誤字とかないよね、大丈夫なはずだ、何度も見直した――と、一人内心格闘する。
そのはずだけども、どことなく不安で。でも、
「届くといいな」
そして帰って来るといいな。
そして彼女――中原蒼がユウジの返信手紙を読むことになるのは四日後のこと。
中原アオは当初予定していたキャラから変更しました。
ここまで病弱だけども内心ハッスルなキャラにはなりませんでしたが、思いつきで修正。
手紙を机の天板に潜ませて返信を待つ、ある種のアグレッシブさは表現出来たかもしれない。
※01:201406に最後の日付を修正