第492話 √4-7 テガミコネクト
舞台学校の一年五組教室ユウジの机付近、背景は雑多の生徒こと雑談に花咲かせるクラスメイト、座る俺を見降ろすように篠文ユキ。
我が幼馴染(ゲームの設定ではあるけども)ことユキは不機嫌さを顔に出しつつ、笑顔で俺の机を両手で『バン』と叩いた。
「ということで、ユウジ! ラブレターを出したという噂は本当なのかな!?」
勢いよく叩かれた教室の視線を一点に集める――ことはなくあくまで話上の演出で、実際軽くはたかれる『パン』という擬音に近い僅かなものにすぎない。
声も教室に響き渡ることなく、内緒話をするときの顔を近かせての小声、ああシャンプーか何かのいい香りがフッと鼻孔をくすぐる。
しばらくユキの余韻に浸りたかったが、ユキの抗議内容を吟味し始める……ラブレターね……はい!?
「いやいや! なんだそれは!?」
ラブレター? この時代にラブレター!? ……と一瞬思ったけど見たことあるわ、姫城さんの靴箱に入ってたわー
時代錯誤も甚だしいことが当学校では行われているのだった、いや時代を先取りしている可能性もないわけではない。
流行というものはループ・輪廻するものだ、もしかするとブームの先駆けとなりうるかもしれない、その革命を我が目で見ることが――
じゃなかった。そうだよ、なぜ俺がラブレターを出したと言う噂が流れているのか、いや果たして本当に流れているのかと思考を働かせる。
本当ならばこんな恥ずかしいこと、クラス中のさらし者になってもおかしくない、こうもクラスの注目が集まっているないのはそういうことだ。
つまりはこの噂が流れているのは友人間の――
「下之君、おはよう」
「あ、おはよう委員長」
ユキ直談判の横から委員長のあいさつが入る、ちょっと助かったかもしれない。
「聞きましたよ? ラブレター出したんですよね?」
「あがぁ……」
バレとる。いやいや、委員長も友人カテゴライズに入るはずで――
「おー、下之ラブレター出したんだって? 俺も通った道だから頑張れよ」
「あー懐かしいわー、個人的には黒歴史だったわ」
「これで彼女が出来ました!」
「意外とシールとか貼ったり端をマーカーで塗ったりするといいらしいぞ、目立っていいらしい」
あまり話したことのない男子生徒からもまさかの応援を受ける、どういうことなの……。
こういう晒しからイジメ的なモノが始まるんじゃ……いや絶対的に望んではないけども!
そして最後のアドバイスはそれ懸賞用だから、信憑性の微妙すぎる代物だから!
「はは……」
「で、真偽は!?」
目が笑ってない、迫るユキには青春的なものとは違う動悸が。
ユキさんが怖いよー!
「ね、捏造です。まったくもって出鱈目です」
「本当? 色々目撃証言聞いたんだけど」
浮気探偵さんなんですか貴人は。
「ポストに投函する浮かれ気味に投函するユウジの姿を見たって」
「私が見ました」
横スライドに視界に登場してきた姫城さん、こっちはこっちで怖い。
なんか感情の機微見るに芳しくはなさそうだしさ!
「ユウジ様が家を出たことと確認して、心拍数を見るに上機嫌であることから自分が動いて観察しに行った結果――」
「ちょっとまって色々聞きたいところが」
「続けます」
「いや、そもそもなんで俺が家を出たことを――」
「続けます」
圧されてしまった俺は悪くない、彼女から怒りとも殺気とも形容しがたいオーラが出ていたから仕方ない。
聞けなかった自分に非はないのだ、確実に。
「表情筋がうんぬん、僅かに歩幅が大きいことから――ラブレターであることを」
「全然結びつかねえよ!?」
「まあ最後は推測ですね」
「証拠の積み立てはどこに行ったんだよ!?」
「それも出任せです」
「安心した! 今俺はかつてなく安堵しているよ!」
「冗談ですっ」
最後の『冗談です(♪が付いてそうな笑顔)』はなんなんだ、そして何が冗談なんだぁあああ!
「本当は『なにかしらの手紙を投函していて、とにかくユウジ様が嬉しそう』な現場を目撃しただけですね、情報はそれだけですね」
よくもここまで膨らましたよ、と内心拍手せざるを得ない。
姫城さん、やはり一筋縄で行かない人間だ……。一方でユキは視線を別方向へと向けた。
「ユイは何か知ってる?」
マサヒロとひたすらギャルゲー攻略タイムアタック(なんだそれは)やっているユイが顔を上げた。
指はしっかりと動かしながらユキの問いに答えようとしている、なんなんだ……マジなんなんだ俺の周りは。
「え? ユウジがラブレター云々? 今知ったよ」
「え、そうなの?」
「その日はひたすらアニメ消化してたからね」
「何見てたの?」
「軌道空母ナタデココかな、レンタルして見たもんで」
「……今度見に行っていい?」
「いいよいいよー」
あれ、ユキってアニメ見るんだ? てか微妙に世代がズレてるアニメじゃないのか、いや面白いけども!
と、ここまでユキがユイが来訪の約束を取り付けて――
「ってオイイ! ユイ、その約束――」
「ユウジ、実は同居の事実バレてるんだ」
「ええ!?」
今まで時間差登校や弁当内容を変える努力をしていたのは一体……というか何故バレた!?
「いやあユウジそれはバレるよ、この町に学校は一つだし、この数日で誰も目撃しない方がおかしいよ」
ですよねー、ほんのちょっとだけそうなのかしれないと思ってしまった。
教室で驚愕の事実とばかりに告白しても、皆大袈裟に驚くだけなのだろう。なにせこの町・学校・生徒は全部ノリがいいからな――
いや、説明付かないよ!?
「アタシが教えたわけじゃないい? 姫城さんが速攻で知ってたんよ」
「はい、ユウジ様がユイさんと同居している事実は突き止めていました」
「なんで分かったんだ?」
一応細心の注意をしていたんだが――
「匂いですね」
そっかー……もうツッコミは入れないぞ。
「ユイさんの制服からユウジ様の香りが」
怖い! ツッコミを入れたことで藪蛇になりそうだから尚更お断りしたい!
「で、それだけじゃラブレターを投函したという結論にはならないぞ」
自己弁護のつもりが、よく推理物やらで見る犯人っぽい物言いになってしまっている。
違う、冤罪だ!
「姫城さんの見た投函風景と、私の見たウキウキに帰宅するユウジに――」
そして注釈を入れるようにユキは、
「あとはクランナさんやアイシアさんや桐ちゃんやホニさんから聞いたことを委員長さんが喧伝してたし」
委員長おおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
なにさっきの『さっき聞きました』的なニュアンスで聞いてきたのはなんだったんだよ!
結構な裏幕じゃねえかぁっ! てかどんだけ情報を有しているんだ彼女は!
「クランナさんとアイシアさんは大きな情報ではなかったけど――」
情報の伝達としては、ホニさんから桐、なぜか桐が自分の情報とホニさんの情報を組み合わせて委員長に届く、他に生徒会からの福島経由で――などと。
ホニさんから桐は分かるとしても、なぜ委員長に届くんだっ? 生徒会も何故なんだ!? 姉貴か、姉貴なのか……絶対弄られるだろうなあ。
「情報を統合した結果――ラブレターを出したという結論になったの」
「いやそれでも絶対にならないと思うんだが……」
と思った矢先携帯が着信した、なんだろうと開いてみると桐からのメールだった。
いやアドレス教えてないよ? てか桐携帯持ってたっけ――
『from:桐 題名:無題 本文:細かいことはいいよ、さっさと否定してこの話題終われ。
あとわしはお主の書いた手紙内容一字一句間違いなく知っておるし、ゲーム的イベント進行の為に委員長に一部内容を流した』
やっぱりお前かぁー、だよねえ! てかいつもの語尾の「じゃ」どこいった、演技なのと断定するぞ。
そしてメタ的なこと言わないでくれるかね、現実に戻されるから。
ああ、ユキが……こんな可愛い子が本当は幼馴染じゃないなんて、とまあ考えていた時期が前にもあった。
それはここまでにして――
「ラブレターじゃなくてだな――――」
流石にそのまま説明するのも難なので、一部脚色を加えて。
「――古い友人との文通なんだ、ノスタルジックでいいだろ?」
「なあユウジ、アタシから一つ質問だ」
「ん? なんだ」
「その友人の性別は?」
なぜそのようなことを聞くのか、ここは正直に答えて。
「女だが」
するとマサヒロにちょっとまってと手で制止してからポーズ画面にしてゲーム機を置いて。
「今更文通なんてロマンチックな交流は友人でも恋人寄りだからあああああああああああああああ」
『『だよね』』
ユイの心からの叫びにクラスメイト総賛同。
そして途中参加の委員長、ユイやユキに姫城さんなども含めた「弁論・弁明的な何か」が授業開始ギリギリまで開かれていた。
まあ、特に恋愛感情のない交友関係であるなどと説明しひと段落した。
いや、ひと段落しろ。