第491話 √4-6 テガミコネクト
あ、どもナレーションです。
ちょっと今回はですね、真面目にナレーションしてみようと思いまして。
え、結局はお前は誰だって? ふふ、それはですね……ルートcをお楽しみに!
いつになるんだよって? 知りませんよ、制作者に直接電話してください。電話番校は<規制>です、あれ?
まったくなんでも規制すればいいと思っているのでしょうか、言論の自由というものがあるんですよ!?
『それはプライバシー的な意味でダメだと思いますよ』
カランカランとシャーペンが机上を転がる、机の主ははぁと安堵、緊張がほぐれるように溜息をした。
そしてユウジは手紙を書き終えた。時計を見れば始めてからおおよそ一時間ほどの格闘時間だった、上出来だろう。
文字は幸い普通に読める程度だが、どうだろう。誤字があったりしないだろうか、何度も確認したはずなのだけれど。
もう一度読んでみよう、いや音読しよう、声に出せば違和感のある部分も出てくることだろう。とりあえずユウジは発声練習を――
「あー、あー、あぁ!? ゴホンゴホン生麦生米うんたら」
と、この時扉の前を通りかかった桐はというと。
「(気でも触れたのか……!?)」
衝撃的と言わんばかりにのけぞって、ショック体言しながら顔を引き攣らせる。
なぜかといえば、
「(こやつ、まさか声優志望なのか……!? いや早まるな! やめておくんじゃぁっ! そんな、そんな声を酷使する――)」
そこまで思考して桐は、表情を変える。
「いや……自分のことじゃからな、わしのとやかく言うことではないだろう」
桐はそうして<超放棄的処置>を行い自室へと戻っていった、まあぶっちゃけ面倒くさかったんですけどね。
でも心の奥底に、未来に進まない、零時零分を超えられないこの世界で、将来の夢を考えてもどうするのか、という醒めた感情がありもしたのだった。
「――完璧だ、誤字脱字なんて見つからない。もしかすると自分には手紙の才が!?」
誤字脱字が無いだけで才があるというなら、長期に渡って小説をネットに投稿していれば今頃某文庫のドル箱作家になっているだろう。
自信に満ちたユウジは手紙を折り畳み、その時にはっと気づく。
「往復用の封筒と切手を準備しないと」
制限量やら制限重量的な意味で仕方ないのかもしれませんが、なぜ手紙だけなのでしょうか。
これがいわゆる……いわゆる名称的なものがないので! ナントカ商法なのでしょうか、なんと巧で姑息な手段なのかと!
と、言いはしましたが。それだとお話が終わってしまうので無いでしょう、話が続かなければこの世界はどうしようもないのですよ!
ユウジは自室を出た、浮足立って階段下りる。その浮かれっぷり実際に三ミリほど浮いているのでは、と錯覚を受けます。
錯覚なので要は、それほどユウジが嬉しそうというか調子づているというか。本当は誰かも分からない人間からの手紙を机から強奪しただけで、有頂天なんて安い男ですね(笑)
え? なに、これ以上言うと<規制>? 知りませんよ、さっさとナレーション続けますよ。
それを傍目に見たホニはというと――
「(ユウジさんがるんるんだ!?)」
過去最高のるんるんなのではないかと、目を丸くして自室から顔を伸ばして、階段のユウジを見つめるホニ。
ユウジは時々ははっちゃけますが、ここまでのはっちゃけは見たことが無い、この世のものとは思えないようなものを見た表情をしていま――
誇張しすぎだ……ね、誰の為にナレーションやってると思うんですか? バイト料貰っているとはいえ、ふうん賃上げしてくれる? ――まあ続行してあげますよ。
「(なんであんなに嬉しいのかな)」
理由を考えて、石付近にしかいなかったとはいえ長年の膨大な知識の蓄え、ユウジからの聞いたことや、ニュースで、新聞で、昼ドラなどの情報と併せて熟考した結果。
「(持っている紙や、あのるんるんから想像すると……恋文!?)」
ホニは理解した、そして少し悲しくなった。
ユウジさんが女の子と、である。分かっていること、理解した上で自分は記憶を残したのだと。分かっているけど悲しくなるのは止められない、寂しさを抑えきれない。
手を伸ばせば触れられるほど近くにいるのに、ユウジさんは自分のことを嫌いでもないのに、絶対に、もう、結ばれることはないと言う事実がのしかかる。
こう、考えた時もあった。
本当はユウジさんとまた相思相愛になれるのではないかと。
でも考え直した、それはユウジさんの進行の妨げになる。
それだけで一年を無駄にする、我にとっては掛け替えのない時間となったとしてもユウジさんにとっては無駄になってしまう。
我と一部の人以外はその一年間の記憶を失くしてしまう、繰り返しても何も得られないのだ。
だから我は、見守るのだ。今度は我がユウジさんを守るのだと、手助けするのだと――ホニは思っているのだ。
「がんばってね、ユウジさん」
声に出して、それでもそれは儚い声で。浮足立つユウジの背中を少しだけ苦しそうな笑顔で見送るホニなのだった。
ユウジは居間の扉を開くと、ハンカチやワイシャツなどのアイロンがけをしているミナがそこにはいた。
「姉貴ー、切手と封筒はここの引き出しだよな?」
「そうだよー」
ユウジは居間にある小物を入れる引き出しを漁り始める、一分経たぬ間に目当ての品を見つける。
そうして、
「サンクスー」
「どういたしましてー……っ!?」
言いかけたもののユウジは居間を去る、しかしミナはユウジのいた方向直視しながら硬直していた。あれは――
「ラブレターねッ!」
理解が早すぎる、怖い。
でも違う、さっきはツッコミ入れるタイミング逃したけど、今のは恋文でもシゴフミでもラブレターでも記憶ラブレターでもないから。
ただの文通だから、というのはミナには通じず鬼気迫る勢いで(アイロンをしっかりとした動作でアイロン台に起き、アイロンがけしたハンカチを畳むこの間4秒)居間扉を開けた。
「ユウくん、その手紙は!?」
鬼気迫ってる、怖い。
しかしユウジもその可能性や展開を予想していなかったわけではない、そして叫んだ――
「雑誌の懸賞出してくる! そういえば後で姉貴の夕食作り手伝って良い?」
そう、後者の提案で全て吹き飛んだ。
「はーい、投函する時は気を付けてね」
その時ユウジは思った、ちょろいぜ、と。
で、なんでかんだ合って投函した。
そのなんだかんだに、出かける瞬間をクランナに見られる、玄関を出たところでコンビニ帰りのアイシアに見られる。
マイに投函するところを見られる、なぜか浮足立つユウジを目撃するユキ。
なんとほぼフルキャスト、ゲームならでは……どちらかというと二〇〇〇年代初期のラブコメアニメにありそう。
そうして友人間で「ユウジがラブレターを投函」という話題で持ちきりとなる。
ちなみにユイはこの時ゲームに熱中して気づかず、その話題で驚かされたのはこれまた学校でその話題が出た時であった。