第486話 √4-1 テガミコネコト
マサヒロアウトー! 今シナリオより爽やかイケメン二次元だけにしか興味のないオタクの(新)マサヒロとなりますのでご了承ください。影が薄いことだけをネタにしていたアイツはもう消した!
四月五日
晴れて入学式を迎えた俺。
高校生へのワクワク感というのは案外薄い、やはり変わらない面子があるからだろうか。
「ユウジー、無事高校生だぬあ!」
「まあ無事迎えられない方がイレギュラーだしな……」
「アハハ、なんだかんだ僕たち同じクラスで良かったね」
「このメンバーが二年連続で揃うって凄いよね!」
ユイとマサヒロ(新)とユキが始業式後に訪れた一年二組教室で担任教師が来るまでの間、俺の出席番号で指定された席の前に集まった。
中学時代となんら変わらない、変わったのは制服ぐらいでそれ以外は何の変化もない。結構に安心できるな。
「さあ我がクラスのオニャンコチェーック! ふうむ、おっほお! 姫城さんだったかぬ、これはなかなかにクールビューテー!」
「僕は春休みに消化できなかったギャルゲーをやろうかな」
「じゃあ、あとでねユウジ! ナツネー、ハルミー!」
ユイは品定め、マサヒロは相変わらずの爽やかスマイルで自分の席へと戻るとPGPでギャルゲーをし始めた。ユキは女友達の輪に入っていったようだ。
と各々散っていく、まったく賑やかな面々だと思うよホント。
もう少しで担任が来る頃か? などと思って、時間つぶしに教室を見渡していると――
「…………?」
ふと目に留まったのは誰にも話しかけられず、一人ぽつんと座る少女。
肌は怖いぐらいに真っ白で、瞳は淡い茶色をしていて、黒髪に白髪が混じる、儚さと華奢さを体言したかのような彼女。
決して目立たない風貌でないのに、誰も気にも留めない。
そして俺も不思議な感覚を覚える。
彼女はいるのに次第に本当はそこ誰もいないのではないか、と思い始める。
何か突然に関心を薄れさせられるような、まるで彼女のことは忘れろと言わんばかりに。
「おーっし、静まれ座れー」
担任教師が入ってきたところで俺は向き直った。
それから数分経たぬ間に彼女へ覚えた感覚も、彼女の存在も薄らいでいった。
そういえば春休み中に姉貴に相談していたことがあったのだ。
午前で下校するはずだった俺は姉貴と共に生徒会室の扉の前に来ている。
「失礼します――」
* *
あの時覚えた感覚も、あの日みた彼女をそのまま完全に忘れていた。
ただ俺の認識は「名前も知らない顔も知らない女子生徒が始業式を最後に休み続けている」というもので。
実際にその席は始業式以来空席となっていたのだ。
それは雨の降る日のことだった。
窓の外は暗く灰色の厚い雲が覆い、未だ夕方にも差し掛かっていないというのに夜のような薄暗さがあった。教室の蛍光灯がいつもより頼りに思えるほどだ。
じめじめとした梅雨の時期に入っているが為に、じっとりとした夏を予感させる熱気とカビの臭い。
決していい環境とは言えやしない。
俺はそんな中、定められた班で教室掃除を鬱々としながら行っていた。
どうにも雨の降る日は気分が同じように晴れない、どこか気持ちが沈んでしまう。
「おい、下之なんか落ちたぞ」
「あ、悪い」
クラスメイトの男子に顎で、俺が持ち上げ教室の後ろ半分に机を移動させる作業の途中で何か机からモノが落ちたことを知らされる。
一度運びかけた机を下して落ちたソレを見る。
「……ん?」
それは手紙だった。純白のレターボックスの黄色い花柄のシールで口を留められているものだった。
『この手紙を拾った誰かへ』
拾い上げるとそんな言葉が丸っこく読みやすい文字で手紙の表面に鉛筆で書かれていた。さらに底面に接する指につるつるとした感触を感じた。
恐る恐る手紙をひっくり返して改めて触ってみると、
「糊か?」
手紙の口とは反対方向にそれが円を描くようにつけられていたようで、ほかの部分とは明らかに違って光沢を放ち触り心地も固まった液体糊のそれだった。
その手紙が落ちてきた主の机を覗いてみると、そこには何も入っていなかった。机の中を弄ってあったとすれば、机側にもつるつるとした感触。
「……糊でくっついてたのか?」
そもそもなぜに机に何も入っていないのか、置き勉する生徒じゃなくても少しは入っているはず。
そしておそらくは手紙だけ。それも故意のように糊で貼り付けられた。
「下之サボルなし!」
「おお、スマンスマン」
俺はその手紙を何故か学ランのポケットにしまった。
とりあえず机を戻して、教卓に張り付いている生徒の席表を見てみることにした。
その机の主は「中原蒼」
このクラスの女子生徒であり、一度も姿を見たことがない女生徒。
そして手紙を俺はなぜか戻す気にもなれなかった。
それは手紙の表面に書かれた。
『拾ってくれた誰かへ』
という文面が気になったからだ。
学校にやってきていないであろう彼女が残したこの手紙という存在もどこか好奇そそる要素だった。
俺は家に帰ってからカッターでシールが半分になって封が開けられると、中からはなんのそっけもない大学ノートに僅かな柄の装飾を加えただけのような便箋が姿を現した。
二枚そこには入っていて、一枚は文が綴られ、もう一枚は更だった。
これは梅雨に始まり、梅雨に終わった手紙の物語。