第482話 √b-65 神楽坂ミナの暴走!
ユキが降って……じゃなかった。外で雪が降ってやがる。あ~、女の子振ってこないかな~
「私はあなたならユウくんを任せてもいいと思ったよ」
あなたはユウくんに近しくて、ユウくんのことを知ってくれているから。
ユウくんがあなたに好意を寄せているのが鈍感な私でも良くわかった。
ユウくんが幸せになれるなら、私はあなたにユウくんを任せようと思った。
ちゃんと拠り所があれば、私も必要なくなる。
そうすれば心配性のお姉ちゃんは、晴れて弟離れできると。
「でもあなたはいなくなってしまった」
ユウくんを置いて、ユウくんを傷つけたままで。
その周りにいた私やミユも置いてけぼりにして、一人どこかに消えてしまった。
ユウくんの告白に答えを出すことなく、あなたは引っ越した。
その後も音信不通で手紙も電話もくれることはなく、ユウくんの傷を時間が広げていく。
ユウくんが決心して行った告白を無下にするように、侮辱するように。
あなたは、ユウくんを最低の行動で拒絶したのよ。
「憎むに決まってるじゃない」
あなたのせいでユウくんは信じられないぐらいに落ち込んで、今にも消えてしまいそうな背中を私は見せつけられた。
残された私たちは、次第に沈んで行った。
私は堪えたよ? だって、ユウくんとミユちゃんのお姉ちゃんだから、頑張ったよ。
でも心の内ではすべてを中途半端にして消えたあなたを恨んだ、憎んだ
「あなたがすべてを奪っていったの」
私が幼馴染だったのなら、喜んで結ばれるのに。
私が幼馴染だったのなら、ユウくんを心の底から大切にする。
絶対傷つけたりしない、絶対置いてけぼりなんかにしない。
「だから私はあなた、サクラちゃんが大嫌い」
楽しかった四人の記憶を思い出を台無しにするようなことを、あなたはしたんだよ。
あなたが消えてから私の家庭は崩れ去っていった。
ユウくんは無気力に、部屋に籠って呆然と魂が抜けたようにただ時間が過ぎるだけ。
ミユちゃんは泣いて泣いて、私にどうしてと聞いて。
そして、事故が起きた。
ミユちゃんが悪いんじゃない、すべてが悪い方へと向かっていったの。
ユウくんは階段から落ちて、頭を強く打ったらしくてしばらくの間病床で眠り続けた。
その時はまだあなたをそこまで憎んでいなかった、だからまた私の大切な人が……それも一番に大事なユウくんがいなくなってしまうことに恐怖を感じた。
ずっとユウくんが目を覚ますのを待ったよ。自分の気持ちを押し殺して、今はユウくんが戻ってくるように願ったよ。
そしたらね、ユウくんは起きてくれた。でもね、
『え……そんなことあったっけ?』
ユウくんは頭を打ったことで一部の記憶がなくなってしまっていた。
四人で過ごした思い出も、わずかに残るのみ。サクラの記憶だけは鮮明に残され、それをユウくんが思い出す度に。
『はは……俺のせいでゴメンな、姉貴』
辛くて悲しい顔を、ユウくんはする。
それを見るのが苦しくて、そしてユウくんは変わってしまった。
かつてはミユちゃんやサクラちゃんと私が連れまわして「面倒だなあ」と言いつつも付き合ってくれる。
ユウくんはいなくなった。
『いや、俺はいいよ』
学校を終えて家に帰っても無気力に部屋に籠る。
自分を閉ざすように、すがるようにゲームやアニメに没頭するユウくんは見ていて痛々しかった。
ミユちゃんも事故以来部屋を完全に引き籠ってしまった。
何度も出ようよと呼びかけた、だけどもミユちゃんは外に出ることはないのだ。
話してくれたのは、自分のせいでユウくんが、と。
あなたのせいなんかじゃない、悪いのは。悪いのは――
「全てを投げ出した幼馴染のあなたよ、サクラ」
私が幼馴染だったら、こんなことは絶対しない。
私が幼馴染になれたら、絶対にユウくんを幸せにしてみせる。
私が幼馴染になって、ユウくんと結ばれるんだから。
* *
そして願いは叶う、神楽坂ミナとしての人生が始まる。
私はこれでユウくんと結ばれる。