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@ クソゲヱリミックス! @ [√6連載中]  作者: キラワケ
第十四章 神楽坂ミナの暴走!
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第480話 √b-63 神楽坂ミナの暴走!

ラブコメなにそれ美味しいの? 


 副会長のお姉さん。


 今の藍浜高校の生徒会に限れば副会長は俺だ。いや井口の話の流れは中学校だった、少なくとも中学時代は生徒会に入ったことさえない。

 じゃあ藍浜中学の頃は誰が副会長だった? それに井口の言うお姉さんってなんだ、誰の姉なんだ?


 この疑問は感じ続けた空虚さに重なって。


「……副会長のお姉さんって誰だ?」

「……あれ……? 副会長は下之君で……下之君にお姉さんなんて……いないはずなのに……すみません」


 俺に姉なんていない。

 妹が複数いるだけだ、俺が最年長だ。


 なのにその事実に違和感を覚えるのはなぜだ?


「ごめんなさい……忘れてください」

「お、おう」


 会話はそれで途切れた、しかし俺の内心での動揺はまだ続く。

 だけどもそれも長続きはしなくて、何かが必死でもみ消すようにしてその疑問を強制的に失わせていく。


 文字通りに副会長のお姉さんなんてことは知らない、聞いていない。   


 数分経った頃には俺は既にそうなっていた。だが違和感だけが、空虚さだけは残り続けた。

 気持ちの悪い、一時も忘れることの出来ない不快な感覚。



* *



九月十七日



 人というものはある程度の指標があるとすぐ心揺れ動いてしまうものだ。

 虚勢を張って「俺は元気だ!」と奮い立たせていたものの、体温計に映された数字は現実へと引き戻す。


 八度五分、なかなかに発熱状態。


 その数字の具体性は自分の挙動を鈍くさせた、さっきよりも体が熱い、少し前より頭が回る、大盤振る舞いに押し寄せる気怠さ。

 まったく数字を見なきゃよかった、今日も生徒会で朝早くに出なきゃならないのに、それから……それから、ああ。

 友人たちとの何気ない会話の後、実務に励んで、授業に耳を傾けつつも暇を見つけて内職をして、それからミナとの昼食。

 それから、それから。


「……く」


 俺は栄養ドリンクを起床直後の空っぽの胃に流しこんだ。


「うぐ……っ」


 突然の刺激物に胃が荒れ狂う、食道の流れに逆らって口内へと投入物が戻ってくる感覚。

 俺は部屋を出て階段を駆け下りて、トイレに駆けこんだ。


 胃酸と栄養ドリンクの混じった最悪の味が舌上を通り抜けた。





「はぁ……はぁ」


 こうして息苦しさに喘ぎながらまだ夜明け寸前の通学路を歩いていると、俺はどうしてこんなにボロボロにならなければならないのかと思う。

 きっと俺のこなす作業量も屁でない人はゴマンといる。言い訳がましいと言われようが、俺はまずなぜこの場所にいるのかが分からないのだ。

 大事な過程をなかったことにされて、なぜこの立ち位置に俺はいるのか、その過程への疑問は潰えることなく溢れ続けて。

 

 俺は忘れてはいけない、犯してはいけない罪でも犯したというのか。

 こんな違和感を延々と真綿で首を絞めるように続けるぐらいなら、さっさと思い出させてくれ。 

 精神が不安定になって、俺自身の力量不足で時間をおおく費やして、身体もボロボロになって。


 ――俺は拠り所をどこへ失くした?


 誤魔化しの現実逃避、今は栄養ドリンクそれに頼っているのが実情だ。

 俺は拠り所がないと健全に過ごせないほどに貧弱なのに、どうしてそれを失くした?


 違和感と空虚さと、関係あるのか?


「……わかんねえよ」


  

 


 俺は微妙に演技派で、意外とこの体調不全を隠し通した。ギャグでなんとか誤魔化した、冗談だと諭した。

 いつものように話して、笑って。過ぎる時はいつも通りに刻まれていて。


 しかしそんな三時限目を終えて少しの休憩を迎えた頃だった。



「ん?」



 携帯のアラームが鳴る、それはメール着信を知らせるものだった。

 差出人は、井口だった。そこにはたった一文「半地下踊り場でお待ちしています」

 口数も少なくメールの情報量も少ない傾向のある井口さんのことだから、文化祭関連のことだと俺は勝手に思い込んで、足を運んだ。


 半階ほどの段数しかない階段を下りた先、そこで彼女は待っていた。


「どした、井口?」


 あるタイミングから呼び捨てになった、文化祭関連のやり取りをする為にメールアドレスも交換した。  

 なぜか一緒に仕事をする機会の多い彼女が、物静かでかつて俺が助けたという彼女がそこにいる。

 

 俺は熱にうなされていたせいか、端としたことしか覚えていない。

 彼女特有の前後の無音も全部なかったことのようで、その言葉があまりにも――



「下之君……わ、私と付き合ってください」



 衝撃的だったから。

 そして背中で誰かが駆けて行った気がした。

 まるでこの告白シーンを見て、逃げ出すように。


 なんとなくに誰かが分かった俺は、井口に何も言うこともなく階段を駆け上がり始めていた。 

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