第478話 √b-61 神楽坂ミナの暴走!
祝お気に入り600件突破!
生徒会に奔走する俺、というか副会長という役職は予想以上に忙しすぎる。
栄養ドリンク片手に常に動きっぱなしの日々だ。
朝四時半に起きて色々家事をこなした後、ホニさんに託し、朝六時に学校入りして生徒会の活動処理の後学業、休み時間まで書類の精査から計算ごとまで。
昼食は生徒会に移動しながら摂る、弁当こそ家族の分は作るものの食べる時間が惜しいので以前に栄養ゼリーをまとめ買いした。
生徒会室でもまた仕事、仕事。授業中も時間を見つけて職務職務のオンパレード。
放課後は速攻で生徒会、日が暮れるまで作業に没頭せざる得ず、食材買わなきゃ疲労の身体に鞭打ってスーパーで調達。
そんな日々が続く中、あまりにも忙しく、あまりにも疲労がたまったせいなのか。ふと、思ってしまった。
何のために俺は生徒会をしてるんだ?
俺がわざわざこんな生徒をまとめるような、忙殺されるような仕事を好き好んで行うことに名乗りをあげる性格だったか。
何か理由があったはず、あったはずなのに俺はそれを思い出せない。
そう、夏休みに感じた違和感と瓜二つの感覚だ。
そんな疑問が一度浮かんでしまうと、その単語が、その感覚が頭の中でグルグルと回り始める。
様々なものが崩れていく、崩壊の序曲の始まり。
「あー……」
深夜も二時まで生徒会活動に勉強の予習が長引き、結果二時間半の睡眠で朝を迎えた。
体は自分じゃないように重く、頭も上手く働いてくれない。
無理やり洗顔で目を覚まさせ、栄養ドリンクを流し込み、さあこれから家事をやるぞとキッチンへと向かう。
これが毎日。
しばらくしてからホニさんが起床して。
「ユウジさん……大丈夫?」
「大丈夫って?」
「顔色悪いし、寝不足に見えるよ……?」
俺の中でそんなことねえよ! という怒声を浴びせる発想が浮かんでしまった。
ダメだ、こんな俺はダメだ。そんなことホニさんには絶対に言えないし、俺が間違ってる。
「はは……心配ありがとうな」
ぎこちない動作でホニさんを撫でる、それにやはり不信感を募らせるホニさん。
……しっかりしないと、俺が出来なきゃどうする。それまではこの一連のすべてを――
「誰が……やってたんだ?」
ホニさんに「え」という疑問の表情が浮かぶ、それに対して「なんでもないよ、ごめんな」と返した。
俺がここまで家事に奔走する前までは、ホニさんがここに来る前までは誰が家事を行ってたんだ?
母さん、違う。父親、とっくに死んでる。家政婦を雇っていた? そんな冗談みたいなことあるわけねえだろ。
まただ……またこの違和感だ、よくわからない喪失感だ。
俺は何を忘れている、なぜ忘れることでここまで俺は――不安になるのか。
「ごめんなミナ」
「ううん……別にいいよ」
付き合い始めて一か月と少し、交際大発表から数日。
俺とミナの関係にも暗雲の兆しがあった。
まずは生徒会で基本的に余裕がない、休み時間は職務。昼時だって授業終了と共に昼食持って生徒会室に移動
毎日が生徒会で居残る以上、放課後に共に帰ることもない。休みの日も一人学校に出向く、遊びの誘いを何度も当初はしてきたが、次第になくなっていった。
多忙故に彼女の心情も表情を気にも留める暇もなくなる、彼氏として最低最悪の状態となっていた。
ミナの心の中に日々不安が募っていくのを気づくことも出来なかった。
俺は失敗に失敗を重ねながら、時は進んでいく。
「今日は美術部の進行度を確かめに行かなきゃいけない……か」
重い腰を上げたところで、マイがある提案をしてきた。
「ユウジ様、お供しましょうか?」
マイにも仕事があるし、だから俺は断った。
「いや、大丈夫」
「ですが、最近のユウジは働きすぎですわ」
働いてるのは俺だけじゃない、みんなもてんてこ舞いに奔走してるじゃないか。
「大丈夫だからさ、ありがとうな」
「マイとクラさんの言う通りだぬ、少しは頼ってくれても」
これは俺一人が背負うべきことで、だから何度も言わせるなよ。俺は言ってるだろ、いいんだって。
だから――
「いいって言ってんだろ!」
俺の怒鳴った声は生徒会室を静めて、響き渡った。
すぐさま自分のした事実を認識した俺は。
「ユイ、悪かった。イライラしてたんだ、大きな声出してごめん」
「あ……いや、いいんだアタシは……」
なんてことをしてるんだ、俺は。
皆は貴重な時間を使って手伝ってくれてるんだぞ、そんな中の彼女らに怒りの矛先を向けてしまうなんて。
空気が重い。そしてその場から逃げだすように席を立った。
「さっきは突然声を張り上げてスミマセン……ちょっと美術室に行ってきます」
「ユウ」
俺が生徒会室を出ようとしたところでチサさんに呼び止められる。
「……はい」
「このまま少し休んできなさい」
休む暇はない。俺が休んだら作業がどれだけ遅れる?
「わかりました」
「わかってないわね」
……見透かされた。
「ユウあなた一人だけがすべてを背負った気にならないで頂戴、副会長とはいえ一年坊が生意気よ」
その言葉にイラっときた。だがここで反論してはいけない、チサさんが言っていることは――マチガッテイナイ。
「気を付けます」
俺はその言葉を最後に生徒会室を抜けた、休む気は微塵もなく俺は早歩きで美術室へと向かった。
ポケットから勢いよく取り出した栄養素ドリンクを親の仇のように勢いよく飲み干して、俺は足を速めた。