第476話 √b-59 神楽坂ミナの暴走!
遅いハッピーニュイヤーだよ
少し時間は戻って、二日前のユウジがミナへ告白した時のことです。
それからの僅かな時間の間に、この世界は大きく書き換えられていたのです。
八月二日
ミユの部屋にて、ミユはヘッドホンで携帯ゲームに熱中する一方で桐・ホニが集まり大昔の携帯ゲーム機に存在するユミジと話していました。
『下之ユウジは準ハーレム状態を解消したようです』
「お主からユウジが告白に次ぐ告白を受けていたとは聞いていたが、まさかのう」
『そして桐の言うところの攻略しに向かったみたいですね』
「……そういえば昨日からユイやクランナの様子が変じゃったからな、合宿終わりにすぐさま振るなんてなかなか鬼畜の所業じゃな」
『一応彼なりのケジメなのでしょう、それに今回の件はイレギュラーな事態ですから、少しは同情の余地もあります』
「おお、おう。ユミジなかなかにユウジを擁護するのう、もしかして好きだったりするのか?」
『ええ好きですよ、彼はいつも全力ですからね。そういうところは好印象です』
「……(なあホニどう思う?)」
「……(ついには画面越しの女の子にも好かれるようになったんだね、ユウジさん)」
などといった状況確認のようなことをしている矢先のこと、
『そろそろ告白した頃でしょうか』
「まあ十中八九あやつらは付き合うじゃろうな、ミナの今までの行動は逆にユウジを落としにかかっているからの」
『ここまで彼女が変化を遂げるとは……――ッ!?』
その時、ユミジの言葉が詰まる。そして同時に桐もホニも何か違和感を覚える。
『――ここにきて修正プログラムが作用したようです。プログラムの全容は……』
「これは……記憶操作じゃ!」
ある程度の権限を持つ彼女たちはその感覚を覚えているらしく、すぐさま情報予測を行えたようです。
「あっ――あれ――我はどうして石の上じゃな――ユウジさんと結ばれて――思い出を背負って――なんで我はそんなこと――!?」
ホニさんから漏れる言葉の数々、それはまるで記憶が描き回されているようで、
「い、いやだよ! ユウジさんのことを忘れたくない――思い出を失いたくない! また一人に戻るのはいやだよ――」
『私たちの記憶干渉をも上回るプログラムのようです、ホニ! 少しだけ耐えてください、今ならまだ――』
「ホニしっかりせい! お主がここにいる意味は! お主が今までのことを覚えている意義は! 答えてみろホニ!」
「我は――我は、ユウジさんの力になるために――――そうだ、我はユウジさんの傍に本当の意味で居続けるために……!」
なんとかユミジによってホニの記憶書き換えプログラムを阻止することが出来たようです。
僅かな時間の間に精神が混乱状態に陥るほどの負担を覚えたホニさんは、はあはあと荒く呼吸をしています。
「なあユミジ……これはわしらの”上”による権限のものじゃろう?」
『そのようです。修正内容は』
「ユウジやユミジの報告通り、攻略したヒロインに限っての過去世界の記憶の継承という異常事態への対処……といったところじゃろうな」
『その他にも色々と修正が行われましたが』
「……何があった?」
『下之ミナの情報がこの世界から完全に消滅しました。正確にはユウジからその類の記憶が削除されました』
幸いミユは先ほどからゲームに熱中していてその事実を聞くことはなかった。
* *
わしはそれから少し経って、ユウジが帰ってきたことを確認してから動きだし、ユウジに話しかけた。
それはちょうど今は倉庫となっているミナ姉の部屋を通りかけた時のことじゃ。
「ユウジ」
「ん? なんだ?」
「この部屋は何じゃ?」
わしは部屋の扉を指してユウジにそれを問う。
「ここか? ここは」
そしてユウジは衝撃の言葉を繋げた。
「ただの倉庫代わりの部屋だろ?」
何の疑問を持たない表情で、ユウジはそうはっきりと言ったのじゃ。
「お、お主! ここはもともとミナの部屋で――」
「ミナ? ああ――俺が告白しにいったことを嗅ぎ付けたなぁ? 同棲とか気が早すぎるぞ桐ぃ~」
そうして照れつつ嬉しがって軽く小突くユウジがそこにはいた。
「そうか……ふふ、わしの情報は早いからの! でどこまで行ったのじゃ――」
わしは動揺を隠すようにそういつものように冗談を投げかける。
内心では信じがたい事実を受け入れるのに時間がかかり、軽い絶望をわしは覚えたのじゃった。
* *
よう、俺だ。
ミナと付き合い始めて一か月が経とうとしていた。
最初の頃こそ毎日のように顔を合わせていたが「きりがないよなあ」「かもね」という結論に達して、学校のない夏休みの間は時々一緒に出かけるようになった。
でもそう手前言うだけで、実際のところはまるで熱が冷めるように、毎日会う気がしなくなった。
あんなに浮かれていた俺はどこに行ったのかと思う、でも決してミナのことに飽きたなんてことはなくて――
その理由はなぜかミナに会うたびに違和感を覚えるのだ。
ボタンの掛け違え、どこか噛み合わない違和感。
「俺は」
何か大切なことを忘れている、ミナへの好意はそれが大きく関係していたはずなのだ。
思えば中学校の頃は教科書をたくさん詰めこんで登校する癖があった、高校になってから大分軽くしたものだ。
その時、いつもの重さがないことでちょっとした違和感を覚えた。
理解不能の背負うものが無くなった感覚、晴れやかとは違う気持ちの悪さがあった。
そして時は流れ、夏休みが終わり始業式を迎える。