第475話 √b-58 神楽坂ミナの暴走!
今回の告白シーンはいつもの情熱的()な展開とは違ってあっさりさせました、案外幼馴染への告白ってこんな何気ないことなんじゃないかなーと妄想です。所詮アニメとギャルゲの知識だけの作者ですとも、ええ。
俺だ、先日かつてから好意を抱いていた神楽坂ミナこと幼馴染に告白をした。
するとまさかの承諾、更には両想いだったという大出血サービスのおまけ付き。数日の間浮かれてしまうのも別に咎められないだろう。
夏真っ盛り、生徒会活動も夏休みに入り込んでいく内に少なくなり束の間のフリータイムな期間が訪れる。
俺とミナはあれから毎日顔を会わせていた。
八月四日
昼のこと、ピンポーンと来客を知らすインターホンが鳴り、俺は受話器型のインターホンを取った。
それと同時にインターホンのモニター画面に写る姿をすぐさま視認して、俺は軽く胸を躍らせた。
「おはよー、ユウくん! 今日暇?」
「おう、暇だー。てか一度上がってけ」
「いいの? やったー」
そうだ、この会話は非常に自然だ。幼馴染同士の何気ない、ミナが暇を持て余したことで遊びに来た――そういう風に見える。
「お邪魔しまーす」
「お邪魔されます」
こうして俺は玄関で今日初めて彼女と画面越しでなく向き合った。
彼女は「あはは!」というような笑みでなく、少しだけ照れの入ったはにかみを俺に見せた。かわいい。
居間に通して適当にソファに彼女に座らせてから、
「麦茶飲むか? キンキンに冷えてるけど」
「是非に!」
それを聞いてキッチンに向かう間に考える――そう昨日はというと。
まあ流石にな? 昨日の今日でいつも通りの態度が取れるほどの俺は鋼鉄の心臓を持っているわけでも肝が据わりに据わっているのではないのだ。
「お茶待たせたー」
「麦茶に浮かぶ氷が清涼感をそそるね! いただきますっ」
テーブルに置いたその数秒後にはコップを手に取り、グビグビと喉に一気に流しこんだ。
「ぷはー! いい仕事するねユウくんっ」
「恐縮ですよっと」
「……にしても思い出すと昨日のユウくんって言ったら、ぷくく」
「お互い様だろうに。ミナは昨日マトモに俺の名前呼べなかったじゃないか」
「そ、それを言わないでよねー!」
俺とミナは昨日にも顔を合わせた。というかミナに誘われてまたまた学校に居たのだ。
近くで空調の効いてるとこで気軽に集まれる場所なんて学校が一番という判断だったのか昨日の今日でミナに呼び出された。
「……お、おはよユウ……ユウきゅん」
「あ、ああ、うん。おはようだな、うん」
二人噛んだりぎこちなさを全開にして最初の会話を交わしたのが懐かしい、昨日のことのようだ、いや昨日のことだけど。
それからまた何故か俺とミナは告白現場に足が赴き、また無言で自販機から飲み物を買うという謎行動も双方引き起こしていた。
動揺のあまりミナは「マッチ」を俺は「オランジーネ」を買ってしまっていた、基本的に俺とミナの飲むものは決まっていて告白直前の双方が購入した飲料そのまま。
なぜか殆ど買いもしない飲み物を買ってしまうという、微笑ましいのか苦々しいのかよくわからない出来事が重なった。
「……(恋愛関係になったら)何話せばいいんだろ」
「わ、わからん」
しばらくの内はそんなループする会話を繰り返していたが、次第にお互いに慣れ始め――
「チラッ)……あ」
「(チラ)……いや、特に意味はなくてだな!」
てない。
それぞれの表情を伺おうとするタイミングが重なりに重なり、見つめ合う状態になんども陥り、その度恥ずかしさのあまり目を背け合うというアホらしい一幕もあった。
「い、意識しすぎるのはいけないんじゃねえか?」
「そ、そうだよね! そ、そういつも通りに!」
急にこれまた阿吽の呼吸で二人立ち上がると、その後続ける言葉が思いつかず着席。
それからはなんとか時々カタコトになったりしながらも会話が続き、それからはゆっくりとぎこちなさもなくなっていき。
「あ、もうこんな時間だよ」
「うおマジか! 夕飯作らんとっ」
昼過ぎに出ていつの間にか夕暮れ、てことは七時寸前か。やべえ!
恋人同士の時間よりも家族を心配してしまう俺ってなんなんだろうか。
「夕飯……あのね、ユウくん」
「ん?」
小ロビーを抜け昇降口に向かって一緒に歩き始める俺にミナが声をかける、それに振り向くと彼女は今日最初に会った頃ぐらいに顔を赤くしていた。
「……ううん、なんでもない」
「そ、そっか」
……? まあさっきまでの緊張した表情可愛かったから良かったけども。
それから俺たちは校門を出て、
「送ってくか?」
「ううん、ユウくんのご飯を待ってる人がいるよね?」
確かに提案もしたし望んではいるものの、送っていると夕飯がと騒ぎだし誰かが俺に電話をかけてくるかもしれん。
「わ、悪い! じゃあまた明日な」
「うん、またね! ……また明日?」
ミナと別方向に駆けだす俺が、今の投げかけた言葉を改めて吟味していて、出てきた言葉が夏休み前のいつも学校から下校する時に言っていた文言をそのまま言ってしまっていたことに気付く。
「あ、ミナ――」
「あーしーたー、お邪魔するねー!」
と離れた先からミナは叫ぶと、くるりと半回転して駆け足で帰路についてしまった。
「……明日、明日があるのか」
俺が何気なく言った言葉で、次会うことの出来る約束が交わされたことに喜びを感じた。
時間軸戻り。
「にしても変わらんもんだなー、俺とミナの関係は」
「うん、思ったより変化がなくて寂しいよね『あの人といるだけで常に心臓がどっくんどっくん言ってる!』というのは一日も持ちませんでした」
「案外恋愛ってそういうものなのかもな」
「おー、語るねユウくん。だが私が初めてなクセにー」
「そりゃミナも同じだろ? まさかここにきて恋愛上級者告白は止めてくれよ」
「私はこの恋が初めてで、結ばれたのも初めてだよ」
……恥ずかしいセリフを優しい微笑みで言いやがって、惚れるぞこの野郎。
するとミナは突然吹き出し、
「いやー、でも告白する時変にポーカーフェイス気取ってたのにこのギャップ! って思い出しちゃってっ!」
またその話題か!
「俺も良くわかってねえんだよ、何故か俺は淡々とお前に告白したんだ……後から恥ずかしさとか云々が」
「とりあえず一心不乱に突き進んで、後で後悔するタイプでしょー?」
「ぐっ……否定できない」
俺ってそういう性格というか思考回路してるんだろうな、ラグあって色々な感情が押し寄せてくるという取り返しがつかないってーの!
「でも、私と付き合うことになったのって今では後悔してる?」
……何言ってるんだか。それも本当に不安げな表情で聴いてきやがって、らしくないぞ神楽坂ミナ。そんなのな――
「もう少しロマンチックな言葉を並べられたらなとは思う――けども、ミナと付き合えることに微塵の後悔もないぞ、俺と付き合ってくれたありがとうな」
シュチエーションもどうにかならなかったかなとは思うよ、せめてせめての夕暮れの教室だろう……!
「そっか、ならいいんだ。それなら心の底から私は嬉しいよ――」
そうやっていつもの活発な笑顔とはまた違った、嬉しそうに照れる彼女の笑顔が俺は可愛くて、愛しくて仕方がなかった。