第126~128話R √1-10 ※独占禁止法は適応されませんでした。
R版差し替え済み
五月二十九日
「さて……と」
「…………っ!」
覚悟を決めて自分の靴の入ったゲタ箱の扉を開く――
ガサガサガサガサガサと、下駄箱の許容限界を越え、溢れ出る。手紙、手紙、手紙!
一つ拾い上げると――
「はは……」
絶妙な苦笑を俺は繰り出した。
これがまぁラブレターだったり、じゃなくても新築物件のダイレクトメールならまだマシだったというもの。
……もっとも下駄箱まで新築物件のダイレクトメールなんて持ってくるわけがないにしても、スパムメールの方がまだ良いと言いたかったのだ。
これは呪いの手紙だ。
それも篠文ユキファンクラブ(非公式)姫城マイファンクラブ(非道式)によるものだ。
最近の姫城との練習が多数のクラスメイトに目撃され、感化されてしまったらしい。
「ユキ様一筋だと思ったのに、このゲス野郎があああああああ」というユキさんファンクラブの逆鱗に触れてしまったらしい。
一方では「篠文狙いだと思って寛容になってやったのに、この野郎おおおおおおおおお」と姫城ファンクラブの逆鱗にも触れたようだ。
仕舞いには、俺を呼び捨てにした”あの時”を非公式新聞にリークされ、ついでに今までの状況も事細かに公開。
両ファンクラブ怒り狂う瞬間だった。
……そんな訳で、体育祭を控えてら呪いの手紙をたくさん頂いている。
ユキや姫城に余計な心配はかけたくない為、この手紙類のことは隠しているのだが。
だから、こっそり校舎裏のゴミ捨て場に全部廃棄するところまで戦いは終わらない。
ちなみに手紙を何枚が読んだのだが……そりゃあもう狂気染みてて寒気がして鳥肌がたった。
いやだってさ……「ユキへの愛をB4サイズの手紙に三枚構成で書き綴り、残り三枚で俺への恨みなどを綴る」という狂気を感じる一品だった。
これは、ユキや姫城には見せられない……と思い、仕方なしにこの手紙の正体を隠していた。
……この判断、正しいよな?
ともあれギャルゲーの主人公になったとはいえ、モテてしまうというのは大変だと改めて思い知るのだった。
まぁ……これもモテ税みたいなものなのかもしれないな、非モテ時代には縁がない出来事なだけにそう少し前向きに考えるのだった。
後日生徒会の無い日を中心に放課後に練習を続けた結果、俺と姫城さんとの息はかなり合い始めていた。
「明日ですね、ユウジ様」
「ああ、勝てる。これなら勝てるさ」
これなら勝てるかもしれない、そう思い自信を持ち始める俺が居たのだ。
すると姫城さんはなんだか言い出しにくいことを言い始めるようにもじもじとし――
「あ、あの……」
「ん?」
「あの……もし勝てたら、ユウジ様を一回だけ呼び捨てで呼んでもいいですか?」
つまり、その……様付けをやめる、と。
「ああ、いつでも呼び捨てにしても構わないって言ってるんだけどな……それに一回って」
「一回だけです。それがご褒美なんです。」
「全然構わない。そうだな、俺も勝ったら……姫城さんのさん付けを止める!」
「ええ! それこそいつでも止めて良かったですのに!」
「いやー、変えるタイミング失っちまったしな。いい機会だなと」
放課後に二人三脚の練習をするぐらいには純粋な意味で仲良くなったとは思うのだ……不純気味なスキンシップあたりは今はノーカンで。
「そうですか。はい、わかりました!」
「さて、お互いご褒美が出来たところで──明日は」
「勝ちましょう!」
六月十二日
体育祭当日。
梅雨近くなだけに延期が危惧されたが、見事なまで晴天。胸を張って予測した天気予報師を大きく嘲笑うかのように半端ない快晴となった。
学校に体操着登校ということに新鮮さを感じつつ、グラウンドには同じ服装の男女生徒が並んでいる。
それで生徒宣誓やらどーでもいい校長の話を終え、いよいよ体育祭が幕を開ける──
もっとも体育祭の殆どに関しては省略するとして――これぞグッジョブブ式
……みんな色々な意味で順調のようで。そして遂に二人三脚で俺たちの出番が訪れる。
靴ひもをギュッと締めなおし、二人を繋ぐベルトは結んだ、しっかりかつ丁寧に。
お互い顔を見合ってからタイミングを合わせて肩を組む、そして二人で三本の脚を使って駆け出す──
「準備いいか?」
「はい。ユウジ様は?」
「オーケー」
「ではユウジ様」
「ああ、姫城さん」
「「勝つぞ!(ちましょう!)」」
よーい、バァンッという合図と共に――
「「───っ!」」
結果はというと、だ。
まあ──うん。
「姫城」
「ユ……ユウジ」
まあそういうことで。
この体育祭で、姫城との距離が二人三脚の結びほど密着具合までは近づいたかはどうかにしろ。
いや……ちょっと? 結構? なんにせよ――少なくとも俺と姫城さんの二人の距離は縮まった気がするのだった。
六月十五日
体育祭を明けて数日が経った。
生徒会が体育祭に無関係なはずがなく、休み時間や放課後、後処理に追われていた……のは俺の事情だからどうでもいいとして。
プール開きである。
俺たちクラスの担当の体育教師はこの高校内でもベテランらしく、力技で全校中初プールを奪取したらしい。
しかし、その恩恵を受けられるのは女子のみだった…てんだが、男子が割りしか食っていないと言えばそうでもない。
この学校のプールはグラウンドに併設されており、教師の行き来が容易になっている。
状況確認が出来やすいように塀ではなく金網でプールは囲まれている。
と、いうことは、だ……お分かりいただろうか?
男子から女子の水泳授業を割と見放題である!
更に紺色で何の縁取りもされていないベーシックなスク水が指定となっている。
しかし惜しむらくは背中が大きいタイプなのだが……まあ、割り切ることとする。
正直たまらないよね。
俺はたまらないと思う。
あの体のラインが表れる素晴らしいデザイン。
スタイルに自信のない女子側にとっては最悪のユニフォームであるが。
逆にスタイルが良ければ、水着がスタイルを更に引き立てる──以下略。
で、あるからして。
スク水こそ至高の水着なのだ。
……ふふ、喋り足りないが、まあこれぐらいにしておこう。
で、このクラス女子を見てみよう──
ユキ、姫城さん、福島、愛坂は当たり前に良いとして。
委員長は実は普通だか悪くない、ユイはスタイル「だけ」は良い。
つまりは。
このクラスはハイレベルな訳だ……そのスク水姿となれば俺の興味もマシマシというもの。
ふむふむ……なるほど……うおおおおおおおおおおおおお!
サイコー!!
……ん? 姫城は……体操着を着てるってことは見学なのか。
体操着着ててもナイスバディなことが分かるのに惜しいなあ……いかんいかんゲスいゲスい。
水着を忘れただけなのだろうか? それとも体調──後でしれっと聞いてみようか。
それから姫城に聞いてみたが「体調は大丈夫です……でもちょっと」と流されてしまった。
体調は特に問題無さそうだが、どこか表情は暗かった。
それからも、姫城は水泳授業を狙ったかのように休み続けた。
優等生な彼女がこのような事をするのは教師陣の疑問らしく、体育教師も普段が良いが為に数字を落とせざるを得ない事態に頭を抱えていた。
もう一度理由を聞けば答えてくれるかもしれない、でも聞く気は起きなかった。
本人の意志次第と俺は考え、話す時もその話題を振ることはしない。
そして何も分からないまま期末テスト勉強をし、テストを終え、そうして――あっという間に高校生になって初めてにして、ギャルゲー主人公にして初めての夏休みを迎えるのだった。