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@ クソゲヱリミックス! @ [√6連載中]  作者: キラワケ
第十四章 神楽坂ミナの暴走!
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第466話 √b-50 神楽坂ミナの暴走!

幼馴染ってなんなんですかね(エセ哲学気取り)

「……ご馳走さん」

「お粗末さまです」


 ミナの作る朝食を食べ終わる。やっぱり食べ慣れた、それでいて俺が一番好みな味の数々だった。

 姉貴じゃなくなったことでもう味わうことが出来ないと思っただけに、その感慨もひとしお。

 そういえば今頃ホニさんは起きて朝食支度に励んでいるのだろうか、いつもお世話になってすみません。


「――ユウくん、今ほかの女のこと考えたよね?」

「え」

「とぼけても無駄だよ? 私にはユウくんのことがなーんでもわかるんだから」


 この幼馴染怖いなあ。てか敵意むき出しに女って……しかしなあミナ、ホニさんだけは俺が許さんぞ。


「下之家で家事に奔走しているであろうホニさんを案じただけだ、家族のことを思って何が悪い?」

「家族……」


 その単語に違和感を覚えるようにミナは一瞬だけ表情を曇らせた。しかしそれはすぐに息を潜め、


「うん、そっかゴメンね。ホニさんは話に聞いてるよ、働き者でユウくんの助けになってるって」

「なってるよ、感謝しきれないね」


 ホニさんがいなかったら俺は確実にぶっ倒れていた。

 生徒会で助力するマイもユイもクランナにも、本当に感謝している。


「――で、まさか俺は今日一日をミナの家で過ごすのか?」

「そんなわけないでしょー、少ししたら出かけよっ」


 ミナは皿洗いにキッチンへと戻り、少しした後、俺たちは家を出た。





「本当面倒くさがりやだなお前」

「考えなくて済むしねー」


 彼女は制服姿だった、自宅で着替えたのにもかかわらずである。

 コーディネートを考えるのが面倒だったからと、このような帰着になったという。


「それに、お揃い?」

「ミナの意図した通りだな」


 俺も制服に身を包んでいる以上、バランスは取れるのだが、それでいいのか幼馴染さんよ。


「で、どこへ行くんだ?」

「まずはこのコンクリートを一歩一歩踏みしめます」

「どこの小説の語り手だ。第一目的地は?」

「まあ、ついてくれば分かるよ!」


 そして二人ゆっくりと歩みを進めた先は、


「藍浜駅……電車でどっか良くのか」

「そだよ、目指すは隣町のデパート!」


 俺とミナは藍浜町の数少ない交通インフラの一つ、浜能線。 

 一時間に三本のローカル線で、二両編成の電車が駅員がおりながらもどこかノスタルジックな雰囲気のある駅舎やホームを持つ藍浜駅に停車する。

 隣町までは二十数分乗れば着くほどの距離なのだが、藍浜町は施設がそろっているので思いのほか買い物や娯楽求めて向かうことは俺の場合は少ない。


 ローカル線基準ではかなり進んでいるらしい自動券売機と自動改札のある駅で、券売機で切符を購入して改札を通る。

 波板の屋根付きで、待合い客も数人しかいないホームに足を踏み入れたことで俺は一つの疑問を口にした。


「デパートって何か買うのか?」

「いや、考え中。実際に目で見て決めようかな」


 ミナが買おうとするものとはなんだろうか。ファンシーな女の子女の子したアクセサリーだろうか、はたまた衣服だったりするのだろうか。

 もしくは……。


「まー、俺もウィンドウショッピングは嫌いじゃないし、いいんだけどさ」

「ユウくん話がわかるぅー!」


 お金のない学生身分の俺にはそれがお似合いだ。なけなしの小遣いでラノベの最新刊を買うのも憚れるぐらいだからな。

 ただまあ、今日は色々と予測してか財布にはそれなりの金額が入っている。


「あ、列車きたね」

「……お、空いてそう。ラッキー」


 ホームに進入してきた列車に俺たちは乗り込んだ。たった一駅だがなかなかに旅気分だ。

 ベンチシートに二人並んで腰を下ろしたところで、電車はレールの継ぎ目を通りガタンゴトンという音と共に軽快に走り出す。

 目の前には茂る空き地が見え、それが次第に開けた海の風景へと変わり、木々を通り抜けるように走り抜けた後にトンネルに突入し、車内の照明がぼんやりと照らす。

 そんな情景を傍目に俺は「隣町のデパートってあの色々出店してる複合施設だっけ?」「そそ、そこに私の追い求めるものがある……かもしれない!」「期待もそこそこに向かうとしますか」という会話を繰り広げていた。

 

 その瞬間に俺は頭にガツンと石で殴られたかのような衝撃を受けた。

 

「ぐ……」


 なんだこれ、とにかく不快だ。衝撃の後、脳味噌がかき混ぜられている感じがする、猛烈に気怠い、気持ち悪い、吐き気を催す寸前だ。


「う」


 なんとか視線を動かして先ほどまで話していたミナを見ると、ミナも同じような症状を訴えていた。 

 苦々しく表情を歪め、堪えるように唸る。脂汗も滲んでいた、この現象はなんなんだという疑問を訴えれるほどにこの感覚が引き始め、十秒経たぬ間に何もなかったかのように回復した。


「ミナ……大丈夫か」

「うん……え、ユウジもだったの?」


 席もほどほどに埋まる列車内でそんな挙動をすれば怪しまれそうなものだが、他の乗客は一切反応を起こさなかった。

 向かいに座る老人も平然と新聞を読んでいる。そしてもちろん他の乗客も俺とミナと同じような苦悶な表情を漏らすこともなかった。


「(どうなってんだ……この感覚を感じたのは俺とミナだけで、更に誰も俺たちの挙動に関心を示していない?)」


 周囲には俺たちはどう見えていた? ふつふつと疑問が浮かび上がる――そして、その中に。



「!」



 この感覚をいつか身に覚えた気がする。いつだったかは分からないし、どんなシチュエーションかもわからない。

 ただこの気持ちの悪い現象にどこか既視感を覚えたのだ。そう、同じように電車の中でのことで。


「……気にしない方がいいか」

「う、うん」


 考えたところで解決するようには思えなかった。これは抽象的だけども――途方もない、今の自分ではどうすることもできない事象な気がするのだ。

 こうして俺たちは不可解な感覚を覚えた十数秒を記憶の隅に追いやっていき、そして車内アナウンスは隣町の到着を示していた。





 あー、そういやそうだった。


「おお、これは卵やソーセージのボイルに最適そうなワンハンド鍋! これが噂のドレッシングシェイカーかあ――」

「日用品売り場に直行だよな、そりゃそうだ」


 彼女の趣味の一つに日用品選びがあった、調理器具からアクセサリー小物まで気に入ったものは舐めまわすように飽きもせず三十分間近く眺めていることもあるそうだ(ミナの友人談)

 実際に三人で出かけた際にも日用品売り場に食いついていたし、まあ根っからのマニアなんでしょうなあ。


「これは圧力鍋……!」


 ミナがくるくる回りながら行き着いた先には蓋に物々しく封印具(中二病風的表現)のようなものが付いた圧力鍋がそこにはあった。


「でも高いなー(チラッ)」

「何の催促かは分からんが、断る」


 実際は見当がつくけども。


「えー、何も言ってないのにー」

「じゃあ続けていいぞ」

「誰か資金援助してくれる心優しい最初にユ、最後にジがつく幼馴染はいないかなー(チラッ)」

「これは俺じゃなかったら問い詰めるレベルのピンポイントさ……にしてもその圧力鍋は大家族で食べる気か。お値段も案の定一万五千超えてるし」


 もし俺じゃなかったら誰が望むんだそんなNTR展開。


「そこなんだよねー、そこをAT……ごほん、ユウくんが」

「さりげに酷い扱われ方した気がするんだが……二人や三人ならこのサイズでいいんじゃないか?」


 ミナの家族構成は両親二人にミナの三人のはずで、ミナの選んだサイズは十数人分はありそうだ。


「うーん、でもデカい方がかっこよくない?」

「無用の長物化するぞ、ミナの調理器具コレクションはこれでいくつになるんですかね?」

「う……色違いでティーファールの鍋セット買っちゃったけども! けども! よ、予備としてだし」


 あー、あの取っ手がとれーるCMとかで見たアレね……一セットでいいだろうアレは。 


「そんなすぐ壊れる代物でもないだろうに……で、ミナは圧力鍋を実用にしたいのか観賞用にしたいのか」

「むー、出来ればそれぞれ!」

「妥協しろよ……」 


 小さいヤツなら六〇〇〇円ちょっとのがあるみたいだし。


「ならばこの小さいのならいいの?」

「身の丈に合ったものが一番いいぞ」

「…………」


 日用品ってものは実用性あってのものだからなー、するとミナは俺の腕をツンツンと突きながら「そこの君、君」とわざとらしい口調で突然話始め――



「私の美味しい料理のレパートリーが増えると思って、投資してみないかね?」



 何を言い始めたかと思えば……冗談のつもりなのか? いつものように軽くあしらわれるのを期待してるのか?

 ……ふふ、俺は晴れ時々予想外な男だぜ? 時には――



「おう、毎日俺の弁当を作ってもらえるなら構わんぞ」 



 と、言い放ってみた! ドヤァッ、呆気に取られて動揺すればいいさ!


「今まで自炊するのも憚っていたミナには途方もない話だが」

「え、それって……」 


 ……ってアレ? 反応が微妙に変――



「いいよ」



「え?」

「いいよ、作ってあげる」


 なんでそんな顔が赤いんですかね、ミナさん。明らかに俯きがちに照れてるのも、それ以降口をつむんでしまうのもなんなんでしょうね。

 いや俺はただ単に傲慢さをだして「じゃあいい」というのを誘ったというのに。えーと……解釈の仕方には色々あると思うんだが、ミナは一体どんな解釈を? 


「(まさかな)」


 いやいや、よく言うところの『俺に毎日味噌汁を作ってくれ!』みたいなプロポーズみたく取られたとか?

 いつの時代だよ! どんだけノスタルジックな告白法だよ! いや案外一周回って戻ってきたとか……?

 

 まさかついに来るのか……! いやなんか日用品売り場で告白イベントとかなんかイメージががががががががが。


「ミ、ミナ?」

「……あ」


 そうミナの顔を何気なく覗き込むと、はっといた表情を浮かべたあとばっと顔をあげて。



「か、代わりにユウくんも私に作ってよね!」



 まさかの毎日弁当交換会!?


「ま、まあ結果的に作業量は変わらんけど……」


 それでもミナの手料理が毎日食べられるというのはなかなか大きい……かも?


「ふふ! ユウくん、この世界は常にギブ&テイクで成り立っているのだよ!」

「お、おう」

「しかし、この提案は双方WinWinなものだ思わない?」

「確かにそうかもしれないが……」


 しかし……ケチと言われようがラノベ十冊分、半額でも五冊……ううむ。



「ユウくん、お願いっ」



 ……っ! このフレーズであることを思い出した、呼び方もその言い方も……姉貴の頼みごとをする時のものだった。

 そうだ、姉貴は本当に大事の時しか頼みごとをしない。大抵自分で解決してしまうからでもあり、他人に迷惑をかけたくないからでもあって……そんな姉貴の頼みごとを俺は。



「わかったよ……半額投資で文句ないな?」



 断れない。

 それはちょっとした罪悪感のようなものでもあり。自分が甘いせいでもあり、それだけ姉貴には頭が上がらなかったのだ――

 俺はきっと、やっぱり、ミナに姉貴を重ね続けているのだ。


「わーい! ユウくん期待しててねっ」

「はいはい、精々期待させていただきますよ」

「よっしゃー、早速買って帰ろう!」


 半額融資が出た途端に即決……現金だなあ、と思いつつも財布を軽くする俺だった。





 それからデパート内のゲームセンターに行ってクイズマゾックアカデミーを二人で画面を食い入るように見つめながら、回答ボタンを叩いたり。

 食品コーナーの商品の多さと安さに目を丸くしながら歩く俺とミナがいたり、デパートを出て休憩に立ち寄ったカフェで「おいしい?」「普通だな」「同じくー」という会話があったり。

 あとは冷やかしに書店に寄って「へー、こんなシリーズ出てたんだ」「……アスクライン買いたいけどガマンガマン」と自身の欲望と闘ったり。


 まあ、二人楽しんだのだった。


「楽しかったー」

「まあ、たまにはこういうのもいいかもな」

「えー、週一で行こう」

「いや、それは無理……」


 楽しくもあったがあちこち歩き回ったので疲れたのも事実、帰りの列車でヘタレいる俺がいるだった。


「じゃ、じゃあまたいつかに!」


 ミナとのぶらり散策は道中の会話から品物選びに至るまで楽しかった。

 生徒会やなんとか頑張らなければと家事やら勉学やらに息巻いて肩が張っていたのだが、少し楽になった気もする。


「ユウくんは……私と遊びに出かけて楽しかった?」


 そう俺を覗きこんできいてくる、その仕草に突然だったが為にドキリとさせられたが。

 


「また来てもいいかもな」



 本心から、そんな言葉がするりと出てきたのだった。


「うんっ、じゃあまたの機会を楽しみにしますっ」


 そう笑顔のミナが見れるなら、とも思ってしまう俺がいるのだった。

 さらに気にも留めることもなくかった行きの列車での謎の事象は、帰りの列車では一切感じることなくトンネルを平然と通過していたことに俺とミナが気づくことはなかった。


 こうして俺は彼女に確実に惹かれていくのを気づかぬ間に。時間は刻々と進んで行く―― 

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