第123~125話R √1-9 ※独占禁止法は適応されませんでした。
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「ユウジ様! 練習致しましょう!」
「え?」
俺が何気なく教室の後ろロッカーに寄りかかっていたところ。
半端じゃないほどに目を輝かす姫城さんが近づき、そう俺に言った。
「……練習?」
「二人三脚のですっ」
「ああ──」
そういえばだった、俺と姫城さんは二人三脚ペアになったのだ。
「ということで練習しましょう!」
「いや、姫城さん。一応授業内でも練習時間は取るし必要ないと思うんだが……」
体育祭があるからと生徒全員が放課後に自主練習できる時間や気力があるかといえばそうではなく。
だからこそ学校は体育の通常授業の内容を体育祭の練習時間に割り当てる措置をしていた。
「いえ! 私は二人三脚で絶対勝つんです!」
「へぇ、姫城さんって(学校行事に)積極的なんだな」
「せ、積極的ですか!? そんなことないですよ!」
「いやいやここまで(学校行事に)熱心になるなんて、正直驚いた」
「当たり前です! 常に私は熱い思いを秘めていますから!」
「常に!?」
お、おおう……ここまで姫城さんが体育祭好きだとは知らなかった。
というかもしかしなくても、これ噛みあってない?
「と、いうことでお願いします!」
「じゃあ、いつにするか?」
俺としては学校生活帰宅部を貫く気マンマンだったのだが、部活動ではないにしろなりゆきで生徒会に入ってしまったのだ。
「ユウジ様のご都合次第です」
「なら俺は基本的に生徒会が無い放課後は暇──」
「毎日ですね、分かりました!」
言ってない言ってない!
「断片さえも読み取れてない!? 月・水・金意外なら大丈――」
「ユウジ様、では私に任せて下さい」
「いや、何を……?」
「ユウジ様のお暇のなくなる諸悪の根源こと、生徒会を何らかの方法で……!」
「いやいやいや!」
この子やることが極端すぎない?
「なら、どうすれば二人三脚の練習を口実にしたユウジ様とのイチャラブパラダイスを満喫出来るというのですか!?」
「口実って言っちゃってる……」
イチャラブパラダイスという言葉が姫城さんから出て来ることにまずビックリだわ。
「はっ、つい本音が! ユウジ様っ! 私が二人三脚を選んだ理由がユウジ様と密着したいから、という本音も言ってしまいましたか!?」
「丁度今聞いた。思いきり初耳」
「そんなことまで……更に私は──」
「あっ、姫城さん。 喋る度に墓穴掘ってるんで止めた方がいいかと」
「──そうですか? ということ要約してユウジ様大好きです!」
そうして不意打ち気味の告白。
え? 撤回した上での再告白が今ってどゆこと?
「っ! 姫城さん、そういう恥ずかしいセリフは台詞白昼堂々言うのは……」
「恥ずかしい? どこがですか? 私は嘘偽りなき本音を言ってるだけです!」
「いやいや! まず俺が恥ずかしいよ!」
「……もしかしてお嫌でしたか? ユウジ様のお心も考えず、私は発言を!? これはもう──」
「ストップストップ!」
と、言うとどこからか模造刀っぽいのを涙目で取り出し首に突き付ける姫城さんの姿が──
危ないなこの子!
「いや、嫌ではないけど……」
「ほ、本当ですか!?」
「ま、まあな……でも場所と時間を弁えて──」
「っ! だ、抱きついてもいいですか!」
「いやいや! それは普通にやめて!」
そんなことクラスでしようものならクラスメイトに撲殺されかねない。
「しゅん……」
しゅんとする姫城さん可愛いとか思っちゃいけない、これもまた俺を釣る為の作戦かもしれない……!
「で、二人三脚の事だけども。さっき言った曜日以外で都合が付く日でお願いしたい」
「は、はい! 理解しました! なら明日はどうでしょうか?」
「オッケーで」
「分かりました! 約束ですよ? 絶対ですよ? もし嘘ついたら――私がどうなるか思い知ってください」
俺じゃなくて姫城さんがどうにかなっちゃうのかよ、それはそれで普通にやめて。
そうして姫城さんは「それでは、また明日ユウジ様!」と帰っていった。
なんというか、まぁ悪い子ではないはずなんだが……やっぱり考えが極端な子だなあ。
五月二十五日
「ぴんぽーんぱんぽーん、ええ、ああ……生徒会役員共に告ぐ! 今日は気分が優れないので活動はナシ! 以上!」
……ある日の昼休みのこと。
相変わらず飽きなく美味く調度よい量と色見た目にもこだわった姉貴の珠玉の弁当に舌鼓を打ちつつ、いつものメンバーで談笑をしていた頃。。
スピーカーから流れる少しばかりキンキンとした幼い声は紛れもなく会長だろう。
そして流れたのは俺に深く関係する生徒会の有無、耳をかっぽじらなくても直ぐに理解した。
「今日は生徒会無いのか――」
自然にそんなことを漏らしてしまったのだが、右斜め前に居る姫城さんの耳は聞き逃さなかった。
「ユウジ様っ!」
まさに瞬間、反射のごとくに俺の名前を呼ぶ姫城さん。
「ああ、わかった! 今日は大丈夫そうだ」
諦めて素直に答えることとする……男に二言は無い!
「ユ、ユウジ? 大丈夫って?」
そんな俺らの会話に食い付いてきたのはまさかのユキだった。
「いや、放課後に体育祭の二人三脚を練習をすることになってるんだ」
秘密にしていたつもりは無いが、何故だろうこの謎の罪悪感は。
「それは……姫城さんと?」
「ああ」
「二人だけ?」
「今のところは」
まぁ二人三脚を一人で練習しても仕方ないし、三人で練習しても違うし。
「じゃあ私も二人三脚練習する!」
「いいんじゃないか? そういえばユキは確かユイと組だったはずだな……じゃあユイも連れてくるのか?」
「ユイはバイトしてるみたいだし――」
そう、実はユイ最近バイトをしているようなのである。
何やら自分が下之家に住むにあたっての生活費を収めるべくバイトし始めたとのこと、姉貴曰くユイの親父から生活費諸経費は振り込まれているらしいが、ユイがそれを譲らないらしい。
なんだかユイというヤツは変なところで真面目である。
「……だから、もし良かったらユウジが練習相手になって欲しいなー、って」
「っ!」
おおう、なんだか最近のユキさんアグレッシブ。
でも、なんだろか……なんか最近のユキさんは変というか妙というか、焦ってるようにも見えたり見えなかったりするのは……どうしたんだろうか?
というか冷静に今考えてみると――姫城さんと放課後練習ということは、ユキとの帰り道タイムを堪能出来ないということになる……!
し、しかし男に二言は無い上、約束を即刻破るというのは男以前に人として最低だ。
ユキには悪いし、正直名残惜しいが……と、考えている一方でユキと姫城さんの間では──
「ダメです! ユウジ様とは私が先に約束してるんです!」
「じ、じゃあ時間の合間をぬってさ!」
「ダメです。ユウジ様との時間に合間などありません」
「いいじゃん少しぐらい! マイの分からずや!」
「……そうは言いましてもユキ、これは厳正なくじ引きの結果ですよ?」
「二人三脚のペアと練習するかしないかは関係なくなくない!?」
いがみ合う二人は、傍から見れば仲が悪いようにしか見えないのだが……やっぱり呼び捨てなのな。
そうこうして二人言い争ったあと、姫城さんが説き伏せユキは「次は私なんだからー!」と言い残して涙目で走り去っていった。
……なんでそんな突然小物みたいなノリになったんだろうか、きっとギャルゲーのシナリオが悪いんだと決めつけることにした。
ということで、練習開始。
各自更衣室で体操着に着替えてグラウンドに集合。
ちなみに本校は後片付けさえすれば、他部活の邪魔にさえならなければグラウンドの使用が自由である。
そしてグラウンドにいざ出てみると、体育祭に備えて熱心に練習をする他クラスの方々が。
「姫城さん、これでいいんだよな?」
ポケットから取り出すのは、白色の幅五センチ長さ五十メートルほどの伸縮性のある布というかベルト。
ちなみに制定品で、選択時に練習用として一ペア一本支給される、これを双方の脚へと結び付け二人三脚をするのだ。
さて、まずは──
「肩を組んで走ってみようぜ」
「かかかかか肩を組むのですか?」
いや、組まないと二人三脚しようがないし。
「いえ! 実際にや、やってみましょう!」
「いいのか? じ、じゃあ俺の隣に──」
プシャッ……という謎の音が聞こえて姫城さんの方を向くと――
「!? 姫城さん、鼻血鼻血!」
「はぁ、はぁい……なんか緊張して」
すると姫城さんの鼻から血が垂れているではありませんか。
「ティッシュ持ってないぞ!?」
「上を向いていれば、大丈夫です」
そう言って上を向くが未だに鼻血が止まる気配はなく――
「それはヒロインとして……女の子としていかがなものか──仕方ない、保健室行くぞ!」
「ええ!? 大丈夫ですよ!」
「歩けるな? ……いや、あまり動かさない方がいいな」
「ええ! ええっ?」
鼻血が出たら首トントンは間違っていて、むしろ動かさない方がいいことはなんとなく調べて知っていた。
そうして俺は――
「よいしょっと」
「っ!? ユユユユウジ様っ!?」
……俺は姫城を持ち上げる、片手を膝裏に片手を背中回しに──これは俗に言う。
「お、お姫さま抱っこ!?」
勢いで持ち上げてしまったが、いいのかコレ!?
……本当なら肩を貸して歩く程度でいいはずなのに、俺は何故こうしてしまったのか。
こうして過保護気味に女子をお姫様だっこしている様子というのはなんだがデジャブな気がするのだが……いつのことだろうか。
もしかしてデジャブ関係なく、ギャルゲーにおける作られた記憶にあることなのだろうか――
「は、はわっ……」
彼女の顔はまさに赤く茹であがっていた……まぁ恥ずかしいよな。
だが、しかし姫城さんの鼻血も止めないといけないし──ウダウダ言ってられねぇ!
と、らしくない俺の熱血風が顔を出す。
そうして俺は保健室へと向かった……抱き抱えてから放たれる血の量が増した気がするのは何故だろう。
そうして保健室。
保健室で放出され続ける鼻からの出血を止める処置を保険医にしてもらい、保健室を出る。
「大丈夫か? 姫城さん?」
「大丈夫でし」
……鼻に詰め物をしているせいで鼻声になり、少し痛々しい――ちょっと間抜けとは思ってない、思ってないから。
「肩が触れただけなんだが……俺、何か悪いことしたのか?」
「違うんです!」
「いや、もしかして体調が悪いのに──」
無理して俺と練習を……? と思ったのだが――
「ユウジ様のお肩に触れられたことに興奮したからです!」
「……聞かなかったことにしていい?」
「ご自由にどうぞ」
ご自由でいいのかよ! 明らかに俺が引いているのを見ておいてこの鋼のメンタル!
「……今度は大丈夫か?」
「はい! 体内の血流を操作しますので!」
「器用なこと出来るのな……」
そうしてまたグラウンドに戻ってきて練習を再開しようとする。
二人の足首を結び――
「で、では」
「あ、ああ」
ブッシュッ……と、まぁ再発。
いや、今は肩すら触れてないというか! 足首が触れ合っただけでアウトなのか!?
「姫城さああああん!」
「理性には……勝てませんでした」
あー、うん……ポケットティッシュもらっといて良かったわー
で、その後。
なんとか慣れてもらい、布を結び付け二人で歩けるようにもなっていた。