第460話 √b-44 神楽坂ミナの暴走!
超伏線バラマキ回、4つぐらいありますよ
二人勉強会の状況を作り出したこじつけ……じゃねえよ!
それぞれの要因をあげていくとすれば――まずは今日がテスト一週間前に突入し短縮授業になっている点。
いつもは六時限目まである授業はそれぞれのコマが数分短縮された上の早帰り、おのずといつもと比べると時間があまる。
そして放課後を迎えるのは二時も手前頃となったのであった。そして次に人的要因を挙げていくと、
「ぬふふ、今日新しいギャルゲーが出るのだよ!」
「”この中に三人、幼馴染がいて修羅場すぎる!”というものなんだけどなっ!」
ユイとマサヒロが息を荒くして買いに行くのだという。
「konozamaaで買えよ」
「分かってないなァ、店頭に来て買うからこそイイんじゃないか」
「ユウジはその醍醐味を知らんのか! この高橋マサヒ――」
以上の理由によりユイと男子Aは商店街へと駆けていきました。
以下転校生コンビことクランナとアイシアはというと、
「たまには私とオルリスとマナっちゃんで喫茶店と洒落込もうと思いまして」
「そういうことですので、夕飯までには帰りますわ」
以上ようせい(を想像させる神秘的な二人)とマナっちゃんのお茶会だとのこと……マナっちゃん?
「え、マナちゃん? って誰?」
「私ですよ、下之君」
「うおぅ!?」
その声は突如として現れた、俺の真後ろに気配もなくいつの間にか近づいていたのである。
「下之君、私の名前を呼んでみましょう」
「イイ・ンチョ」
「……今度からあなたのことを下ネタウジ虫と呼びましょう」
「嵩鳥マナカ様」
その名前が定着したら社会からの追放が確実すぎる、委員長は底が見えない辺り敵に回すのはよした方がいい。
「じゃあ様付けでこれからも呼ぶんですね? 主従関係が確定して私的には面白いです」
「訂正、さん付で」
「他人行儀が気に食いません、あなたがシスコンであることを周囲にバラしますよ」
「だからシスコンじゃねえよ!」
……ん? えらくこんな否定の言葉が出てきたような。
うーん、何かの場面で使っていたような。いや、結構頻繁に……むむぅ思い出せない。
「嵩鳥と呼んでください、ということで私はクランナさんとアイシアさんで放課後コーヒーブレイクです」
「お、おう。じゃあな嵩鳥、クランナ、アイシア」
というかいつの間にこの三人の関係はド出来たのだろうか……クラス違うし接点が微妙に思いつかん。
まあ、以上のメンバーが予定があるということは。このことからわかるように今日は生徒会活動はナシ、かつてのように連日ではなくなったのであった。
で、以下ミナはというと。
「ユウくんごめーん、クラスメイトでカラオケに行くことになったんだ! 明日は参加するからねー」
持ち前のコミュ力を生かした友人ネットーワークメンバーでのカラオケ、数か月前に俺とユキで出かけた以降は友人たちとも出かけるようになったようだ。
もしかして変に意地張ってただけだったりするのか? ……ミナの考えていることはやっぱり読めん。
その時ミナはどこかの方向に向かってウィンクをしていたのを俺は見逃していたのだった。
* *
「ということらしい」
「重なる時は重なるものだねー」
と、いうことで二人きりの勉強会が成立した経緯である。
「今日は世界史やろっか」
「だな」
そうしてそれぞれ教材を持ち合わせて、適当な机を二つ見繕って向かい合わせてくっつける。
各々ノートを開いてそれぞれ参考書の問題を解き始めたり、暗記ノートを作り始める。
「…………」
「…………」
二人共に真面目に勉学に勤しむ。
脇道に逸れがちなユイや、ところどころ抱き着き癖のあるアイシアや時折質問してくるクランナがおらず、何かに付けて話しかけてくるミナがおらず、何故か必要以上にボディタッチを試みてくるマイがいない。
基本的に二人とも普通に寡黙に勉強に向かうのだった。
「そろそろ小テストやるか?」
「うんー、じゃあまずは私が出題するね――」
至って何のイベントもない、変化がないからこそ一緒に居ても肩に力が入らない。
少し前に聞いた、彼女が本当の幼馴染でない事実がまるで嘘のように。この感覚は――
「び、微妙」
「再テスト決定! 三十分後にもテストしよっ」
「ユキは殆ど覚えてるのなあ、その記憶力が羨ましいぜ」
「そうかな~、でも意外と他の人よりも記憶力いいのかもね」
「いやあ実に分けてもらいたいモノですよ、ホント」
などと一しきり冗談を言い合って、また黙々とスタディ。
「無理、もう持続しない、ギプアップ二秒前、ハイ落ちた俺はダウンしたよ!」
「二時間経ってるもんね、少し休憩にしよっか」
「全面的に賛成の意を示す!」
「飲み物買いに行く?」
「おうよ!」
「その元気でつっ走ってみる気はないかい?」
「微塵もねえ! 張り切って休憩だァ!」
そうして二人教室を出た、少し歩いたところにあるベンチが数脚と飲み物の自販機の置いてあるロビーと言うの名に偽り疑惑のある小ロビー。
「お、ユキは”午後なミルクティー”か」
「そういうユウジは……ジ、ジャングルメン? そんなものあったっけ?」
「生徒会権限でわざわざチェソオの会社の商品置かせて貰うよう卸と相談した」
「さりげない権限濫用発言だ! というかどんな味なの?」
「んー、後味スッキリで炭酸強めなオロナミソ」
「マニアックだあ」
「マニアック飲料の中でもこれは当たり中の当たりだぞ? ユキは炭酸苦手?」
「んー、苦手じゃないけども栄養ドリンク系は苦手かなー」
「ユキの好きなガラナ飲料もどちらかというと栄養ドリンクではないにしろマニアックな飲料系だとは思うんだが」
「……ユウジ、権限でお願いできない?」
「要求は役員一人につき一枠まで、ユキのスパイス好きもここまで来るのかあ」
「べ、別に私はスパイスなんか好きじゃないんだからねっ」
「ドクペは?」
「あれはコーラの始祖みたいなものだからノーカンだよ!」
「筋金入りのスパイススキーだな」
「べ、別に好きで買ってるわけじゃなくて反射神経で購入して蓋を開けて飲んでいるだけなんだから!」
「うん、病的なレベル」
「ユ、ユウジは飲まないの~?」
「飲むけどもそこまで病的じゃないって、個人的には一度飲んだダイエットドクぺはスッと飲めて美味しかったな」
「! ど、どこで売ってたの!? 一度も見たことがないんだけど――」
こうして飲料談義で盛り上がっているのを懐かしいと思う俺がいた。
そういえば……いや、どうだったか。うーん……どうにも曖昧で仕方ない。
「――あれ、結構好きかも」
「刺激物を好むであればこういう薬っぽさも悪くないだろ? それでいてこれは炭酸強めでありながら飲みやすい」
表情には出さなかったがさりげない関節キスの成立、頭の隅にその意識があるだけでドキリとしなくなったのは俺も悟りの境地なのかもしれないな。
こういうのが主人公だと「HOMO」か「不感」などと言われそうが、断じてそんなことはない。自称するのも難だがムッツリなだけ、うん。
「……あ、あのさ。突然だけど」
「ん?」
「ユウジは覚えてる?」
「……一分前の会話は国産ドクペと輸入ドクペの話だったな」
「あ、えっとそうじゃなくて、その……」
突然あたふたしだしたユキを不審に思いつつ、首を傾げる。
そしてユキは具体的な質問を向けてきたのである。
「あいはま幼稚園の頃覚えてる?」
「……ああ、まだあるよな。俺も確かそこが卒園生のはずだけども。すぐに出てくるあたりやっぱり記憶力いいんだなあ」
言われて初めて思い出したわ、記憶ってのは掘り起こさないと劣化するものだからな。
「! そうそう、そこのこと! それで、ユウジはさ」
「おう、俺が?」
何度も聞き返している構図だな、というかどうにもユキがところどころ言いよどむのでしょうがない。
そして数秒の後に聞いた言葉は、
「神主って名字に聞き覚えある?」
苗字まで覚えてるとか記憶力スゲエ……じゃなくて。
神主、そう。カミヌシと読むそれは――
「そういや俺の幼少期の名字が」
それだった。
「っ! そ、そうなんだ」
それは物心ついてから、顔も覚えていない父親が亡くなってからも数年の間だけ名字がそれだった。
神主ユウジ。
「(運命ってあるんだね)」
どうして時折女性陣はこうも何かを口を開く際に虫がなくほどの小声なのか、俺はユキの呟いた内容を知ることを叶わなかった。
しかし隣のユキは俯きがちに頬を赤くしているように見えた。今までのどこにそんなポイントが? と疑問にクエスチョンマークを浮かべていると、
「じ、じゃあ休憩終わり! アト一時間頑張ろっ」
「なげえ! いや食事の用意もありますんでできれば――」
こうして日が暮れる少し手前まで試験勉強に熱を注いだのだった。