第455話 √b-40 神楽坂ミナの暴走!
なんか尺が足りない気がしてきたんですけど(自業自得)
五月三十一日
この学校の全体的な動き出しの悪さに少し辟易してしまう。
先日なんとかマヨナカ予習アーンド復習で乗り越えた定期テストもテスト範囲の掲示が遅い。
考えてみれば生徒会役員紹介だって実際のところ追加人員の関係では丁度良かったが、実際はかなり遅い。
というか生徒会がどれだけ頑張ろうと、体育授業との兼ね合いでこの日にしかならなかった。
「いくらなんでも今日って……」
生徒向けの競技決め。ほら、体育祭で選択競技とかクラスを代表しての走競技とかあるじゃん?
それを全生徒向けに、各教室のホームルームで即日決定するというものだ。
ちなみに体育祭は十二日。生徒内では短い練習期間、生徒会内では選択競技の名簿作りに追われるのだった。
体育の授業を潰して体育祭練習をするからって、これはナイ。
別に早くに決めてもいいだろうとも思うのだが、今まで描写していないだけの一度も登場していない生徒会顧問の教師は。
『決まった途端に朝練とか放課後練習するヤツが現れて、運動部から苦情が出たんでギリギリな』
この学校というかこの町全体が微妙にお祭り気質だけあって体育祭に浮足立つ生徒も少なくない。
そして以前には早くに告知した結果練習で負傷するというアホみたいなことをやらかした前科があったりするという。
不満こそ解消はされないが、名前だけ副会長の俺とはいえ逆らってもしょうがなく自分の多忙化確定に固唾をのむこととした。
そして今日、前述のとおりホームルームでそれを決めるのだが。
体育祭委員会というまともなものが存在せず、チサさんがどっかから引き抜いてきた精鋭こと「体育祭委員予備軍(仮称)」との共同作戦で体育祭は運営する。
しかし全クラスに(仮称)が存在しているわけでもなく、ここは学級委員長に率先して行ってもらうことになった。
と、いうことで全クラスの学級委員に八時には来るよう大分前と昨日に教師経由で伝達してもらった。
集まってもらい、簡単な説明のあと。競技リストやらの資料を配布するというものだ。
『ね、ねむい……ユウジは先に行っておいてくれぃ』
『レディの支度には時間がかかりますの、申し訳ありませんが先に行っていてください』
と下之寮(家)の住人には言われたので寂しく一人登校、まああえて早くに呼びかけたから二人はあと一時間かかろうが大丈夫なんだけどね。
五時起きでちゃっちゃと弁当と冷めても大丈夫そうな朝飯を作って六時四十五分には家を出た。
『行ってらっしゃい、ユウジさんっ』
健気にも毎度毎度見送ってくれるホニさんに感涙を抑えつつ、手を振っての登校。そして学校到着。
「(集合は図書館だからっと)」
まずは生徒会室から資料持ってくるか。
ここからが大変だ。なにせ全生徒分のプリントも必要だからなあ。一クラス約三十枚と考えれば容易いがクラス二十個分だ。
そしてそれが詰められたダンボールからクラス人数分ごとに別ける仕事が待っていた。
「(チサさんも流石に……会長は)」
いわずもがな。
さあて頑張りますかね、と予め買っておいたものの温くなっている栄養ドリンクを口に流し込んで気合いを入れた。
「お早うございます」
「え、早くね?」
鍵を持ってきていざ聖地へと、向かい着いたその時のことだった。生徒会室の前にはすっと背筋を伸ばして直立する見覚えのありすぎる女子生徒……いや、生徒会役員が立っていた。
他ならぬマイである。
「ユウジ様こそ、まだ七時を過ぎたぐらいですよ?」
「いやでも集合は七時五十分だって―――」
「……あ、二時間間違えてしまいました」
そして微妙に機械的に頭をコツンと叩いて舌を出すマイ。
「え、二時間」
「冗談です」
そして結構自然な微笑……騙されたのに可愛いなあくそう。
「最低でも一時間は間違えてくれたのか」
「そういうことになりますね」
「じゃあ間違いついでに来てくれたことだし、手伝ってくれるか?」
「はいっ」
マイは嬉しそうに返事をした、最初に会ったマイの印象から未だ二ヶ月も経っていないのに変わり始めている。
その事実に少し驚きを感じてしまった。
「すみません、お手洗いに行ってきてもよろしいですか?」
「いやいや俺に許可取らんでも。ゆっくりしてきてね!」
「剛速球で帰ってきます」
そうして小走りで女子トイレに入っていったマイ、俺のことをトイレに行くことも我慢して待っててくれたのではないかという妄想が浮かびつつ、プリント入りダンボールを積載した荷物運び用のカートを押して図書館へと向かった。
すると、
「あら」
「お」
図書館、未だに七時も十五分だ。よっぽどの勉強好きだけでも学習室に籠る、わざわざこんな朝早くに本を読む酔狂な人なんていない。
はずだったんだが。
「委員長召集とはいえこんな時間に来て本を読むなんて酔狂な人もいるもんだ、という顔をしてますよ」
「どんな顔だよ」
委員長ということで察していただきたいが、この人は。
「嵩鳥マナカです。よろしくお願いします」
「セリフ取るなよ」
そう委員長である。
なぜか今まで中学一年から俺と同じクラスで、ずっと委員長を務めているという赤く縁取られた楕円メガネに黒髪ロングヘアーが特徴な女子生徒である。
「小学一年からですよ」
「もしそれが本当なら天文学的数字だろう」
「どうなんでしょうね」
委員長とはあまり話す機会はなかったが、結構気さくな人だったようだ。
むしろなぜ今まで同じクラスで委員長皆勤の嵩鳥とそこまで接点がなかったものだと疑問に思うほどだ。
「にしてもはえーな、一応集合は八時のはずだったけども」
「……あ、三十分間違てしまった――と思った? 残念! 意図がありました」
「委員長って朝テンション高いタイプ?」
「”嵩”鳥だけに?」
あ、なんか今までのイメージ崩壊が凄まじいわ。
「お疲れ様副会長、毎日こんな調子じゃ倒れるんじゃないですか?」
「どうも、まあ流石に毎日五時起きじゃないさ」
「そう? ……あ、そういえば今日配る資料ってどんなものかしら」
「ああ、コレな――」
そうして委員長に説明をして、
「委員長権限で体育祭不参加ってダメ?」
「委員長でそんな権限あったら生徒会役員は一体なにを出来るってんだ?」
「役員を推薦するとか?」
「…………」
さっきから妙に的を射たというか見透かすような発言が多いのは気のせいではないな。
「なんか委員長には透視能力でもあんのか?」
「どうでしょう、とりあえず普通の人よりは相手の心が読めてしまうかもしれませんか」
……なるほど表情や挙動でどんなことを考えているか想像する、と。
勝手に解釈してみたのだが、隣の委員長がニヤリ笑ったのは見なかったことにしよう。
「そういえば委員長はさっきまで何を読んでたんだ?」
「え、偽〇語」
「え、委員長ってそういうのも読むの?」
「読んじゃ悪い? ネタ仕入れにね」
「ネタ?」
「まあ個人的に、趣味でネットに小説投稿してるのよ(ドヤッ)」
「ああ、そうなんだ……でもすげーな、小説書けるって。思ったことを文章に出来るって才能だと思うわ」
「そ、そう?」
「尊敬する、俺はそういうのめっきりダメ。創作性ないんだよなー」
「そんなことないですよ――」
「え?」
委員長は後に何か続けていったのだが途端に聞こえなくなった。
「なんでもない、さあ副会長様。後ろで役員の一人が睨んでますよ」
「え」
気づいて後ろを振り返るとジト目のマイがいた。
「お、おう戻ってたのか」
「……はい」
うわあ、なんか機嫌悪い。少し前と比べると微妙に表情が豊かになっているようでヘソを曲げているようにも見えた。
「じゃあ早速で悪いけど、マイ手伝ってくれ。マイの力が必要だ」
「……! はいっ」
ちょろい。
……なんてことを言うんだブラック・俺! じゃあとりあえず嵩鳥コレよろしく、とまとめていたプリントを手渡すと振り分け作業に戻った。
「…………ふふ」
委員長が後ろでなぜか微笑んだのを俺は見ることができなかった。
「体育祭種目決めチキン☆レース!」
委員長がそう机を叩いて宣言した途端にクラスメイトの一部に燻るお祭り魂に火をつけた。
もう俺の知ってる委員長じゃねえよ。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」
ちなみに一時限目を潰しての超ロングホームルーム。
その後謎競売、謎腕相撲、謎自慢大会などで種目が決定してくのだが、そのノリは五時起きの俺にはキツイことこの上なかった。