第454話 √b-39 神楽坂ミナの暴走!
草案は六日前に出来ていた(ドヤァ
戸締りしてからの待たせていた皆と合流。
ミナ、マイ、ユイ、クランナの間ではまったくもっての心地よくない沈黙が支配していた。
前二人に関しては睨み合い継続中、後ろ二人に関しては何か余計なことを喋らないよう口を滑らさないようという配慮からの沈黙と思われる。
俺が「待たせて悪いな~」とあえて空気を読まずに和やかにその沈黙に迎えうったが「どうしてこうした?」というユイと「どうするんですユウジ!」という非難の視線を頂戴した。
なんとまあいい迷惑ですよねホント、心中で申し訳なく思う。
「ユウジ様も来たことですし、帰りましょうか神楽坂さん」
「そうだね、姫城さん」
お互いに名前の部分を語気を強めて強調するように言い放つと双方腹に抱えた怒りやらの感情を押し殺しているかのような微笑のまま歩き出した。
「じ、じゃあ帰るか!」
俺のせいで修羅場。俺の幼馴染とクラスメイトが修羅場すぎる!
俺はこういうの苦手なんだって! もともと能天気人間に出来てないばっかりに今回のミッションは荷が重すぎる!
つい後ろを気まずそうに歩くユイとクランナに「もう一回戸締りしに行きたいんだが」というのをジェスチャーで表現すると。
「……ヘタレ主人公は視聴者はもちろんヒロインにも嫌われるぞ」「潔く受け止めてなんとかしなさい!」という非難と侮蔑の籠った表情を頂いた。
どないせーっちゅんだ!
今日はマイの言う通り商店街に行くつもりだった。
ミナはマイをストーカー呼ばわりしていたけども、ミナも俺と帰るつもりで待ってたんだよな?
……俺が商店街に行かず買い出しをしない選択肢もあったはすで。どこにそんな勝算があったんだろうか。
幼馴染のカンと言うヤツ?
なんてことを考えてるってのは余裕だねえオイと言われそうだが、余裕なんて微塵もないぜ!
買い物なんて投げ出して真っ直ぐおうちに帰りたいですハイ! ……夕食レトルトでも文句言わないよな?
というもはや情けなさに拍車のかかる脳内俺が独り言を延々続けていたその時だった。
「最近ユウジ様のお好きなスクール水着に身を包んで一緒にお風呂に入りました」
…………?
ん、彼女は一体なにを言ったのだろう? スク水? お風呂? んー……?
はあああああああああああああああああああああああ!?
「はいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
そして少し前を歩くマイの隣のミナが同じように驚愕の声をあげた。
「ど、どどどどどどどどどどういうことよユウくん!?」
「待てミナ、近い近い! 近うよるな!」
ミナはぐいっと振り返ると顔が衝突せんばかりに接近してきた。
「お、俺にもなんのことだか! マイ、さすがにそれは事実無根すぎる!」
「じゃあなんでよユウくん! スク水好きなんてなんで姫城さんが知ってるの! そ、それで一緒にお風呂だなんて! それも最近……!」」
どうでもいいけど幼馴染にも性癖バレてるー!? いやどうでもよくない!
まって、どれだけ俺の性癖は漏えいすれば気が済むんですか!
「そ、そんな前世のあなたはであんなに私の肢体を舐めまわしていましたのに!?」
「前世が最近だと!?」
いやいやいやいやそこじゃないツッコミを入れる部位はそこじゃない!
「なんだ前世かぁ(ホッ)」
「その結論で安堵出来るのかよ!」
ミナもミナで価値観が分からん! というか前世ってなんなんだよ! 最近そういう類のことばっかり聞くんだが!
「私、前世の記憶があるんです。ユウジ様と結ばれていたんですよ?」
「そ、そうか」
そう受け流すしかないだろう常識的に考えなくとも!
しかしそれからまさかの、
「さっき聞いたぬう、実はアタシにも!」
ユイ参戦。そういや前夢に見るとか言ってったっけなあ。
マイはすると前を歩くのを止めて後ろを歩くユイとクランナに合流した。
「え、姫城さんだけでなくユイさんもあるのですか?」
「うぬ。前世でアタシはユウジと結ばれてたなー」
「私も前世で結ばれてました、一緒にお風呂にも入りました」
「さっき聞きましたわ……私も前世ではユウジと恋人関係でした」
クランナもかよぉ! というかあなたあの場で言いましたね、って他人事じゃねえ!?
「クランさんはどんなイベントあったんかい?」
「イベント……? ああ! 出来事ですか、そうですね……一度ユウジが死線を掻い潜って助けにきてくれました」
「おおうファンタジー~」
「流石ですねユウジ様。私はユウジ様に私の心傷を癒してもらいました」
「アタシはだからこうして眼鏡を外す!」
「そんな意味があったのですね。……なるほどそういう訳でしたか」
「え、ユイさんは前世のおかげで眼鏡を外しているということですよね?」
「うむ! ユウジに無い方がいいと太鼓判を押されたっ!」
いや、ないと良いとは思うが現世の俺は言った覚えがないです!
「……なかなかの囲いっぷりです、ユウジ様」
「罪作りな男性ですこと、でもそんなユウジが私は嫌いじゃないですわ」
「アタシは好きだぞ! ラブってるぜえ」
「私も心の底から愛しております」
……なんなんだこれ、なんなんだこれ! ガールズトークなのか、超電波なガールズトークなのか!?
この人たち前世の話題で盛り上がってるよ……最近のガールズトークのトレンドは前世の話題なんだな。
……ねえよ!? 世代が何回巡ってもそんな話題が中心になる世の中なんて来ねえよ!
「――奇遇だなマイさん、アタシも前世ユウジと浴衣デートしたんだぜい」
「奇遇ですねユイさん、私もユウジ様と前世で浴衣デートを」
「お二人とも羨ましいです……美しいニホンの文化! 私も浴衣を一度着てみたいものです」
「クランナさん、商店街に浴衣を安く借りれる店があるそうですよ」
「本当ですか! ぜ、ぜひ詳しく――」
お、普通のガールズトークになった。
「――アタシが準イジメっぽいことをされているところに颯爽と現れて『ユイ、可愛いだろ!』って」
「ユウジ様の時折飛び出るアグレッシブな行動ですね! ユウジ様の真骨頂ですっ」
「私の栄養不足に気付いて、ユウジは何も言わずにお弁当を作ってもらったこともありました」
「ユウジの飯はうまいよな!」
「そうなのですよね、私も精進しませんと」
やっぱり戻った! 前世の記憶鮮明過ぎるだろう皆さん方!
「……ユ・ウ・く・ん? 事情説明出来るよね?」
「いや何がなんだかわからな過ぎワロタ」
「あまりにも具体的すぎる事象の数々が聞こえてくるんだけど! なんで? ねえ、ユウくんなんでかな!?」
「俺にもわからないって! ……生徒会入るまではお前とも普通に遊びに出かけてたし、そんなこと出来ねえよ」
「……そういえばそうだよね」
「それにクランナは今年四月に来たばっかで、そんな暇なんぞない! 俺がマイと仲良くなったのも最近だろう?」
「……考えてみればそうなんだよね、うーんどういうことなんだ!?」
俺が聞きたい。
どうやら一通りに会話が終わったらしくマイが戻ってきた。
「――前世で結ばれた経験のある私ならば、容易にユウジ様をオトしますよ?」
「私に言ってるのかな? 姫城さん?」
「指をくわえて見ていることです。私とユウジ様のいちゃいちゃぶりをお楽しみください」
「さっきから前世前世って! どうせ妄想だよ! 大体あなたとユウくんは――」
「では耳を貸してください、お話ししますよ」
「ど、どんとこい……って、ええ!? ……ユウくんがそんな……嘘よ、嘘に決まってる……そ、そんなことまで! …………」
ミナとマイはお二人の世界に。
……なんか入っていけそうな気がしないので放置するか。
「なーなー、ユウジ”キッド”寄ろうぉ! 掘り出し物狙いだァ!」
「いや、俺は食材調達に来ただけだから。家でホニさん待ってるからさ」
「お、おう……じ、じゃあ! アタシだけでも見てきていい!? 三分間でいいから」
「いや、いいけど三分間で買い物は済まないから七分ぐらいでいいよ」
「サンクス! ユウジ愛してる!」
……最後余計だよ、残る女性お二方の表情が微粒子レベルで険しくなっただろうが!
ん? 二人……?
「クランナいねえ!? ちょっと二人は先行っててくれっ」
まさかはぐれたのか! ここ基本一本道だからすぐに見つかるはず――いねえ!?
なんでだよ! 端から端まで探したのに、まさか路地に入ったのか? いくらなんでもそんな……いや何かめぼしいものでもあったのかもしれな――いたよ!
路地でオロオロしてる金髪外国人がおひとりさまだよ!
「……はぁはぁ、クランナここにいたのかよ」
「ああ、ユウジ! なぜ先を行ってしまうのですか」
「……いや、勝手に隊列離れたのはクランナじゃねえか」
「何を言うのですか! 私はキッチリ真っ直ぐ歩いていましたわ」
「……この道は曲がらないと入れないと思うんだが」
「そ、そんなはずは……あら、確かに道も狭いですし人通りも少ないですわね」
この人方向音痴なのかー!?
「とりあえず主目的買い物だから、戻ろうか」
「は、はい……見つけていただきありがとうございますわ、ユウジ」
なんか嬉しそうだな。なぜかは知らんが……まあギャルゲーそのままだったら好感度が上がりそうな表情だなあ。
「ユウくんは私を好きになるに決まってる! やっぱり関係が長続きしそうなのは幼馴染だよっ」
「いえ! それは親しい友人止まりです! 慣れ親しんだ男女が恋愛関係に発展するなんて稀有です! 私をユウジ様が好きになることは確定事項ですっ」
商店街の真ん中で怒鳴り合いながら口論するお二人。
も、戻りづれえ……。すると隣のクランナが動きだし、
「ちょ、クランナ」
「ユウジは私の騎士となると宣言し約束してくれました、そんな私こそが結ばれるに決まっていますわ!」
なんか参戦したぁっー!?
「三つ巴の女の戦いですね……いいでしょう。クランナさん、私のすべてを受け入れると言ってくれたユウジ様の気持ちが誰に向かっているかは自ずとわかるでしょう?」
「二人とも前世前世うっさーい!」
……買い物行ってこよう。
俺は「知人でも話題の中心人物でもありません」のオーラを漂わせてスーパーに向かおうとしたのだが、
「お待ちくださいユウジ様」
「私を置いて行くなんてどういうつもりですの?」
「待ちなさいユウくん! 話したいことが山ほどあるよっ」
三人の視線の先に居れば、まあバレるよな。
周囲の商店街の野次馬共はとにかくヒートアップ、お一人さま群からの貫通せんばかりの視線に今後の死線を予感しつつも。
「とりあえず早く食材買って帰りたいから、ストップ!」
その後店の中を回りながら三人をなんとか問いただし、延長戦はなしで買い物が終わったら帰る旨を伝えると。
「では次は学校でですね。お覚悟くださいユウジ様」
「臨むところよ! 姫城さんの鼻をへし折ってやるっ」
「……さっきまで私は何を口走っていたのでしょう、こんな大衆の前でどうしてあんな行動をあああああああああああ――」
「おおユウジ! あの怪作”とっきゅん”が売ってたぞぇ! ユウジ、今日の晩飯なんだー?」
一言言わせて頂きたい。
……とりあえず休ませてほしい。