第446話 √b-31 神楽坂ミナの暴走!
「もうテメー割烹書くなよ、そうすれば本編を馬車馬のように書くんだろう? 言い訳的にはそうだよなあ、ああ゛?」という脳内読者の声が聞こえてくる気がする……もはや何言ってるのか自分でもワカラヌ
神楽坂さんが「いいよ」と言ってくれたので、二人廊下を歩きだす。
返事をくれた瞬間にちょっと教室がざわついたのが疑問だけど……これはまたとないチャンスだから!
女二人で、ユウジ抜きで話せる絶好の機会なんだ! ユウジと神楽坂さんと私とのお出かけの前に――
出来るなら、彼女の真意を知りたい!
「突然ごめんねー、ちょっと神楽坂さんと話したくなって」
「気にしないで良いよー、私も篠文さんと話したいと思ってたんだ」
ユウジに見せる純粋無垢なハツラツとした笑顔じゃなくて、どこか作り物のような笑顔でそう彼女は答える。
「ならよかったー、実際二人で話す機会って少ないもんね」
「うんうん――同じ人を幼馴染に持つのにね?」
私はその時にある考えが確信に近づいた――きっと神楽坂さんは私をよくは思っていない。
いつも彼女と話すときはユウジや友人が周りにいて、こうして面と向かって話す機会はなかったのだ。
――彼女の言うようにユウジを幼馴染に持つのに、私と神楽坂さんとの会話も関係もユウジがいてから重なっていた。
そして、きっと彼女は。
「でもね。言っとくけど、幼馴染は一人でいいと思ってるんだ」
神楽坂さんの笑顔の裏にどんな真意が感情が渦巻いているのか、読み取ることはできない。
彼女は潔癖であり完璧超人だった。そんな神楽坂さんが毒を漏らしたのに衝撃を受けた。
でも私もそう言われて、ハイそうですかなんて言えない。私にとってユウジが幼馴染というのは――
「……そ、そうかな? 私は別にいいと思うけど」
「篠文さんは一夫多妻制を推しますか、なるほど寛容だー」
ええ!? なんでいきなりそんな話に!?
「えっと神楽坂さん? いきなりそんな制度の話に……」
「え、だって幼馴染ってことは小さい頃に結婚の約束とかしてるよね?」
ええ!? 幼馴染ってそういうものなの!?
「私はして……ないかな」
「へぇ、口約束はしていないけども”こんやくとどけ”のような既成事実は作ってるあるんだ」
「いやいやいやいや! ないよ! そんな事実一切合財ないよ! というかどうしてそっち方面に誘導するの!」
「え、幼馴染の定義ってそういうものじゃないの?」
価値観が違い過ぎる!
「違うと思うけど……というか文面通りに幼少期から馴染のある人でいいんじゃ」
「っ! なんてこと……私の中の常識が崩れていく!」
常識ってなんだっけ!?
「そこまで過激な条件下での定義ではないと思うよ、うん」
「そ、そうなんだ……なら一人や二人仕方ないのか」
わ、わかってもらえたかな。
「どっかの国に行けば一夫多妻制も受容されるからね、未来を見据えてるね!」
「そんな未来見据えてない見据えてない! 話題ループしてるから!」
思ったより神楽坂さんクセのある人だ!
「私の中では”幼馴染”という定義がそれだったんだよね、さっきはトゲのある言い方してごめんね。セカンド幼馴染さん」
「こちらこそ……ん? セカンド?」
「ファーストはわ・た・し! これは十二分に勝ち誇れるね」
いきなり格付けし始めて、突然勝ち誇り始めた!
「そんな順位付けする必要ないんじゃないかな!」
「……愛人主義でなく全員を正妻として扱うべきと主張するんだね、なんて慈悲深く寛容な!」
「だーかーらー!」
という話をしていると下駄箱に辿り着き、靴を履きかえて昇降口を二人並んで出る。
「改めて幼馴染Aの神楽坂ミナです」
「ああ、どうもご丁寧に……篠文ユキです」
「幼馴染Bの篠文さんよろしくね」
「いちいち呼称の最初にそれを付けるの!?」
「その方がいいと思うんだけど? ユウくんにとっての”クラスメイトA”とか”妹D”とか分かりにくくならない?」
「会話でそれを常に行う必要はないかと……というか名前で呼んでいいからね? 遠慮してくれたのか分からないけど」
「いいの? じゃあユキさんでいい? 私のことは神楽坂さんでいいよ」
「変わってない!? というか呼び捨てでいいのに」
「冗談冗談、じゃあユキで。私もミナでいいよー」
ということで、およそ数年間にも及ぶ壁らしいものはこの一連の会話でだいぶ薄くなったのでした。
……あ、あっけない。
「ミナはどんなものが好き?」
「唐突だねー、好きなものユウくんです(ドヤァ)」
「あ、うんそうなんだ……」
「ここは”趣味の話じゃないの!?”とツッコミを入れるところだよ」
「でも嘘では、ないよね」
「嘘じゃないよ、私はユウくんのことが好き」
……ここまではっきり言われると清々しいなあ、というか最近ユウジの周りの女の子は告白をストレートにしすぎな気がするんだけど!?
わ、私が間違ってるのかな? いや、ええー……告白って一大イベントだよね? 結構易々行われているような気がしてならないんだけど……。
「ユキは違うの?」
「わ、私は……わからない」
「ほぉ”好き以上の感情が渦巻いているせいで言葉で言い表せない”と……やるね!」
「深読みにもほどがあるよ! ……純粋にわからないの、私はどうしたいのかまだわからないんだ」
「ふーん、じゃあ明日ユウくんと私入籍するから」
「そ、それは……って入籍!? スピード結婚とか言う以前にまだ出来ないよ!」
「なんて国だ! こうなったらユウくんを連れて海外逃亡するしかないっ」
「どれほど近日中に入籍に執着するの!? せめてあと数年は待とうよ!」
「……なるほど、入籍までの間に私なしでは生きていけないほどにユウくんに私の存在を刷りつければいい……そのアイディア、頂き!」
「すっごい発想の飛び具合だ!?」
先を急ぎ過ぎだよミナ!
「まあギャグもここまでして――じゃあ私が明日ユウくんに告白して、付き合ってもいいんだ?」
「…………」
「今日でもいいよ? 生徒会終わりでも公園に呼び出して」
私は……それを想像する。ユウジがミナと付き合う光景を――
いいコンビというかうまくいきそうな気がする。ユウジもミナのことを嫌いじゃないだろうし、なんの問題もない。
ない……はずなんだけど、それは――
「……ちょっと、嫌だな」
「ちょっと? 私は意地が悪いからそれぐらいなら、掻っ攫う気が十分にあるけど?」
攻めてくるなあ……でも嘘を言ってはダメなんだ。
ミナの言うことはきっと、ほんのちょっぴり誇張表現とかがあっても――ユウジへの想いは本物だと思えるんだ。
だから”良い子”ばかり演じてても……ダメだよね。私はミナとユウジが付き合うことを――
「嫌、だよ。それを考えたら胸が……キリキリするよ」
「だよね」
「え」
反応というか返答はそんなあっさりとしたもので、拍子抜けしてしまった。
「んー、まだまだだけど合格点かな? よかろう、今日から私とユキはライバルだ」
「ええ、ライバル!?」
「そそ、一人の男を取りあう敵対関係」
「そ、そこまでいくものなの……?」
「そだよ、私はユキがいくらユウくんを好きでも絶対に諦めないし譲ってなんてあげないから」
その発言に、私も衝動的になって。
「わ、私も! ミナがそんな気持ちだからって諦めたりしないから!」
「その意気だ! 私が好敵手と認めただけのことはあるね、ユキ!」
「こ、好敵手かぁ」
「ただそんな中での提案をば」
「すごい一方的だー」
「私の本質はそこだからねー、私の提案というのはいわば一時的な同盟関係!」
「同盟関係?」
「ユウくんの朴念仁プリは周知の事実かと思います」
「まあ……ね」
思い当たる節が多すぎる、というか先日あれだけ告白を受けてもフリーだなんて!
「少しは私どもの好意に気付いてもらいたい、といったところであります」
「そ、そうかも」
「ということでこれからはユウくんを二人で攻めよう! 一応裏打ちで積極的アピール宣言をしとこうというところ!」
「ああー……」
普通なら恋敵(言っていいのかな……?)にそんな宣言はしないけども、相手が相手だから。
あらかじめそういった類のことを宣言しておこうと、いうことなのかも。
「二人はユウくんに積極的になります、ということ」
「うん、私はミナがユウジに積極的になるということを理解しておいて。私もユウジに対して……」
「そそ! 少し色ボケにしてやらないと何年経っても気づいてもらえないかもしれないからね」
「うう、否定できない……」
自分で言うのもなんだけれど、幼馴染が二人いるのに未だに一人身……うん、ちょっと鈍感レベルが相当なものだよね。
「ある種の同盟関係であり敵対関係であることも変わらない、そゆことで」
「うん」
「ということで同盟成立とかもろもろ含めての握手っ」
そして私とミナは握手を交わした。
「もう一度宣言するけどね……私が貰うよ?」
「じゃあ私も。ううん、ミナには譲らないよ!」
「ははは、いい感じだー! ということでよろしくね、ユキ」
「こちらこそよろしくね、ミナ」
私とミナの距離は一気に縮まったのでした。彼女の学校では見れない側面と言うか、挙動も表情も知ることはできた。
なんかイメージ変わった、なんというか――人間らしい?
失礼にもほどがあるよね、撤回! 大撤回だから!
でも今回の会話はミナの本心が大半を占めてる……ような気がするんだ。
だったらいいな、という希望的観測もないわけじゃないけど。
よろしくね、ミナ。
私ももう少しで決意を固めてみるから。