第444話 √b-29 神楽坂ミナの暴走!
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五月十日
「おはよー!」
ミナが教室へとやってきてクラス中に響くようにして挨拶。
「おはよ、ユウくん!」
「お、おはようミナ」
実際昨日の今日のこと故に動揺も一しきり。
「そういや聞きたいことがあるんだが」
「んー、ニブイ云々とかなぜデートとかだったら答えないどころか怒るよ?」
「怒ってでもいいから教えてください」
「……本当に分からない?」
「わからないですハイ」
ぶっちゃけ分からん、というかミナがミステリーすぎる。
「……ユウくん、生徒会入る前までは、放課後一緒帰ったり、週末遊びに出かけたりしたのに」
「…………ああ」
ラグの後思い起こされる記憶、そこにはミナと遊びに出掛ける俺の姿があった。
まあ幼馴染で今も親密という設定ならば有り得なくはないが……。
「放課後もか……俺と帰れないの分かってるのに、なんで友人の誘い断ってたんだ?」
「(そういうのは見てるくせに……)教えないよ、少しぐらい自分で考えなさいっ」
設定では俺とミナは放課後には一緒に帰ったりしていた。
まあ高校生の帰り道と言ったら直帰とは限らないわけだ、道草だって食っていたのだろう。
そんな一方でここ数日見た限りでは大人気に友人たちに誘われるのをひたすら断っていたわけで。
……カマかけてみるか。
「私が一緒に帰るのはユウジ、お前だけだー! 的な、なんちゃってなー」
「…………」
黙った。
「だったら……悪い?」
顔を少し赤くして俯きながら不機嫌そうな口ぶりで彼女は言った。
おおう、マジか。
「悪くない悪くない、幼馴染冥利に尽きますねえハイ」
なるほどな、交友関係は広くてどんな生徒とも隔たりなく接する彼女の線引き。
一応幼馴染という間柄は特別視してるってことか。
「そっか……そっか、少しは分かってるじゃん」
照れたようにミナは俺の肩をポンポンと叩きながら機嫌も上向きに言う。
「そ、それはどうも」
若干姉貴容姿でのこの言葉遣いやら行動に若干の動揺を飽きもせずに覚えつつ、言葉を返す。
しかしミナは途端にジトっとした目へと瞬く間に変えて、
「……ただヒントも盛ったし、私に色々言わせたからアイスは更に倍!」
彼女の要求というものはそのようで。
「別にいいんだが腹壊すぞ」
二つもアイスねえ、まだそこまで暑くもないのに冷たいものを胃袋に大量投入して大丈夫なのか?
「”甘いものは別腹”という魔法の言葉はそんな概念さえなくすのよ!」
「腹を壊すというのは概念だったのか」
姉貴と重ねてみると酔いそうなぐらいにブレている、もはや姉貴の皮をかぶった別の何かなんじゃないか?
いや、もう姉貴ではないんだが。
「ユウくんとユキと私とのデート楽しみにしてるよー。あ、右隣は予約してあるってユキに伝えといてー」
堂々と声高に言うなしいいいいいいいいいいいいいいいいい、教室の生徒が注目してる。男子生徒の目が血走ってる!
「トリプルデート? 〇ね」「二股とか下之の股裂けろ」「美少女独占禁止法違反、訴訟」
「幼馴染っていう階級なくならねえかな、なんだよそのチート。そして下之は修羅場に陥って〇ね!」
「篠文と付き合うに三千円」「いや神楽坂だな、二千円」
「でも神楽坂の言うデートって要は買い物に付き合うんだろ? これまでに何度も見たが、アレな空気は一切なかったな」
「マジか『永遠の幼馴染でいようね』って振られろ」
酷い言いぐさである。
ミナが俺の席から離れてから少し、俺は席を立ってユキの元へと向かった。
「あー……一応聞いていいか?」
「えっと、私がなんでユウジを誘ったかってこと?」
「まあな、実際面白いようにミナと被ったもんで」
……考えてみればそうか、被りすぎている。
こ、これは! ミナが俺にアイスをおごらせる為の結託だという可能性も捨てきれない、くぅ微妙にセコイぞ神楽坂ミナ!
「本当に偶然なんだよ、私は最近ユウジが生徒会で忙しくて、最近一緒に遊びにも出かけられなかったから……もしよかったらと思って、ね」
「そ、そうか」
特に意図はなさそうだ、半分冗談だったとはいえこれは結託はないな。
「……ユウジはミナと出かけたかった?」
これはギャルゲーで言う選択場面だ、ここは慎重に――
「いやっはあ、二人と出かけたかったですのでハイ」
ならずに茶化す! なんて最低野郎だ、この言葉だけ聞いたら完全に色男だ!
「最近実際忙しかったしな、来週の休日に俺は学校にいることなく過ごすことができるか微妙でさ……ははは、余裕なくてスンマセン」
「う、うん……謝ることないって、ユウジは学校にすごく貢献してるんだからさー」
実際嘘じゃない、今週はなんとか空いているだけに過ぎない。
体育祭が近づく度に生徒会役員の多忙ゲージはうなぎ上りよろしくに上がっていくのだ。
「それに二人とも大事な幼馴染だから、選べと言われても困る」
「そう……だよね」
その時のユキの表情はと言えば安堵したようでいて少し残念そうにも見えた。
ここで何か言葉を投げかけても安っぽくなりそうな気がしかしなかった。
「じゃあ週末よろしく」
「こちらこそよろしく……うん、でも一つだけ言っておくね」
「ん?」
俺はユキの席辺りから去ろうとしたところで、振り返り言葉を待った。
「譲るつもりも、負けるつもりもないから」
そう俺を見据えて、何かの宣言のような、または決心のようなことを言い放った。
その言葉の意味を吟味しても「何を譲る? 負けるって何に?」などといった疑問が噴出するようだった。
そんな一方で交友関係の一つであろう女子グループに溶け込んでいたミナがこちらへとなぜか振り返って、
ニヤリと笑った。
……ああ、姉貴とのギャップが酷すぎる。この反応は姉貴なら絶対しない!
ミナ、なかなか癖の強い幼馴染キャラクターのようで。