第439話 √b-24 神楽坂ミナの暴走!
さりげない新キャラ
授業を、生徒会を終えて。家事もホニさんと一緒にこなして、就寝前にようやく一人の時間が訪れた。
「色々ありすぎだろう……」
ちなみに昼食後のフォローをば。
全ての始まりであるユイに関しては、宣言通りグルグル眼鏡キャストオフ状態が常になった。
今まで固執してたのはなんだったのかというような変容ぶりであり、聞いてみると「ユウジが自信持てっていったんじゃん」と微妙に不機嫌に頬を膨らませていた。
ホント素顔のユイの殺傷力はやべえなあと改めて再認識し「まあ色々と吹っ切れたんだ。これからもヨロ!」といつもの口調や性格のユイでそう言うのだった。
姫城に関してはクラスメイトに至っては「あー、まあ分からないでもない。姫城のラブラブ光線って相当なものだったし」一部の共通認識だったらしい。
もちろん他クラスで発狂する男子や、狂乱するファンクラブメンバーなどいたが姫城が「私の意思で行ったことに何か不満でもあるのですか?」と小刀を持って凄まれたので、引いたそうである。
毎度思うが普通に銃刀法違反だからな、姫城?
クランナも色々とクラスで騒動があったそうだがアイシアがなんとかしたのだと夕食の頃伝えられた。
はたしてアイシアがどんな力技でクランナの電波宣言をもみ消したのかはわからないが、深入りしないほうがいいよと釘を刺された。
ちなみにアイシアさん、なかなかに不機嫌である。何故かは知らないが、俺への態度が微妙にキツイっす。
ユキとミナは昼食時で一応の完結をみている。
授業中のミナの視線が俺に向いている時間が長くなった気はするけども。
「ミナねえ……」
何度も言うようだが、元姉貴である。
それが今では幼馴染、偽りの記憶も自分の脳内に構築され始め挙句の果てには――
「付き合わないと……いけないんだよなあ」
この世界を繰り返さない為にも、ミナを姉貴に戻す為にも前提条件なのだという。
「複雑な気分だよホント」
姉と付き合えなんて第三者に言われたらどう思いますよ、躊躇するに決まってるね。
近親同士での交際とか論理的にも常識的にも世論的にも大きく外周を外れたタブーの一つだろうに。
それを描く作品は数多くあれど、それはあくまでも背徳的な演出として有効なだけで現実を見てみればそんな例はない。
いや、出せるはずがない。そんな事実があっても白い眼で見られること確実なその行為が蔓延することはまだしも風の噂に聞くことも叶わぬことなのだ。
「今は姉貴じゃない……か」
この世界では現実では、彼女は紛うことのなき非近親者であり、血の繋がる余地のない「幼馴染」なのだ。
幼馴染同士が付き合って何が悪いことがあろうか、あくまでも標準的な交際だろう。
しかし俺の意識ではミナは姉貴に違いないのだ。
成長の違いだけでほぼ瓜二つの彼女は、なにをどう見ても姉貴で俺はそんな強迫観念に取りつかれているのだ。
「何様だって話だよな」
ミナが俺を好きになるとも決まったわけでもない、ただ俺が遠慮したいと内心で呟いているだけである。
少なくとも身近で見てきた俺からすれば、これ以上できた女性は探してもそうはいない。
かつての姉貴は影にいつも俺がいて、姉貴もそれを受け入れているが故に浮いた噂の一つも出なかったのだ。
今でこそ幼馴染という近しい立場だが「姉弟」の立場と比べれば、それはもう隙がある。
大げさに言えば、ミナはこの数日中にラブレターの二枚三枚、告白の二回三回受けていてもおかしくない。
観察で確認できた確かな「交友関係の広さ」は馬鹿にできない、色々な生徒とも話すユキ以上にあちこちで会話しているのを目撃している。
しかし不可解な点といえば、ミナは「学校以外」で確認されていないこと。ミナは交友関係を持つのだが、幼馴染の立ち位置の俺でも今まで一緒に帰ることはない。
生徒会があったとはいえ彼女は最初から「一人で帰る気」しかないようにも見える。
何人かの男子女子問わず生徒に放課後の寄り道に誘われている光景を目にしたが「ごめんね」とすべてに断りをいれているのだった。
「ストーカーかっ!」
そう言われてもぐうの音も出ない。
ここまでミナのことを並べられる自分が怖い。それだけミナに俺の意識が持って行かれているのは事実なのだろう。
「……付き合うねえ」
そういう経験が皆無な自分からするとどうすればいいのかと。
というか一度告白して玉砕しているので、一応積み上げていきたいところだ。
ギャルゲー的に言えば、好感度を上げていく……のか?
はてさてどうしたものか、と考えている内に睡魔が身体を全体を襲撃しており、俺はベッドに体を落として意識が落ちて行った。
* *
懐かしい頃の夢を見た。
「お母さーん、あのねー 私大人になったらユウくんと結婚するのー!」
「いや、あねといもうとでの結婚はむりだろ」
そう異を唱える僕。
「あらあら素敵な夢ねー よぉし、お母さん全力で支援するわよ!」
「いやいや、親があとおししてどうすんの」
「……夢のない男ね」
「小学二年で夢がないのは致命的な気がする……」
なんで僕が弄られてるのだろう。
「大丈夫! ユウくんは私が幸せにするから!」
なんなんだろう、その謎の自信は。
「良く言いました! お母さんは鼻が高いです」
「そんな鼻すぐにへし折れてしまえ」
「……お母さんに向かってなんて口聞くの? 学校にいけないほどのむごい屈辱を浴びせるわよ」
「だから小学二年の僕になんて暴言を吐いてるのさ……」
「だからねー 待っててねユウくん!」
「いや待たない」
「え、もう結婚する?」
「そういう意味じゃないから」
「男ならバシっと言いなさい! ”ミナちゃぁん、お願いだよぉ、付き合ってくれよぉ”って」
「母さんの中じゃ僕のイメージは最低きわまりないな」
「イメージアップを図りたいなら、ミナとさっさと付き合うこと」
「もういいです。そのイメージで」
……この人を、本当に母さんと呼んでいいのだろうかと、たまに――しょっちゅう思う。
「じゃあユウくん、今日からお付き合いしよっか? 大人になったらすぐ結婚出来るよーに」
「ごめん、むり」
「……勇気を出した女子を振るなんて、最低な男ね。端くれという言葉さえ惜しいわ」
「母さんは僕のことがそんなに嫌いなんだね!」
分かってたさ。何故か毛嫌いされてることぐらい……ああ泣きたい。
「……ユウジ、お母さんがユウジを嫌いなわけないだろ?」
「え……」
「嫌いだったらとっくに見捨てて孤児院でも預けてる」
嫌いだったらの例えが酷過ぎる。
「私が頑張って産んだ子供なんだよ? 嫌いになるはずがないよ」
……。
「お母さんはユウジが大好きだ、そしてミナも大好き。そしてミユもね!」
そう……思っててくれたんだ。
「そんな私の子だからこそ、世界中の誰よりも……幸せになってほしいんだ」
母さん……。
「私の家族は世界一、宇宙一幸せなんだぞ。って宇宙中に自慢したいから」
……そうか、僕は母さんの真意を読み取れなかっただけなのかもしれないね。
「だから……そんな幸せを思ってミナをけしかけてるんだよ。わかるか?」
「一瞬感動しかけた僕が愚かでした」
ちくしょう、僕の感動を返せ! 十倍で返せ!
「宇宙一幸せなユウジと、同じく宇宙一幸せなミナがくっついたら……そりゃあもう幸せ以外の何者でもないでしょ?」
……確かにそうかもしれない。 いつもは甘いお姉ちゃんでも、頼れる時は頼れるお姉ちゃんだし。
姉弟という高く厚い壁が無ければ、本当に良い相手なんだと心の奥底では密かに思ってる。
ここまで僕を愛してくれる姉はそうそういないだろうし、こんな幸せ者もそうそういない。
「法なんて吹っ飛ばせ、世間体は粉砕しろ! 世の中が間違ってると思いながら生きればいいの」
「吹っ飛ばしてもだめだし、粉砕もだめだよ! 世の中じゃなくて僕らが間違ってるよ!」
「なら世の中を変えちまえ」
「なんて親だ」
「お母さんお母さん」
「なにミナ?」
「世の中を変えるにはどうしたらいい?」
「国の一番の総理を吹っ飛ばして、そこの席に座ればいいんだよ」
「なんてことを!」
「……ということは、私が総理になればいいんだね?」
「ピンポーンピンポーン大正解! ミナ総理なっちゃえよ」
「おいおい、なんてことけしかけてるの! ミナもそんなこと――」
「うんわかった! 私総理になる!」
「うわぁ! 速効で洗脳された!」
「ユウくん、待っててね! 総理を吹っ飛ばして、私がユウくんのお嫁さんになるから!」
「もうなんか無茶苦茶だ!」
……思い出すとこんな日常も昔からだったらしい。
時折帰ってくる母親も今も実は変わらないノリである。
この時から俺は姉貴に好かれていて、幼少期の過ちベストスリーに数えられるであろう「結婚の約束」は先ほどまで生きていたのだ。
姉貴はことあるごとに俺に関連した嬉しいことがあると、俺以外が受け取ればプロポーズよろしくの言葉や「結婚しよ!」みたいなのが口癖だった気がする。
姉貴ってもしかして。いやでも流石に俺を弄る為の口実……にしては溺愛が酷すたな。そしたら姉貴はこの頃からずっと何年も俺のことを――
ガチで俺のこと好きだったり?
ないない。