第435話 √b-20 神楽坂ミナの暴走!
巳原ユイの暴走だコレ
四月二十九日
「なあ下之、お前って巳原と付き合ってんの?」
見覚えこそあるがあまり話す機会のないクラスメイトの男子こと有里が聞いてきたのはそんなことだった。
「…………は?」
俺はそう返すしかない、実際そうだろうに。
そんな事実無根なこと言われても反応に困って仕方ない。
「いやお前と巳原が同棲してるって噂があってさ」
同棲……か、いや一緒に住んでることには違いない、だがユイと同棲ってのは心外だ!
ここは否定しとかないとダメだな。
「言っとくが違うぞ? それは完全にガセだ」
「そうなのか? お前と巳原が家から一緒に出てきたのを見たヤツが友人にいるんだが」
う、それは同棲とか言われても間違ってはないな。
てか少し前までは時間ずらしとか気を付けたんだがな……最近の多忙ですっかり抜け落ちてたわ。
おいおいミスりまくりだろ、俺。
「補足しとくけども、ユイとは幼馴染みたいなものだからさ」
二年間の付き合いだけど。
「近所づきあいも結構しててよ、ユイの親が出張で一時的に俺の家で預かってるだけだ」
「あー、なるほどな」
こう納得してもらえるのは俺とユイが見た目に”そういう関係同士”に見えないのと、理由づけとしてはギリギリ納得できるものだからだろう。
実際は義妹だけども。「そういう訳なら、変なこと聞いてゴメンなー」と有里は戻っていった。
これで一件落着――
「ねーねー下之君」
そうしてやってくるのはクラスメイト女子の青山さんだった。
なぜにこうも今日は質問ばかりうけるのか。
「姫城さんとはどういう関係なの?」
姫城と来るのか……っ!
「え……なんで?」
「廊下で聞いちゃったんだよね……下之くんに姫城さんが結婚……とか子供……とか」
そこかぁっー! よりにもよってのその場面の目撃者ですか青山さん!
「い、いや……姫城とはなんともないぞ」
「えー、じゃあ下之君……告白断っちゃったの?」
…………え。いや、えー。
ぶっちゃけ告白された数分後に振られた俺なんですが。
「まあ姫城ってちょっと変わった子でさ、挨拶みたいなものなんだよ」
「うーん、確かに姫城さんって変わってるかも。神秘的なイメージがあるんだけどそうなんだ……」
姫城株を下げたけども、間違ってないから仕方ない!
「ということは毎度告白されてるの?」
「まあ、間違ってないな。姫城なりの会話方法なんだよ、きっと」
そう思うしかないだろう! こんな頻度で告白されてちゃゲシュタルト崩壊起こすわ。
そうして「うーん、そうなんだ? ありがと、答えてくれて」と去っていく青山さんであった――
「なあなあ下之って四組の転校生二人と同居してるけど、どーななんだ! なー、エロイこと起きる? そこんとこどうなんだ!?」
だからぁ!
……この五月蠅い男子生徒はテキトーにごまかして終わらせた。
先陣を切った男子が俺に聞いたから、と数珠繋ぎにいい機会だからと聞いてきたのだろう。
決してなにか作為的なものではない……よな?
五月二日
土日挟んで月曜日、今日の朝会に役員紹介の場を設けた。
体育館に全校生徒を招集しての生徒会役員紹介だけに、なかなかに緊張もひとしきりに待機時間が心臓バクバクである。
それでいざ発表と相成り、会長の破天荒なぶっ飛びトークと無難な物言いのなかに今日の見えるチサさんの自己紹介。
そして、
「えーと副会長となりました、下之ユウジです――」
とまあ無難に無難を重ねた自己紹介をするんだけどさ……
「あ、クラス女子を手籠めにしてる下之だ」
「姫城さんに告白されたという、あの男子か」
「ああいうヤツはスク水好きと、相場決まってる。きめえな」
「えー、一年なのに副会長とか何か怪しくない?」
「ヤバイ臭いがするよねー、さえない顔な癖にやり手なのかしら」
「色んな女に目をかけてるんだっけ? 引くわー、スク水とか好きそう」
前評判酷過ぎるんですが、こうして平然と紹介してるけども内心メンタルブレイク寸前なんですが!
というかなんでスク水好きがここまで広まってるんだよ! おかしいだろ、というか俺のイメージがスク水好きと一蹴されたのはなんなんだ!
否定はしないが、なんか釈然としねえよ!
「――ということで、よろしくお願いします」
それからもヒソヒソと話してるもんだから、仮面の下は折れてるよ。心砕けてるよ。
ああ……前途多難ってレベルじゃねーぞ、悪評蔓延りすぎだろ!
「(はぁ)」
溜息をわずかについて一歩後ろへと下がり、他役員の発表へと移る。
「副会長補佐の巳原ユイです」
と、グルグル眼鏡よろしくにあいさつをするユイ。うん、こういう場面では生真面目なんだろうな、口調もはきはきと丁寧だ。
このまま順調に――
「です。いえ、でした」
うん? その言い回しに疑問を覚えた直後に、壇の天板をバンと叩いて言い放った。
「――今は下之ユイです!」
はい?
さらには、
「そして、実は視力が3.0あります!」
と言ってグルグル眼鏡を取り去った、そして全校生徒の集まる体育館の壇上に現れるのは――紛うことなき美少女である。
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
全校生徒が驚いた。
学校でもアイドルと言われるユキや姫城にも並ぶ、別系統での整った顔立ちというからもうタチが悪い。
現に「おいおいおい超美少女じゃねえか!」「巳原がアレとかダークホースってレベルじゃねーぞ!」「好きです、結婚してください」
「え、あれが巳原さん? え、え?」「私のクラスはなんであんな美女が多いのよ……」「ちょっとちょっと! 私好みすぎるんだけど!」
と生徒が大興奮で、教師が止めにかかってるが健闘も虚しく喧騒は加速する。
「これからイメチェンよろしくに眼鏡を止めますのでよろしくお願いします! そして――」
まだ言うのか! 色々とはっちゃけ過ぎだ、これ以上なにをいうことがあろうか――
「今年の四月に私の父とユウジの母が再婚しました。だから私は下之ユウジの義妹ですが何か!」
うわあああああああああああああああああああああああああああああ!?
「あと、ユウジ! アタシはユウジが好きだああああああああああああああああああああああああああ」
もう何がなにやらあああああああああああああああああああああああ!?