第433話 √b-18 神楽坂ミナの暴走!
更新したタイミングでお気に入りが減るのは陰謀染みてる
「あ。ユウジ生徒会?」
放課後を迎えた教室で帰り支度を終えたユキが俺の元へと駆け寄って聞いてきた。
……実は内心「ぐ……」であった。ユキに生徒会にユイや姫城やクランナが生徒会に入ったことを伝えられていなかった。
この構図は「ユキだけを誘わなかった」ものとなっている、どう説明するべきか悩んでいる内にタイムリミットであった。
「ユキさ、伝え忘れてたんだが……」
「どしたの? そんな神妙そうな表情して」
ここは、キッパリ言わんとダメだよな。
「実はさ、生徒会にユイに姫城に誘ったんだよ」
「…………? それがどうしたの?」
「で、二人とも生徒会役員になりまして」
「えっ、本当に! ユイにマイさんが生徒会ねえ……ユウジが誘ったって?」
「ああ、実は俺生徒会副会長になってさ」
「さらっと凄まじいこと言うよねユウジは……」
「ちょっとばかり生徒会から諸事情で離脱者が出てさ、その補填で二人を誘ったんだ」
諸事情とぼかすのは仕方ない、なにせ事が事だ。
「つい昨日に決めて、昨日に誘って、昨日に許諾を得たもんだからさ……伝えるのが遅れてスマン」
「昨日のうちにって……うそー」
「まあ奇しくも二人とも即時了解で、俺こそ驚いたもんだ」
「ふーん(二人ともさりげなく接近かあ)私はのけ者なんだー」
ユキは不機嫌そうに頬を膨らませてそっぽを向く、だよなあ。
「言い訳甚だしいんだけども、昨日ユキと話すタイミングあんまなくてさ。切り出せなかったんだよ」
「あー、そういえば一日中、ユウジ教室を出たり入ったりしてたもんね」
言っていなかったが、午前中は午前中で走りまわっていた。
ミナの存在が確認こそされはしたが、それ以外の状況把握の為に姉貴の在籍していたクラスに、職員室に生徒名簿を確認しにいったりと大忙しだった。
昼休みはそれで生徒会で役員補充の提案、午後の授業間休みは姫城の勧誘と一日で初めての用足しと、なかなかに詰まっていた。
「あ、もしかして私昨日早く帰っちゃったせいで……」
「いや、メールでも打っとけばよかったんだけども。本当悪い」
これは本当に失敗した、家事にてんてこ舞いだったとはいえベッドに飛び込む一歩手前に伝えてもよかっただろうに。
「で、役員募集は締切?」
「だな、さすがに四人増員は難しい」
「四人? ……私入れても三人になるはずだけど、他にもう一人入ったの?」
う、口滑らせた。
「えーとだな、あのー、そのー……」
「いいよ、細かいことは気にしないことにする」
「あ、あざっす」
「ユウジとの生徒会も悪くなかった……かもだけど」
本当に申し訳ない、ジト目に睨んでくるのが胸にクルが堪えなければ。
「うん、了解! 生徒会頑張ってね、ユウジ」
ユキは途端に表情を笑顔にして、激励してくれた。
「ただし、生徒会を理由に付き合いが悪くなるのはナシだから」
と、微妙に凄んで言ってきた。
「ぜ、善処します」
「お願いね♪ じゃ、また明日ユウジ、ユイ、マイさん」
そうしてユキは元気にブンブンと手を振って帰っていく。
のけ者にされた構図は間違ってもいないのに、ユキはそれを理解した上で許してくれた。
実際俺はこれ以外にもユイや姫城相手にも、似たようなことをやらかしている。
「(こんなんじゃダメだよな)」
顔を両手でパンと叩き喝を入れる。
しっかりしないとな、姉貴の代わりを俺が務められるとは思っていないけども――務めなきゃいけないからな。
「皆お待たせ、それじゃ生徒会行こうぜ」
「「はい(はぃー)」」
生徒会の時間だ!
そして生徒会終了。
「あー……まあ、そうだよな」
夕日差し込む廊下をゆっくり歩きながら一枚のプリントに目を通していた。
ちなみにプリントを見ているのは俺だけでなく、ユイ並びに姫城、クランナも例外でない。
各々「うぬぬ……」「どうしましょうか」「な、なにを言えば!?」と唸りながら首を傾げる者、口元に手を持っていき思考する者、動揺に挙動不審となる者。と、実にさまざまだ。
この経緯はといえば――
* *
「出オチはアウトなのよ!」
ロリ会長が本の受け売りでも絶対に綴らないような迷言を解き放ちて始まる生徒会活動。
「なにごとも出だしが肝心なの! いくら最初のインパクトが凄くても、続かないと意味がないわ!」
何を力説するのやらこのグレーゾーンさながらのギリギリ非合法ロリのマスコットとは聞こえの良いただのお飾り生徒会長様は。
そもそもあなたの容姿から言動すべてにおいての存在が出オチでインパクトを放出しているでしょうが、とマシンガントークさながらに脳内にツッコミが構築されたが止む無く全文破棄。
「――つまりは、役員紹介ね」
なにがつまりなのだろう。もし繋がりがあるのだとしたら、
「役員紹介にインパクトは必要あるんでしょうか」
俺は至極まっとうな質問を投げかける。
「なければ売れない!」
どこに売ろうというのか。
よもや元ネタらしく、主人公に小説を執筆させてこの会話を文章にして売ろうとか言い出すのだろうか。
「シモノのようなスク水大好き野郎のような称号が無い限り」
「まてまてまて今何を言いやがったこの規制対象会長様よ」
「え、シモノがスク水を代わる代わる日替わりに女の子をとっ捕まえて着せ替えしてるんじゃないの?」
「ありえねーこと言ってんじゃねーですよ、アグ〇スに規制されろ」
「え、チサ……違うの?」
「チサさんが発信源なんですか!? ちょっとチサさん、早速入ってくれた女性三方が渋い表情をしてしまっているんですが!」
「あら、ユウ。違ったの? スク水大好きの愛人を何人も囲む心憎い男の子だと思ったのだけど。で、この中に一人妹がいるわけね」
ラノベタイトルにカコつけるだけでなく、核心を突いてくるなんて!
「なんでこんな時に純粋無垢な表情で聞き返すんですか、ギャップ萌え最高ですよチサさん万歳」
「……ユウのツッコミが新しいステージに進んだわね」
「チサさんこのタイミングで照れないでくださいよ、ってあのユイ、姫城、クランナはなぜに機嫌悪く――」
「はいはいそろそろコントは終わりねー」
会長がパンパンと手を叩いて終わらせる、あなたが始めたんですよ?
「朝会の場で役員紹介をするのよ!」
ふざけた提案かと思いきや至極真っ当他ならなかった。
「そういえばまだしてないですよね、会長もチサさんも俺も福島も」
福島コナツ、生徒会会計である。
スポーツ少女らしく体育の授業の一環で行われる体力測定でハンドボール投げをして学校を超えた五七〇メートル先に時速二二〇キロメートルで飛ばしたのは記憶に新しい。
ちなみに同じクラスなのに授業中以外見かけないという不思議な女生徒だ。
もちろんここ一連の会長・チサさん連合との会話風景で福島の中での俺株を下げたのは言うまでもない。
「役員が一挙三人補充要員されたわけだし、今のタイミングしかないの」
ふむふむ、確かに五月も目前だ。五月も終わりに役員紹介などするならば、体育祭準備とモロ被りで大変なことになる。
会長のマトモすぎる提案に驚き戦いた。
「か、会長さんがマトモなことを言ってるだと!」
福島がシャベッタアアアアアアアアアアアアアア。
とまあ、冗談はここまでにして福島がツッコミを入れるぐらいに会長の今日の挙動は奇妙奇天烈雨霰なのだ。
「まあ、私が腹話術で言わせているだけなのだけど」
と、まさかの衝撃発言をチサさんはさらっとする。どういうこっちゃ!
「違うよ、台本があるから読んでるだけー」
「はいご褒美」
「わーい、ハ〇ボーグミだー」
更にまさかまさかの本人からの自白。
しかしここ一連の展開で生徒会役員全員が納得の表情を浮かべたのは言うまでもない。
というかハリ〇ーグミって、なかなか通っぽいものを。触感が凄まじいけど美味しいですよね。
「ということでそれぞれ自己紹介文を考えましょう! 以上、お知らせ終わり。じゃ生徒会するよー(訳・ユウジ)」
「と、言いたいみたいなんですがハ〇ボーグミのおかげで俺以外聞き取れません」
※あらかじめ訳していたものを記載しています。
俺が再説明を行い、これで晴れて今日の生徒会活動開始である――
* *
で、今に至る。
後にチサさん謹製の自己紹介のポイントなることが連ねられたありがたーいプリントをいただいた。
それを眺めながら三者三様の表情だ。
「ユウジ、どうすりゃいいかにゃ?」
「どうすりゃいいって……会長はインパクトが必要とかは言ってたけど気にしなくていいんじゃないのか?」
「うんにゃ、ここはアタシの一大転機。ここでアニメーターとなるか声優になるかの分岐点なのだぁ」
お、おう。
俺が内心「どう答えりゃいいんだよ……」と思っているとユイが近づいて、耳打ちする。
「なあユウジ……アタシの素顔ってどう思った?」
「かわいい」
「そ、即答!? か、かかかかかかわいいとかねーよっ! ねーって」
動揺のあまり照れまくっている。
しかし現にシアが襲いかかってきた時に披露したグルグル眼鏡ナシのユイは可愛いの一言である。
「自信持てって、だが照れユイも可愛いから悩みどころだ」
「か、かわいくないっていってるらろ!」
呂律が残念なことに。
「……ふ、ふふ。そこまでアタシをもてあそぶならば、少しドッキリさせてやる」
「わあ、ビックリ」
「……くく、これからまともに学校生活を送れるかな?」
「不吉ってレベルじゃない捨て台詞だな」
「これで勝ったと思うなよー!」
元ネタキャラは短髪の活発少女だったかなー、なんて思い出す。
するとユイが離れると同時に、姫城が近づいてきて俺の耳元に口を寄せた。
「ユウジ様、大好きです」
「どうも」
「……反応が淡泊でさびしいです」
姫城は基本的にクールビューティを体言したかのような女子である。
表情はそこまで豊かでなく、俺の前となるとその変わりない表情で爆弾発言を連発してくれる。
しかし、そんなギャップからこうしてシュンとする彼女はどこか可愛らしい。
なんだろうか、弄りたくなるよね。
「俺も生徒会活動に真面目に勤しんでる姫城の横顔は綺麗で大好きだ」
「き、きれい!?」
こういう時はわかりやすく動揺してくれるものである、周りの女性陣は俺が基本的に穏便派だから抗体がないのか大抵不意に攻めると動揺してくれる。
俺が基本的にツッコミというある種の守りに徹していることから来る、美味しい要素だ。
「で、姫城は何か聞きたいこととかあったのか?」
「きれい……きれい……あっ、はい! ええとですね、私は自分を紹介するところがないというか……何を話したらいいのでしょう。会長さんはインパクトが必要と」
なぜに彼女らは、あの会長の妄言を重視しようと思うのか。
「会長のは気にしなくていいって”真面目に頑張ります”に何か連ねればいいんじゃないのか?」
「そこにユウジ様のラブアピールを付ければ、インパクトが!」
「それはやめようか、うん」
タダでさえ以前の廊下の一件で、俺のレッテルが大変なことに……既になってるかもしれないな、はぁ。
「それでは、今まで斬れないものはありませんでしたと」
「生徒会は学校の仕事人ではあるけど、それは必要ないと思う」
「私から刃物とユウジ様を取ったら何が残るんですか! ただのうなじが好きな女の子になってしまうじゃないですか!」
うなじ、好きなんだ。
どうりで姫城の視線がちょくちょく俺の後頭部から少し下にぶつかっていたかと思えば。
「姫城は自覚ないかもしれないけども、やるときはしっかりと打ち込んでやってくれる真面目な性格を俺は評価してるんだぜ? そこはもっと自信持とうよ」
「……ユウジ様に褒められただけで、もうグレてもいいです」
「今まで真面目なフリだったの!?」
「ユウジ様への愛を抑制することを止めるだけですから、安心してください」
不安しかない。
……まあそのあと問いただして、なんとか真面目な紹介の方向性に矯正し姫城は昇降口にさしかかったので、さよならと相成ったわけであるのだが。
そして通学路に差し掛かったところで、
「あ、あのユウジ!」
俺の名を呼んでクランナが駆けてきた。
「自己紹介にインパクトは必要ないからな」
「ないんですの!?」
凄まじい驚きっぷりだ。
「役員紹介でウケ狙ってもしょうがないだろうに」
「しかし、会長さんは!」
「あの会長さん、全部マトモなこと言ってると思う?」
「…………」
既に前日に会長の挙動行動を知り得ただけでも、コレである。
流石会長、マスコット会長の異名を跳ね返すことさえしない。
「クランナは真面目に、自分の生徒会における抱負を喋ればいいんだよ」
「そういう……ものなのですか?」
「たしかにこの藍浜は会長と書記さんがの二人の時点でエンターテイメント五割増しの高校ではあるけども、さすがに朝会ではっちゃけるのは避けるべきだって」
「わかりました……はい、そうします。ありがとう、ユウジ」
「どういたしまして」
ちなみに後二人は真面目な自己紹介の方向性となっていたのだが、ユイの企みが爆発し。
色々と大変なことになるのを俺はまだ知ら――
五月二日
「下之ユウジの義妹ですが何か!」
超絶的爆弾投下。
てかせめて最後まで言わせろよ。