第427話 √b-12 神楽坂ミナの暴走!
と、いうことでまさかまさかの告白をクランナから受け階段を上がった。
こちらとしてもまったくもって大歓迎な事態であり、優秀な人材確保は現状では非常に好ましい。
「ということでクランナも生徒会入りな」
待たせていたユイと姫城は「マイさんも誘うとはな――ま、でも付き合いの長いアタシが先に誘われたに違いないな」「いえ、私でしょう。ユウジ様へ向ける愛は世界で一番ですから、それに答えてくれたのですね」などと言い合いのようなことをしていた。
俺がクランナをそう紹介すると、ユイは驚き、姫城は微妙に表情を暗くした。
「え、クランさんも生徒会?」
ユイはクランナなことを「クランさん」と呼称するらしい。
「え、ええ。その言い方ですと、ユイさん。あなたもですか……?」
ユイ、クランナ共に奇跡の巡り合せとばかりに驚きを隠せていなかった。
まあ同居してる二人こうまで同じ役職に、それも簡単には入れないとされている生徒会に就くってわけだしな。
「……ユウジ様。その方は?」
「ああ、オルリス=クランナ。ほら、俺の家にホームステイしてる――」
「ほ、ホームステイですか……」
姫城の瞳に黒い何かが映ったのは……見間違えでないんだろうな。
「ユウジ様を敬愛している姫城マイです。オルリス=クランナさん、よろしく」
姫城本人は紛れもない笑顔なのだが、なぜか空気がピリピリとしている。
「……っ! 下之家でお世話になっていますオルリス=クランナです。こちらこそよろしくお願いします――ええとユウジ、この方はどんな間柄で?」
一方のクランナは表情をひきつらせた笑顔の上に、外では滅多に呼ばない呼び捨てで呼ばれた。
「ああ、姫城はクラスメイトで俺の友人な」
「……そうですか。ご友人ですか」
俺がクランナに耳打ちするように言うと「……あんなに近くで話せる間柄ですか」と呟くや否や姫城の不機嫌度合いが上がった。
そんな混沌としつつあった場所に、
「おー、ユウジ。ユウジのガールフレンドは一通り声掛けてたのかー、いやま。いいんだけどね」
ユイもグルグル眼鏡のおかげですべてが分かるわけではないが、虫の居所は決してよくないよう見えた。
姫城とクランナに至っては笑顔でにらみ合いを始めている。姫城はもう鞄から宝刀を取り出してもおかしくない、一触即発の張りつめた緊張がそこにはあった。
これ……は、俗に言う修羅場なのか?
ふむ、自分ひとり誘ったのかと三人共に誤解させてしまった線が妥当なところか。
そりゃまあ、自分一人に何かしら頼ってくれたと思うと純粋に嬉しいからな。これは自分の思慮が足りなかった、非は全て自分にあると断言できる。
「あー、みんなスマンかった。言葉が足りなかったみたいで本当に悪いことしたわ」
こういう時は素直に謝ることに限る。
そしてさっそく姫城がその意味について、
「言葉が足りないとはどういうことですか?」
と追及してくる。当たり前だな、うん。
「いやさ、正直に言えば生徒会の人員が不足してるから姫城やユイを誘った。そして願わくば優秀な人材を欲していたのも事実なんだよ」
「……ほう、ユウジ。それはアタシの能力を見込んで生徒会に誘ったということか?」
ユイは鋭い眼光(かは分からないが)俺を見据えて、少々トゲを含んだ物言いでそういった。
「それは生徒会として。まあ個人的な本音は俺一人じゃキツイんで、信頼のおける友人に手伝ってほしかった」
「それは私たち……だからということですか?」
姫城とユイ、だからだな。
「ああ、だな。仕事場では能力の優劣も重要視はされるけども、やっぱり環境が一番大事。生徒会を私物化してサークル集まりみたいにはさすがには出来ないけども、共に仕事をして楽しくてやりやすいと思ったから姫城とユイを誘ったんだ」
俺は実際に思っていることを述べさせてもらう。
ユイは公私の切り替えはしっかり出来るタイプだと踏んでいる。俺との会話から行動での面に対して、姉貴との応対の仕方や授業中の基本姿勢から読み取れる。
姫城は……まあ、基本優等生なのに時折私情に走り、暴走する悪いクセが制御できれば掛け替えのない人材であろう。
「……それなら悪い気はしないかぬ」
「はい」
とりあえずお二人さんは納得してくれたようだ。
「そしてクランナは自分から生徒会を志望したんだよ。この国のこの学校を生徒として総べる立場から色々学びたい……だっけ?」
「そ、その通りです」
「クランナにはまあ俺のミスで俺が生徒会に入ってること伝え忘れててな。学校の放送を聞いて初めて俺が生徒会だって知って、わざわざ頼みにきたんだ」
これだけでもクランナの生徒会に入ることへの意欲が伝わってくる。
「もちろんホームステイしてる彼女が真面目で勉強熱心なのも踏まえて、俺は彼女を生徒会に改めて誘ったってことで」
ここで同じく同居してる身としてユイにも同意を求めようとしたが、考えたらここで言っちゃダメだわな。
「皆には意図が伝わらなくて申し訳なかった! それでももしお願い出来るなら、俺と生徒会をやってほしい! 頼んますっ」
俺はそうして頭を下げた。
正直俺に非があるわけで、契約不履行というか。辞退されても仕方がないとは想っていた――
「まあそこまで言われちゃ……アタシは断る理由がないか。というかこれはより面白そうだぬ」
「もちろんです。ユウジ様と仕事を共に出来る機会を逃しはしません。こちらこそ頑張ります!」
「お頼みしたのはこちらですから。下之くん、私からこそよろしくお願いします」
そう許してくれたのだった。
この三人とは、おそらく姉貴のいなくなった生徒会でもなんとかやっていける気がした。
「あ」
……考えてみたら三人に声はかけられたけども、ユキがががががががががが。
でもおそらく今日生徒会に連れられたメンバーが推薦で確定しそうな……気がするな、うん。
マ、マサヒロも生徒会には入ってないことだし……こればっかりは、色々と仕方ない。
「下之君どうしました?」
クランナに怪訝に思われてしまったらしい。
「いやいや、なんでもない……っともう生徒会だな」
そうして目の前に現すのは、通いなれた生徒会室の戸だ。コツコツと軽く手の甲でノックし、
「失礼します、一年二組下之ユウジです。早速推薦メンバー連れてきました」
俺はそう戸に向かって投げかけた。
「ユウね。入って頂戴」
チサさんのお許しが出たところで、生徒会室に足を踏み入れた――
「ええと……姫城舞さんに巳原柚衣さん、そしてオルリス=クランナさん」
チサさんはノートパソコンの画面を眺めながら名前を各々呼んだ。
「中等部での成績上位者二人に、留学生の優等生……ふふ、ユウ。あなたの交友関係は凄まじいわね」
「は、はあ。それで俺はこの三人を推薦したいわけなんですが」
「ええ、このポテンシャルでもちろん一発OKよ」
あっさりだった。
姫城やユイにクランナの表情が緩んだ、もちろん俺もだが。俺の推薦が通らない場合もある、そこに関しては安堵の息を漏らしても何の問題もないだろう。
「それに、好みなの」
公私混同甚だしかった。
「……正直推薦がなかったら成績上位者とっ捕まえて、暇なら生徒会に任意で強制参加させるつもりだったけれど」
任意なのに強制参加ってなんなんでしょうね。
まあこの生徒会が特殊な人員体制で、少数精鋭でやってきたこともあって、生徒会の大半を担っていた元副会長の消失は大きく響いているのだろう。
この特殊体制に執着のようなこだわりのようなものが感じられたし、チサさんが言うような行動を起こさないといけないほどに切羽詰っているのだろう。
「正直この推薦メンバーは理想に近いわね」
チサさんは三人を見渡して満足気に息をはいた。
「それじゃあ三人とも、今日からお願いできるかしら?」
「「「はいっ!」」」
……と、いうことで今日から近親や親しい間柄が占める生徒会役員の姫城・ユイ・クランナ、そして会長と福島、チサさん。
そんな生徒会が活動開始したのだった。