番外30話 √4-1 テガミコネコト(試作版)
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一応これはエイプリルネタではないですのでハイ
それは雨の降る日のことだった。
窓の外は暗く灰色の厚い雲が覆い、未だ夕方にも差し掛かっていないというのに夜のような薄暗さがあった。教室の蛍光灯がいつもより頼りに思えるほどだ。
じめじめとした梅雨の時期に入っているが為に、じっとりとした夏を予感させる熱気とカビの臭い。
決していい環境とは言えやしない。
俺はそんな中、定められた班で教室掃除を鬱々としながら行っていた。
どうにも雨の降る日は気分が同じように晴れない、どこか気持ちが沈んでしまう。
「おい、下之なんか落ちたぞ」
「あ、悪い」
クラスメイトの男子に顎で、俺が持ち上げ教室の後ろ半分に机を移動させる作業の途中で何か机からモノが落ちたことを知らされる。
一度運びかけた机を下して落ちたソレを見る。
「……ん?」
それは手紙だった。純白のレターボックスの黄色い花柄のシールで口を留められているものだった。
『この手紙を拾った誰かへ』
拾い上げるとそんな言葉が丸っこく読みやすい文字で手紙の表面に鉛筆で書かれていた。さらに底面に接する指につるつるとした感触を感じた。
恐る恐る手紙をひっくり返して改めて触ってみると、
「糊か?」
手紙の口とは反対方向にそれが円を描くようにつけられていたようで、ほかの部分とは明らかに違って光沢を放ち触り心地も固まった液体糊のそれだった。
その手紙が落ちてきた主の机を覗いてみると、そこには何も入っていなかった。机の中を弄ってあったとすれば、机側にもつるつるとした感触。
「……糊でくっついてたのか?」
そもそもなぜに机に何も入っていないのか、置き勉する生徒じゃなくても少しは入っているはず。
そしておそらくは手紙だけ。それも故意のように糊で貼り付けられた。
「下之サボルなし!」
「おお、スマンスマン」
俺はその手紙を何故か学ランのポケットにしまった。
とりあえず机を戻して、教卓に張り付いている生徒の席表を見てみることにした。
その机の主は「中原蒼」
このクラスの女子生徒であり、一度も姿を見たことがない女生徒。
そして手紙を俺はなぜか戻す気にもなれなかった。
それは手紙の表面に書かれた。
『拾ってくれた誰かへ』
という文面が気になったからだ。
学校にやってきていないであろう彼女が残したこの手紙という存在もどこか好奇そそる要素だった。
俺は家に帰ってからカッターでシールが半分になって封が開けられると、中からはなんのそっけもない大学ノートに僅かな柄の装飾を加えただけのような便箋が姿を現した。
二枚そこには入っていて、一枚は文が綴られ、もう一枚は更だった。
これは梅雨に始まり、梅雨に終わった手紙の物語。