第434話 √b-19 神楽坂ミナの暴走!
作者はオワコン
え、始まってさえいない?
「わーい、ホニのきんぴらすきー☆」
と、言い台所に立つ俺とホニさんの間に飛び込むようにして、調理台におかれたホニさん謹製のきんぴらごぼうの盛り付けられた皿に手を伸ばし、一摘みあげると口に放り込んだ。
「ふむ、相変わらずホニの和食は鉄板じゃな」
「そ、そう?」
ホニさんが料理を褒められて、少し照れてる。可愛いなあ!
……で。かつての猫被りもどこへやらのいつもの桐、そう桐がキッチンへとやってきたのである。
正確には、
「で、ユウジ。わしをこの場にこの状況で呼んだのに意味があるのじゃろう?」
呼んだのはほかでもない俺だ。桐の指す意味とやらはしっかりと存在しているのはもちろんだ。
「ホニさんと桐がいて、それなりに自然に話せる場だと思ったからな」
これでホニさんも桐も、顔を上げて俺を見つめる。意味を察せたのだろう、さすがチートロリ二人組だ。
「……ミナお姉さんのことだよね」
「じゃろうな」
ホニさんが良い、桐が頷く。「姉貴がいたという記憶を持つ」二人だから、こうして会話の場を設けたのだ。
「言いだしっぺの俺からまずは近況報告を、だな」
俺は姉貴が「神楽坂ミナ」となって藍浜高校の一年二組が在籍していること。
調査の結果姉貴のいたクラスには姉貴の痕跡は一切残っておらず、職員室の生徒名簿にも下之ミナという生徒は存在していないこと。
ミナの容姿は姉貴の頃より若返っており、身長ほかにプロポーションはおおよそ一年前ほどの姉貴であること。
姉貴の立ち位置は俺の「幼馴染」である――
「ミナはクラスにしっかり溶け込んでたな。俺と話すこともあればユキやユイや姫城以外の女子とも談笑してるを見た」
「ふむ、世界は下之ミナの神楽坂ミナへの変化を受け入れているということじゃな」
そしてそれを受け入れずに拒む俺は異端者なのだ。
「ミナお姉さんはユウジさんの幼馴染ってなってるけれど、ユウジさんにとってその認識はあるの?」
「姉貴がいなくなって、学校のクラスで神楽坂ミナとして再会するまではなかったんだよ。だけどさ、その直後に――」
じわりじわりと言った風に「ミナとの日々」の記憶が増えて、鮮明になっていって。
今はミナを幼馴染だと思える意識と、ミナは元は姉貴であるという意識が混在し始めている。
「ほう、ということは……(ミユの中にその記憶が構築されている可能性はあるかもしれんな)」
「桐?」
「個人的なことじゃ、気にせんでよい。わしが分かったことはじゃな――」
知らされたのは衝撃の事実だった。
俺がゲームを起動したことで世界が変わった、現実とゲームの世界観が混在したハイブリッドな世界へと。
それと同じように俺の実妹のミユがゲームを起動し、それが要因でその起動したゲームのヒロイン神楽坂ミナに姉貴が上書きされたこと。
それを聞いて俺は、つい聞いてしまった。
「……桐、ミユはどうだったか?」
ミユが引き籠ったのは、俺にも責任の一端がある。というか大多数はそれだ。
昨日に見た夢の通りだ。ミユが俺を悪いことが重なったとはいえ階段から突き落としたことが要因で顔を出せないと姉貴にミユは話したらしい。
ミユは責任を感じてしまうかもしれない、姉貴の消失が決して望んだことでなくとも自分が関与してしまったことに。
「最初はショックを受けておったが、落ち着いているはずじゃ」
「そっか……わかった」
安堵……しておくに限るよな。いつまでもこの不安を燻らせちゃダメだろう。言い聞かせるように思い込ませるようにして、話題を軌道修正する。
「なるほどな、ミユがゲームを俺と同じように起動か」
ヒロインてことはミユはギャルゲープレイしてるのか、容姿こそ姉貴寄りだけども趣味は似たもの兄弟なんだろうか。
「わしの認識ではお主の起動したゲームと現実が組み合わさった状態を”A”として、そこに一部要素を上書きするミユの起動したゲームの内容の”B”を組み合わせたのが今の状態じゃな」
さらに優先度はAが優先され、世界観はAをベース。
一部のBのヒロインが追加要素として”現実でAのキャラに上書きされていない人物”を対象に上書きされたとのこと。
「Bのヒロインって姉貴だけが対象なのか? ギャルゲーで単数キャラの攻略ってのも珍しいはずだけど」
「あ、以前の世界でユ――むぐ」
「ふふふ、ホニよ。きんぴらがついていましてよ」
ホニさんが何か言いかけたところ、桐が黙らせるように口元を手で覆った。
その行動に俺はクエスチョンマークである。
「どした桐?」
「――ミナだけではないのう。ゲームの攻略ヒロインでは四人がそうじゃった。しかし現段階では誰かはわからない部分じゃのう」
流された、何か俺に言えないことがあるのだろう。
それは置いておいても、まあそうだよな。四人か、今分かってるAのヒロインとミナ以外に三人が選定されるってことか。
「単純な疑問なんだが、桐はこの世界の説明で言ったよな?」
この世界は止まってしまった世界だと。
俺がヒロインを攻略しなければ、ヒロインと関係を構築し交際に至るまでしないと、ループし続ける世界に変わってしまったのだと。
「ああ、そうじゃな。それがここでも適応される」
簡単に頷かれたんだが、それって――
「ミナを攻略なければならんのう」
桐は不機嫌そうに、ホニさんもそれを聞いて複雑そうな表情へと変わる。
更に続けて桐は、
「下之ミナが戻ってくるのも、あるとすればその後じゃ」
結ばれることによりハッピーエンドを迎え、シナリオは終了し、神楽坂ミナは消える。
その穴を埋めるように姉貴が戻ってくるかもしれないと話す。
またはハッピーエンドを迎えたことで世界はやり直され、神楽坂ミナの存在していない下之ミナが存在している世界が始まるかもしれないとも話した。
そして俺は――
「まじか」
「マジじゃな」
「だと……思うよ」
……姉貴と関係を、か。
これはなかなかに厳しいこと強いるものだ、ははは。
「あぁ……あ、ご飯炊けてるな」
頭を抱えながらぴんと立った米粒を眺めながら、俺は呟いた。
それとは別に心の中で一言。
恋愛のいろはなんぞ俺は知らんぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!




