第112~114話R √1-5 ※独占禁止法は適応されませんでした。
五月十三日
前日から担任に相談し、許可を得られたのだが――
「貸し切りだぜ!」
いわゆる放課後に教室を借りて勉強会をするというもの。
担任に「放課後の勉強会為に教室使うの許可してほしい」という旨を言ってみたところ「あー、いいんじゃないか。鍵閉めて帰ってくれれば俺は何の問題もないし」とあっさり承諾。
教室を借りる上で言われたことと言えば――
職員室に一年二組の教室の鍵を借りに行き、それから勉強会、終わったあとは鍵を閉め、遅くても六時までには職員室に鍵を返却……という条件のみだった。
たったそれだけで教室を自由に使えるのだから手軽なものである、スムーズにことが進んだのも生徒会副会長の弟にして今は生徒会役員の俺という名ばかり称号も割と役だったのかもしれない。
なにはともあれ、勉強会が出来ることとなった――
勉強会をするにあたって、机を適当にくっつけてひと固まりにしてから座り、各自勉強道具を展開する。
俺とマサヒロが並び、俺の目の前にユキと姫城さん、マサヒロと向かうようにしてユイが据わっている。
「わからーん」
……高校の数学って難しい、中学での積み重ねも結構吹っ飛んでいる上に多分数学自体元からそこまで得意でも無かった俺にどうしろと!
「ユウジ様……?」
そんな風に若干投げ出し気味に呟くと、向かいの姫城が心配してきた。
「いやぁ、俺……数学苦手でさ。困ったもんだ」
「そうなのですか……」
どうでもいいのだが、こう”勉強できない”というのはヒロインにとってマイナスポイントだったりするんだろうか。
十中八九マイナスだろうなぁ、ようはバカだし……。
しかし向かいの姫城さんノートを見るに……なんという美しさ、しかしその美しさたるや字の綺麗さだけではない。
教科書にさえ書いていなく、教師のこぼれ話程度まで詳細にかつ分かりやすく・見やすく書いてあるのだ。
もはやノート状の参考書――と言うのを逆から見てわかるのだから、そのノートの完成度は半端ではないのだろう。
なんとも一時期流行った東の大学のノートとやらの片鱗を感じる。
「……あの、良ければ計算式を見せて貰っていいですか?」
「あ……うん」
俺が書いた上手くもなければ下手すぎもしない文字が埋め尽くすノートを手渡した。
字は綺麗な人って尊敬する、やっぱり幼い頃の読み書きがモノを言うのだろうか、そういうところは気にしてなかったからな――
「……ここは、こうして、こうすれば──」
「……おお」
姫城さんは別に俺に説いているわけではなく、独り言レベルでその計算式のやり方を呟いていた。
……すげえ、口頭で聞いているにすぎないのに姫城さんの説明が頭にスーッと入ってくる――とにかく凄い分かりやすかったのだ。
「更にこう──あっ! ……一人で勝手に申し訳ありませんっ」
「いやいや! 聞いててすごい分かりやすかった!」
「そ、そうですか?」
本当に、教えるのが上手いんだと思う。
姫城さんは設定上成績が良いことは知っていたが、知らない者に教える技術というのは成績がいいだけでは身に付かないはずで――純粋に頭がいいのだろう。
「というか、姫城が良いなら教えてもらいたいぐらいだな!」
「……そうなんですか?」
「姫城の呟きを聞いていた時点で、かなり分かったしさ。出来たら教えて欲しい」
姫城さんに教えてもらえれば苦手意識があって、いつも辛かった数学が楽しくなるかもしれない。
と、俺は純粋にも思ってしまったのだ。
「え、ええ! もちろんいいですよ!」
「良かった。それじゃあよろしくお願いします、先生」
「は、はい! こちらこそ!」
俺の右隣が空いている……って空いてないな。
「マサヒロ、姫城さんとチェンジ」
「しゃーねーな」
ということで席移動、右隣に姫城さんがやってきた。
「!」
ほぉ……女子の隣というシチュは(彼女無し)一般男子よりも多いと思うが、こうして近くなのはあまり経験が無い。
ふむ、近くに居るだけでいい匂いがするというか……ユキとはまた違った感じもする。
姫城さんってば俺への態度が独特なだけでかなり美人だから、多少意識はするものだ。
「ちょっと待ってくださいね」
姫城さんは一度移動の為に片付けた勉強道具をまた机を移動して広げていた。
彼女の息遣いが聞こえる、隣に座る事自体少ないからな……これはこれで貴重な経験なのだろう。
「ハァハァ」
いや、いくらなんでも……息荒すぎでは?
「ひ、姫城? 息荒いけど体調──」
「そんなことは有りません! ただユウジ様が近くに居るので興奮してるんです!」
「その発言は胸の中にしまっておいた方がいいぞ!?」
いや、俺も姫城が隣なのは嫌じゃあないけどさ、というか実は嬉しいけども。
堂々と自分が変態なのと疑われそうなセリフは言わない方がいいと思う!
「ここに代入して──はい、そうです」
下手な教師よりも姫城さんのアドバイス方が分かりやすいに違いない。
塾なんていらなかった、家庭教師いらずだった。
更に姫城さんには手間をかけて申し訳ないものの、更にとにかく噛み砕いてもらっているので、とにかく分かりやすい。
「あー…姫城さんは凄いな」
「xを──えっ!? そんなことないですよ!?」
熱心に教えてくれていたのを阻害してしまう形になってしまった。
姫城さんは手と首をフルフル振って否定する。
「いやいや謙遜しないでいいからさ、本当に分かりやすくて助かる」
「それは、ありがとうございますっ」
「こちらこそ先生。 俺の為にお付き合い頂きありがとうございます」
「付き合う、でですか!? 嬉し過ぎます! 今なら不慮事故で亡くなっても悔いはありません!」
「喜び方が歪んでる!」
とツッコミを入れていると、だ。
「…………(ジトー)」
うっ……。
少し感じる目線の先を見てみると……ジト目をしたユキさんが、俺の視線に気づくと、はっといつも通りのユキに戻るのだが……?
「え、とじゃあ続きを――」
「あ、うん」
姫城さんの数学講習会再開。
の前に他の勉強会メンバーに少しだけ意識を向けると――
姫城さんと席をチェンジしたことで向かい席になったマサヒロはたまに俺が国語を教える程度で、あとは自分で頑張っている様子だ。
ユキはユキで参考書や教科書とにらめっこしながら自分なりの復習に励んでいるようだった。
そしてユイは……勉強をサボっていた。
というよりひたすら絵を描いているのだが――やたら上手い長門を描いていた。
え、なにこの艤装の書き込みっぷり……すげえ。
気付くと日は落ちかかり、教室の外は闇夜が支配し始めた。
おそらく学校中でこの部活や職員室以外で普通の教室が電気を灯していることもあってか、先程警備員の方がやってきた。
勉強会で担任の許可済みという旨を伝えると「頑張れよ」と力強いエールを頂いた。
テスト範囲は大分進んだ、あと二割を残して大幅に学習出来たはずだ。
それもこれも姫城さんの講習のおかげであって、本当に感謝している。
時計の短針が六を差す前には、皆が片付けを始め五分経たぬまに鍵をしめた上で電気が落とされ、俺らは教室を出た。
「鍵返してくるわ」と、職員室に駆けて行く俺、靴とタイルの触れる音のみが廊下には有った。
明りを灯す職員室の扉をノックし「失礼します」と入ると、授業で作るプリント作成中にフネをこいでいる教師にお疲れさまですの意をこめて礼しつつも。ので鍵を所定の場所へと戻す。
そして今度は昇降口へと駆けて行き、昇降口で靴を履き替え鞄を手に持ちながら待つ彼女たちへと向かって行くのだった。
昇降口にて。
ユイとマサヒロとユイが靴を履き替えながら談笑しています。
「いんやぁー、今日は良い絵が描けたぜ! 流石勉強会!」
「勉強会と関係ないだろ! 勉強しろ」
「うーん、そうだなー、前向きに善処する」
こいつ、これからも勉強会にかこつけて絵を描くだけのつもりだぞ。
「ありがとな、姫城さん」
「え、はいっ! え、えと。 ユウジ様も飲み込みの早さには驚きましたよ!」
「いやいや、姫城さんの教え方が上手いからな」
「そ、そんなことは……でもお役に立てたなら良かったです」
「大変お役に立ってくれました」
漆黒の空の下、鞄ひっさげ姫城さんと話しながら校門を出た。
その時には別れなければならないのだが――
「今日は楽しかったです。ユウジ様、そして皆さんありがとうございました」
と言って頭を下げる姫城さん。
「勉強会もまた皆の都合の合う日で企画したいと思うんだけど、どうだろうか」
「ええ! もちろんです! 暇です! 毎日が暇です! 気分は毎日が日曜日です(?)」
毎日が日曜日だったら俺も良かったのに。
正直テストが迫ってきている以上は勉強会を開いておきたいところなのだが、今日は木曜日で放課後の生徒会活動がなかったのだ。
ちなみに生徒会活動だが、月・水・金が原則放課後の生徒会活動となる……ちなみに俺が免除されている朝活動は不定期にあるとのこと。
「それじゃ、来週の火曜あたり皆どうだ?」
「はい! もちろんです!」
「いいよー!」
「いいでござる」
「いいぜ!」
俺が皆に呼びかけると、姫城さん・ユキ・ユイ・マサヒロが同意する。
こうして来週火曜の勉強会が決まった、それまでは各自勉強といったところだろう。
「それでは……皆さん、また」
そうして姫城さんは俺達とは別方向の商店街方面へと帰路に就いて行った。