第431話 √b-16 神楽坂ミナの暴走!
と、いうことで下之家の朝の風景を簡単に紹介する。
何がということなのかはについては流れ的なものでご容赦願いたい、あまり描写されなかった下之家の情景のピックアップに注力していることから、だ。
下之ユウジこと俺の朝は早い。
目覚ましが六時を指した少しあとには、居間へと間抜け面に癖毛があちこちから噴出しワイシャツに学生ズボンの容姿で欠伸をかきながら向かうのだ。
そしてそこには既にホニさんが、髪を特大のポニーテールに結いパジャマ姿にエプロンをつけてキッチンには立っているのだ。
「おはよう、ホニさん」
「おはよう、ユウジさん!」
おたまを手に持ちそれをくいと上げて今日も元気に挨拶を返してくれる彼女を見ると、本当に心が癒される。
拝むだけで一時の幸せを享受できるホニさんは、この事情により家で過ごしているとはいえ朝昼晩の下之家での家事の大半を担ってもらっており、そんなホニさんに俺が助力できる朝でさえも先を越されているとは。
なんとも申し訳ない気持ちが溢れてくるわけで。
「悪いな、遅れてスマン。そもそも俺が手伝ってほしいって頼んだのにな」
「ユウジさんに頼まれたの本当嬉しいんだよ? だから少しはりきって早起きしちゃっただけだから」
「いや、そうは言っても」
「言わない! ユウジさんが言わなくとも、きっと我は手伝ったと思うよ? だってユウジさんは頑張り屋さんで、きっと無茶すると思ったし!」
「ホニさん……」
「もっと頼って、甘えてよねユウジさん!」
そう悪戯っぽく指を突き出してホニさんは言ってくれる、本当になんでこうも最高の女性なんだろうな彼女は。
「わかった。ホニさんには死ぬほどほど頼る! もうこれでもというほどに甘えることにする」
「え!? あ、そこまで言われると気負いしちゃうよ……うん、でもいいよっ!」
と、彼女の笑顔や言葉に感涙しそうなぐらいに心動かされているのだが今は家事だ。と頭を切り替える。
「今ホニさんは何やってる?」
「えーとね、ししゃも焼いてるところだよー。あとは朝食用に味噌汁とお弁当用の野菜の煮物が同時進行で――」
「おし、じゃあ俺は――」
と二人朝食と弁当の献立作りに奔走するのだ。
「おはようございます。ホニさん、ユウジ」
ホニさん、俺に続いてやってきたのはクランナだ。それもシャワー上がりで金色の美麗な髪がつやつやと湿気を帯びしっとりとした光沢を放っている。
「おはよ、クランナ」
「おはよう、クランナさん!」
キッチンで二人献立準備をしている途中に居間へと訪れたので振り返り様に、テーブルに備え付けられる椅子に腰掛けるクランナへの挨拶に答える。
「あ、クランナ。熱い日本茶でいい?」
「はい、それでよろしくお願いします」
クランナはてっきり国柄や出身を鑑みて紅茶を飲むものだと当初は思っていたのだが、朝の一杯は熱い日本茶か玄米茶に固執している。
「湯加減どうか分からんけども、どぞ」
「いただきますわ」
金髪美女が湯呑でお茶をすする姿は異様ではあったが、この光景にも見慣れたのでそれほど違和感は感じなくなった。
「今日も美味しいですわ、ありがとう」
「朝食まで待ってくれな?」
と、促すと「わかりましたわ。いつもすみませんね」と言うとテレビを点けて朝のニュースをぼんやりと彼女は見始めた。
ちなみに当初は「わ、私もお手伝いしますわ!」と俺と姉貴とホニさんのキッチンへと赴いてきていたのだが、その手伝いの結果が散々たるものだったので自身落ち込んで今は大人しくしている。
そうやら隙を見つけて練習しているようだけども、このような朝時が忙しいことを察していてくれているらしい。
「おはようございます」
そうして次に現れるのはアイシアだ。こちらもシャワー上がりで全体的に艶やかな印象を受ける。
下之家での朝シャワーの習慣は姉貴以外になく、そんな姉貴も六時よりも前に起きてシャワーを簡潔に浴びていたのを数回だけ浴室のシャワー音を耳にしたことがある。
姉貴がいた頃は、いつの間にか姉貴はシャワーを浴び、朝の六時も半に差し掛かる頃にクランナ次いでアイシアとシャワータイムだった。
「おはようアイシア」
「おはよう、アイシアさん!」
挨拶を返した際に見たのはクランナに寄り添うようにテーブルの隣席に腰をかけるアイシア、いつもの光景だ。
そういえばアイシアは朝に弱いらしく、シャワーを浴びても夢うつつの様子だ。
彼女は家事全般が出来るらしく、彼女が夕飯をつくることを自ら申し出て実際に四日に一回が彼女の当番となっている。
西洋料理をスーパーで安く買える程度の食材で、美味しくつくることに定評があったりする。
「おはようじゃー……ふああ」
「おーはー……ぐー」
そして桐にユイの寝坊二人組がやってくるのは、それから約一時間経つ頃で七時も半を回る頃である。
というか寝坊に違いはないのだが、そのほかの下之家住民が早起きすぎるせいで、その間がいないだけに一時間も差が現れてしまうのだ。
「お弁当持ちましたか!」
「「はーい」」
点呼を取るように俺にユイにクランナにアイシアに、そう確認するホニさん。
「じゃあ、いってらっしゃいー」
「「いってきます(くるぅ・わ)」」
とわざわざ玄関に来てホニさんはお見送り、そして十五分ほどの差で桐が登校するとのこと。
俺、グルグル眼鏡、金色・銀色美少女の三者三様ならぬ四者四様の四人はそうして学校へと向かうのだった。
以上朝の下之家、紹介終わり。




