第424話 √b-9 神楽坂ミナの暴走!
お久しぶりの更新なのにここ最近クソゲヱ漬けだった件に関して
時間軸は戻って、朝のことですね。
ユウジがミナの消失を知り、ショックのあまり家事を忘却し下之家がピンチに瀕したことによって一階目指すはキッチンへと向かった頃こと。
ホニとユウジが向かう一方で、桐だけは別方向へと歩いて行きました。
桐がすたすたと廊下を進み、そうしてたどり着いたのは。
「――ユミジ、説明を要求しようかの」
ミユの部屋でした。そしてノックすることもなく扉を開け放ち、突然の扉の開放による光の挿入でミユが一瞬にして腕で目を塞ぎました。
「ち、ちょっと突然あけないでよ!」
ミユは目を瞬時に訪れた光量に潰されたような気分で、憤慨しながら扉を開けた主を非難しました。
『ノックをしたら――いえ、それどころではありませんか』
「お主は分かっておるのじゃろう、この異常についてを」
ユミジも分かったような素振りで、桐もそれに対して同意を求める。
この空間で理解できていないのは、ミユ一人だけ。
「え、え? なに、なにかあったの?」
ようやく目が慣れ始めたミユはパソコン画面に映るユミジと部屋の入口に立つ桐を見渡しながら言いました。
「……ユミジ?」
首を傾げて画面を見ると、画面の中でユミジは真面目な表情を形作りました。
『ミユ……落ち着いて聞いてください』
「な、なによ改まって……」
『これはきっとあなたにとってショックなことかもしれませんから』
「……? うん、わかった。聞くよ?」
ミユはやはりなぜここまでユミジが真剣になるのか解せない様子で画面を見つめました。
『下之ミナが消滅しました』
そう、たった一言。淡々とした説明でした。
ですが、これがもっとも簡潔で的を得ているのが事実なのは変わりありません。
「え……え?」
『この世界から下之ミナは消失したのです。下之ユウジの姉としても……あなたの姉としても』
ミユの表情は突然の告白に、情報の処理が出来ていないように思えました。
しばらくの沈黙の後、再起動するように。
「どういうこと……? ねえ、ユミジ。さすがにこれは冗談がすぎるよ……ねえ、それって嘘だよね? あ、エイプリルフールはこの世界では数日前だよ? ちょっと遅いかな――」
『事実です』
「ね、ねえそこの小さいヤツ。ユミジはギャグを言っているんだよね?」
「……本当のことじゃ。この世界にもう――下之ミナはおらぬ」
残酷な真実で、最後の希望を切り捨てるように桐は言い放つ。
「…………ははは、うそだあ。そんなことあっていい訳ないじゃん。だってユウ兄にとっても私にとってもサクラにとっても掛け替えのないお姉さんなんだよ? いなくなっていい訳ないよ……私はこんなだから迷惑しかかけてないのに、そんなの嘘だよね? ねえ、ねえ! ねえってば!」
ミユの悲痛の叫びが自室と廊下に響いた。
しかしユミジと桐の返すのは、沈黙という返答のみ。
「そ、そこまでするかっ! わ、わかった。いいよ出て確かめてみるよ! さては私をこの部屋から出すために画策したんだな、いいよミナ姉の部屋はしっかりと覚えてるし行ってあげる、そのギャグに付き合ってあげるから」
そうしてミユはふらふらとした足取りで立ち上ると、壁に手を置いて滑らすように歩いて行きました。
そして、
「なんで……ミナ姉の部屋が……なんで、なんでよぉっ!」
涙声の混じった震える声での叫び。
そのユミジが桐に連れ戻してくるように促し、桐は涙に濡れるミユを引きずって部屋へと戻っていきました。
「ううっ……ぐすっ……ごめんなさい……最低な妹で……ごめんなさいぃ……」
ミユはパソコン画面を見ることもなく、膝を抱えて何かを呟きながら泣き続けました。
それは自分の行いによる懺悔のようにも聞こえました。
「……それで、ユミジ聞かせてもらおう」
桐もミユの泣き崩れる姿を横目に一瞬見て、パソコン画面の中の女性へ話しかけました。
『……まず、何を聞きますか?』
「まずは、このことを予測出来ていたのかじゃな」
『……出来ていました。分かったのは私の投影された直後のことです』
「ほう、ユイの物語の直前ということでいいのかの? それでは、この事象は不可避だったのかじゃ」
『不可避でした。対象人物「巳原ユイ」の書き換えの完了が早く、大幅な人物設定の書き換えに時間のかかった対象人物「下之ミナ」が後回しにされただけのことです』
「本来はユイではなく、ミナの可能性もあったということじゃな?」
『はい。そして――この”ファースト・ワールド”を使用し起動した”はーとふるでいずっ”その直後に対象人物が指定されました』
長いことユミジと桐の二人で話していると、するとミユが顔をあげました。
「え……”はーとふるでいずっ”を動かした時に……に?」
ミユはそのソフトの名前に反応したようです。
「お主が起動したことで、ミナの消失を招いたと言っても過言ではないな」
『桐っ!』
そのあまりにも辛辣な桐の言い方に、ユミジが声を荒げました。
「わ、私のせいってこと……?」
「ああ、そうじゃな。お主がゲームを起動しなかったら、この事態には発展しておらぬ」
『桐! いい加減にしてくださいっ』
「私のせいで……ミナ姉は消えちゃった。そう、なの? ユミジ」
ミユはパソコン画面を腫らした目で見つめて、ユミジの反応を待ちました。
『…………根本は否定できません』
「っ!」
ミユはショックを隠し切れない様子で、再度俯いて一人懇願するように呟き始めました。
「じゃが、補足しよう。ユウジも同じことをしたと」
「……! ユウ、兄が?」
「ユウジの場合はお主以上に、現実の人間をかき回したと言ってもよいじゃろう」
「ユウ兄も、同じ……」
唖然とした虚ろな表情で、ミユはそう反芻するように呟きます。
「……そしてユミジ、更に聞きたいことは――ミナは一体”はーとふるでいず”のどのキャラの対象人物になったのかじゃ」
下之ミナは消えた。けれど、ユウジ視点では神楽坂ミナとして一年二組クラスに存在していた。
『――キャラクターNo.1「神楽坂美咲」です。立ち位置は、主人公の幼馴染です』
「っ! 姉を幼馴染に書き換えたということか!」
『そういうことになります。該当するようなキャラが既に存在しない、及び重複を回避するためにそうなったのでしょう』
「書き換えに時間がかかるというのも仕方ないということじゃな……他の設定はどうなっておる」
『性格は基本的には活発、容姿は発達途上で、年齢は――十五です』
「ちょっとまて! 十五というのはユウジと同じではないか!」
高校一年生、早い誕生日でなければ大抵はそのはずです。
ユウジに限って既に十六歳を迎えていますが、
『そして書き換え後の現実設定ですと――神楽坂ミナ、藍浜高校一年二組所属の下之ユウジのクラスメイトになります』
「「っ!?」」
桐とミユが同時に反応しました。
「え、ユミジ。それってミナ姉は……生きてるってこと?」
『はい。下之ミナとしては消滅しましたが、下之ユウジの幼馴染として存在が確認されています』
「よ、よかった……」
ミユはそれを聞いた瞬間に安堵の息を漏らしました。
「って……え! ミナ姉がユウ兄の幼馴染になったって聞こえたんだけど……嘘、だよね?」
『いいえ。下之ミナは神楽坂ミナになり、幼馴染としてこの世界に存在し下之ユウジと同じ学校・学年・クラスに属しています』
「同じクラス……それって若返って、さらにユウジと同じクラスになったってこと!?」
『はい』
「「…………」」
ええ、まあナレーターの私から言わせて頂きますと。
どれだけユウジの周りは混沌とし始めたんですかっ!
それからはというと、
「お主は管理者権限でどうにかできなかったのじゃな」
『はい。あなたもシナリオの根本を変えることは不可能でしょう? 私とあなたは”力”こそ与えられてはいますが、あくまでそれは進行補助のためなので。妨げとなるようなことは出来ないのです』
という会話の後、桐は部屋を出た。
ミユもだいぶ持ち直してはいますが、パソコンゲームをやれるまでは回復していないようでベッドに飛び込んですぐさま寝息をたてていました。
ユミジ曰く、寝不足の徹夜だったようです。
「……さて、わしも食事に行くかの」
そうして桐は食卓に向かうのですが、時間足らずでメモ書きと作っていた朝食とお弁当のみが残されて、ユウジ達は家を出ていました。
「わしも学校に行くとしよう」
桐は朝食をホニと食べると、自分の通う小学校へと向かっていきました。
学校が終わり、一番乗りに桐は帰ってきました。
「おかえり、キリっ」
「ただいまじゃ」
ホニに出迎えられ、家に着きました。
「キリ、そういえばミナさんは今学校に行ってるんだよね」
「うむ。それもユウジと同じクラスのメイトじゃな」
朝食を摂っている間に事の顛末をホニには話したらしいです。
「ミナお姉さんとは……言えないんだね」
「ああ、今ミナはミナでも「神楽坂ミナ」じゃからな」
そんな会話をするのですが、やはり双方共に表情は芳しくなくホニに至っては悲しそうな、寂しそうな瞳をしているのでした。
* *
桐はしばらく経って、ユウジ達が帰ったのを見計らって自室を飛び出しました。
今度の目的地はミユの部屋でもミナの部屋でもなく――
「あっ、桐ちゃん」
アイシアの部屋、このときのアイシアは物静かな表情をしていました。
「アイシアさん、おかえりです! あ、あの――」
桐は得意の猫かぶりを披露すると、
「もう一人とお話できませんか?」




