第108~111話R √1-4 ※独占禁止法は適応されませんでした。
R版差し替え済み
俺たちは勉強ができない。
……俺たち、とか言ってるけど俺とマサヒロに限る話なのだが。
いや、ね? 実は出来ないってほどではないというか「中の下」を地で行くような成績とか勉強というか。
いや、さ……やればできるんだよね、本気出せば俺だってクラストップも夢じゃないんだよね、そうあえて実力を――ごめんなさい、普通に成績良くないだけです。
いや、ほんと……俺のこの成績でよく生徒会入り出来たなというか、副会長のコネっちが無ければ無理だったというか……マジでごめん姉貴。
いや、でも成績が悪いってレベルじゃないんだよね、良くも悪くもないというか、中の中の下というか……しっくりきたぞ、真ん中ちょい下ぐらい!
だから、俺も勉強すればそこそこの成績はいけるはずなんだよ……。
というか楽しい思い出と一緒に勉強して得た知識も吹っ飛ばした神様は俺にマジで優しくない、つらたん。
……そういえば教師が人気だけど俺は文系派なんだよね、って何の話をしているんだか――
五月十二日
「アタシは理系派」
「俺は体育会系派だな!」
…………何故か俺の席に就くなり、そんなユイとマサヒロのオタトークが始まっていた。
「いきなりどうしたんだ」
「聞いてくれやユウジのアニキ! マサヒロの野郎『理系はマスコットとしてはアリだけどヒロインとしてはちょっと』とか言うんだぜ! 意味わかんないぞな!」
「こっちこそ聞いてくれよユウジ! ユイの野郎『体育会系とか絶対滑るやつじゃんよ、しかし何故滑り台ヒロインを……?』とか煽ってくるんだぜ? だから俺もなんだァ? てめェ……? って返しちまったわけだ」
というか滑り台とか普通に使ってあげるなよ、大半の人は通じないぞ。
ちなみに滑り台とはおしろ色シンフォニアにて、主人公を取り巻くヒロイン戦線に生き残れず結果的に失恋後のヒロインズがこぞって冬の公園で滑り台を滑っていたことから来るネットスラング的なものである。
よいこの皆は「やーいお前の推しヒロイン滑り台~」などと言うと、意味を知っていた場合リアルファイトになるから、言ってはいけないぞ。
「まぁまだ結末決まってないし滑り台呼ばわりは早計だろう」
「だろうだろう! 体育会系の水泳部で鍛えられた健康的な魅力で主人公もイチコロってもんよ!」
「なぬ! ユウジはマサヒロの味方か!? 体育会系派なのか!?」
「いや俺は文系派だし」
文系、いいよね。
主人公と時折通じ合ってる感じがなんか、夫婦感あって良い……。
「「はぁ~」」
しかし二人の反応はというとわざとらしい大きなため息だった。
「それはユウジ安パイ狙いすぎだろ、あのまま勝ったら面白くないじゃん」
「まだ教師とかの方がにわかっぽくもアタシは評価したと思うって、失望したって」
「お前ら屋上へ来いよ、久しぶりにキレちまったよ」
と、まぁ作品の詳細については言及しないとしてもオタクの間ではヒロイン論争というのがちょくちょく起こる。
そしてそれぞれ推しが違うのもザラ、それでリアルファイトになるのもザラザラ。
同じ共通の話題で盛り上がれるのに、時には傍から見ればどうでもいいことでケンカになってしまうという、オタクという民族はメンドクサイ生き物なのであった。
「ちなみにアタシはユッキー派だから」
「俺はマイマイ派だから」
「……それは何のアニメの話なんだ?」
そしてこの時の二人の言った二つの名前が、のちのち俺の予想の斜め上に影響してくることになろうとは――
「あー、一学期中間試験も二週間前ぐらいに迫ったかからなー」
「「えっ」」
勉強のモチベーションの低下を手伝ってくれるやる気無さげな担任教師により、一部の生徒はすべての絶望を一身に受けたかのような雰囲気に様変わりする。
「中間試験だからって甘くみるなよー。期末試験よりはやさしみがあるから、この中間試験で点数稼いでけよー」
「「ぎゃあああああああああ」」
そして大方の生徒もまた、テストなんて好きな人間は殆どいない。
クラスメイトが代わり映えしないメンツとはいえ、高校生という称号を得たことでなんだかクラス全体が浮かれ気味だったのだ。
そんな浮かれ気分に鋭いメス、一気に現実に戻される担任教師による「中間試験」という言葉で、全員が正気を取り戻したのかもしれない。
「……俺、中間試験の存在から目を背けてたんだ。でも、心の中で期待してたんだ――中間試験なんて存在しないんじゃないかって」
「カレンダーのテスト期間中を隠してたりしてたんだがな……くぅ、現実は優しくねえ!」
「テスト当日に隕石堕ちてこねえかな」
「テストやだああああああああ!」
「ママに怒られたくないよおおおおお」
「私、中間試験でいい点数を取ったら結婚するんだ……」
おおよその男女から文句やら怨嗟の声とブーイング、そして担任は意にかえすことなく教室を退場していった。
小学生の頃からすれば高校生は果てしなく大人で遠く、中学生になれば目と鼻の先のようでまだまだ距離がある――それが少なくとも俺の高校生感だった。
しかしなってしまえば高校生としか言いようが無く、劇的な変化などはなくほぼ皆が変わりなく、ぶっちゃけ言えば大したことはなかった。
そして今では大学という立ち憚る壁が見えてきて戦々恐々とする、以下無限ループなのかもしれない。
この中では絶望するほどでないにしろ、中間試験が色々あって順延しねえかな……とかは思うぐらいのメンタリティではあった。
「ああ……テストかぁ」
「俺はもう諦めたぜ! 午前授業が増えるからたーのしー」
ホームルーム終了から一時限目までのわずかな時間で、俺の席に寄ってきたマサヒロがグッとサムズアップしながら堂々言い放った。
早速諦めるなんてすっごーい。
「諦めんなよ! どうしてそこでやめるんだ! そこで!」
「俺はテストには熱くなれない」
ユイの太陽に愛されてそうな芸能人が言いそうな熱いセリフに、冷めたマサヒロの返し。
「でもマサヒロが壊滅的なのは国語だけだろ? 他も怪しいけど」
「ニホンゴムズカシイデース。大和ホテルデース!」
唐突にバーニングラブとか言い出しそうなアニメ版長女みたいなことを言い出した。
「アタシも一応予習とかやっておきたいぞい」
「……お前そんなキャラだっけ? テスト期間とか「ヒャッハー! 午前授業連発でアニメ見放題だぜええ」とか言ってそうなんだが」
そういえばユイはあまり勉強している場面を見たことない、授業中もなんか絵描いてること多いし。
それにしては成績表は頑なに見せないし、たまたまかもしれないがいつか見たテストの点数はチラリ見た時かなりいい点数だったのだが――
「っ! イエエエエエイ! アニメ見放題だぜ、フゥ~ネットプライムビデオサイコ~」
「ユイ氏、ここにきて隠れ真面目っ子疑惑」
「そそそそそそそそんなことないでござるよよよよよよよ。授業中もずっとアニメ絵描いてるぜええええ、不真面目っ子フゥ~!」
まぁ、ユイが真面目っ子とか無いな。
そもそもこんなグルグルメガネかけてるのが真面目とか、もう真面目という定義が分からなくなる。
「……なら、いつもみたくやるか?」
「しょうがねえな、やるか」
「やるじゃんよ」
そう、俺たちはこれまでテストという壁に対して無策にも突貫してきたわけではない。
三人で、一応のりこえてきたのだ――!
「三人寄れば文殊の知恵という言葉もあるぐらいだしな! ユイ・マサヒロ・ユウジ! ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!」
「「誰だお前」」
「ということで勉強会やるぞ」
「「おー」」
そうして俺たち三人の勉強会が決まった――はずだった。
「ユウジ様、勉強会をするのですか?」
「そのつもりだけど……姫城さんも来るか?」
と、なんとなく俺は誘ってしまったが設定上も姫城マイという子は成績優秀者。
少なくともこの三人とは比較にならないはずで、果たして勉強会なんかに誘ってよかったのかと――
「行きます――命に換えても」
「重い!?」
ここで俺はふと姫城さんを誘ってしまった理由について考えてしまう。
もしや、これは――
「勉強会やるの? 私も行っていい?」
「もちろん」
ああ、どうやらこれもギャルゲーのイベントと考えていいかもしれない。
ユキも話しを聞きつけて勉強会参加が決まった。
しかしユキも設定上では成績が良いはずであり、成績の良くない俺たち三馬鹿オタトリオの勉強会参加する意味をあまり見いだせない。
――が、俺もそんなことを考えている間にも即了承しているのである。
……ここに来て話しておこうと思うのだが、最近になってユキとの”これまでの記憶”が作られつつあった。
いわゆる俺とユキは幼馴染の関係――ギャルゲーの設定が現実とハイブリッドした結果、そういうことになっている。
だから今になってユキとの、身に覚えはないはずの記憶が最近俺の脳内に生まれ始めたのだ。
……なかなか恐ろしいことかもしれない、ギャルゲーに俺という存在が侵食されているとも言えるのだから。
そんなギャルゲー上の設定で、幼馴染なのにユキのことを良く知らないというのはシナリオ進行上の妨げとなるのだろう。
だからこそ俺は「ユキの成績は良い」という設定を俺が知ることとなったのである、そしてユキとの幼馴染の作られた思い出もまた俺は知ることになっていた。
「しかし姫城さんや篠文さんが参加するとか、勉強会が華やかになるぜええ! な、ユウジ!」
「そう、だな」
そうこうして姫城さんとユキの二人の勉強会参加が決まったのだ。
……この時俺が考えている間にも、俺の口が勝手に言葉を紡いで二人の勉強会参加を歓迎しているあたり、俺の意思と関係なくイベントは進行するのかもしれない。
その時誰にも悟られない程度の表情ながらも俺は畏れていた――いつしか、俺がシナリオ上での操り人形となり、俺でなく”主人公”というキャラクターになってしまう日も来てしまうのではないかと。
何気ない出来事に一人怖くなってしまうのだった。
「それは”シナリオの強制力”じゃな」
家に帰って俺は桐に聞いてみたのだ。
それは「俺の意思と関係なく口が動いた」とか「いつの間にかギャルゲーヒロインのはずのユキとの思い出がある」というもので。
「お主にも身に覚えがあるかもしれんが、お主の周りの人物がギャルゲーの原作シナリオ上に存在しているモブキャラ・サブキャラの役割を果たしておることがあったじゃろ?」
そう、これまでも俺が気づいていたことだった。
ユイが十数日先に転校してくるクランナの情報を教えてくれる、マサヒロがらしくなく肝試しを企画し誘って来る、姉貴が俺を生徒会に入れたいとはいえ俺の拉致に協力する。
これはこれまでの現実の彼らを考えれば、不自然極まりない行動の数々だった。
「もちろん主人公も例外でないということじゃ。これまでは偶然お主がシナリオに沿った行動をしていただけのことじゃな――このギャルゲーと現実のハイブリッド世界においては、原則ギャルゲーのシナリオが優先されるのじゃ」
……ギャルゲーと現実のハイブリッド、ね。
現実にヒロインが出てきました、だけではギャルゲーと現実において辻褄が合わないことが出て来るというもの。
その辻褄合わせの為の状況の変化、環境の変遷、言動の強制などが行われたということなのだろう。
「……それはシナリオに俺が死ぬと書かれていれば、死ぬってことなんだな」
「相違ないのう」
俺が出した極端な例に桐は極めて冷静に、それを肯定した。
そして同じように考えればヒロインが死ぬと書かれていれば死ぬ、実際ユキはシナリオの都合で車に撥ねられて死んだのだろうから。
シナリオの都合がすべて優先される、気づけば理不尽になっていたこの世界に俺は――恐怖とともに嫌悪感を抱くのだった。
――ああ、こんなクソゲー早く攻略してやる。