第421話 √b-6 神楽坂ミナの暴走!
遅れましたー
「ちょ、ユウくんどしたの!?」
まてまてまてまてまてまてまてまてまてまて落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け。
状況を整理しよう。
ここで姉貴についてのプロフィール確認だ。
下之ミナ。
下之家長女にして、実質的に家事全般を担う母的立ち位置。
藍浜高等学校二年二組、生徒会所属生徒会副会長。
文武両道を我が物にしたかのようの、成績優秀運動神経は優れ、実質的な陰の会長的立ち位置に君臨し学校の生徒会及び学校をまとめる非常にリーダーシップに長けた存在。
栗と茶を足して二で割ったようでほどよい艶のある髪色かつストレートヘアーを基本とした少し癖っ気のある髪質が特徴。
容姿は身長百と七十と平均身長よりも高めで高身長で、胸は俺ことユウジの周りでは姫城さんの次に大きくセーラー服の白い布の膨らみがその大きさを助長している。
全体的なプロポーションは非常に良好、肌も程よい白さで健康さと潔癖さを両立しており、足はキュッと引き締まり非常にバランスが取れていると俺は評価。
少し細長くもくりくりっとした瞳で、優しそうな印象を常に受け。前髪は少しだけ目にかかる寸前で揃えられている。
以上、俺のことユウジによる姉貴プロフィール。
そして目の前の自称「神楽坂ミナ」について。
基本的な外見的特徴は姉貴に並ぶものの、身長は低めになっている。おおよそ数センチは下がっていると思われる。
胸も姉貴に比べると成長途中のようで、それでも決して小さいものではない。
ふむ……これは外見的には一年前の姉貴か?
しかし内面というか、一瞬の自己紹介から考察するに。
俺は彼女のことを「ミナ」と呼び捨てにする間柄かつ、明言された通りならば「幼馴染」という立ち位置とのこと。
俺の姉であることは断固として誤りとして、名字に「神楽坂」と名乗る一方で名前の方は変わりなく「ミナ」らしい。
今クラス中に響く声で叫んだ為に、必要以上に人の視線を身に受けている。
これ以上の目立つ行動は、今後の行動の妨げとなること確実だ。
……今は姉貴が立ち位置さえ変われど、存在していたことに胸を撫で下ろして、状況を見ることが先決だ。
おそらく俺の、彼女が「姉貴」という主張はこの衆人の中では通用しない、それは家でのユイやクランナからの反応からして明瞭と言える。
そう、ここは無難な対応をするに越したことはない。
「スマンスマン、なんかまだ寝ぼけてたわー。なんかミナが姉の夢見ちゃってさー」
ここはアホらしいオチを付けるに限る。少し声量を大目にしてそう頭をかきながらつぶやいた。
それが功を奏したようで、
「なんだ寝ぼけか」
「姉貴っつーより、委員長さんっぽいよな」
「委員長じゃないのが不思議だわー」
「それでさ――」
「なになに――」
クラスの反応はそんなところ、各々の話題に戻っていく。俺への関心を逸らしてくれたようだ。
「ミナ悪いな」
「もー、ユウくん寝不足なんでしょ? ちゃんと寝ないと体に毒だよー」
「へいへい、気を付けますよー」
「うんっ! 私の幼馴染くんが調子悪いなんて許さないんだからっ」
ビシっと指を俺の鼻先に向けて宣言する姉貴……いやミナだった。
間柄から判断した俺の切り返しだったが、特に不審がられていない辺りこれで問題はないようだな。
ミナって呼ぶ習慣付けないとダメっぽいな……うん。
「ユウジ突然”はああ”なんて言うからビックリしたよ? 何かあったの?」
とりあえずユキも俺とミナの会話に違和感を感じていないようだけども、さっきの行動についてはそうではないらしい。
「驚かせてスマン、ユキ。でも叫びたい時があるだろ?」
「なんの理由説明にもなってないよね!?」
「ユウジ様、わかります。”ユウジさまああああああああああああああああ”と心の中で常に叫んでますから」
「マイちゃんそれすごいね! 私も心の中で”ユウくううううううううううううううん”と叫んでみようかな」
「え、ええ!? どういう展開なのっ!?」
「HAHAHAHAHA」
「ユウジ、誤魔化し方壮絶に雑だねっ」
「”僕の王の力があああああああああああああああああああああ”ヌフフフフヌハァッ」
「いきなりどうしたのユイ!?」
ユキがツッコミに回っているのだった。
まあ姫城さんもミナもユイも濃いからな。
「おー、ユウジ。聞いたか? あの問題作がついに出るってよ」
「おお、マサヒロ久しぶり」
「昨日も普通にいたんだが!? あ、一日振りっていうギャグの一環――」
「え」
「なんで真顔!? ってユキもユイもミナも真顔ってそりゃねーよっ! アレ? コエガダンダン――」
マサヒロ、アウトー
ということでマサヒロのセリフはこれからほぼカットでお送りします。興味ないしね。
内心動揺しまくり、驚きしまくりんぐだが――まあ今は平常心平常心。
「ねーねー、そういえばユキちゃんマイちゃんユイちゃんって好きな人いるの?」
「「「っ」」」
突然のコイバナ。いやいや俺という男がいる前でそれは大胆なんじゃないっすかね!
というかミナってこんななのか、姉貴の本質はこうだったりするんかな? ここまでハイテンションだとは。
「いるのかな?」
「え、えーと……ノーコメントで」
「あ、いるんだ」
「否定も肯定もナシで……うん」
「ふーん……あ、じゃあマイちゃんはっ?」
「私ですか、いますよ」
「「「えっ(おぉ)」」」
ユキとユイが姫城さん方にグイと向き、ミナが感嘆の声を漏らす。
「誰? このクラス? もしかして年上とかだったり?」
おおう、ミナ攻めますなあ。
……ってか俺姫城さんに告白されてるんだよね、それで何故か振られたけども。すごいね答えを寄越す時間さえなかったね。
今は変わってたりするんだろうか……まあ仕方ないのかもだけども、そうなら複雑だよなあ。
「ユウジ様ですよ」
「「「ぶっ」」」
「…………」
俺とユキとユイが噴き出す一方で、ミナの反応は薄かった。
てかここで堂々言うのか! クラス中の注目集まってるじゃんかぁっ! 俺には男子による男子の為のたくさんの殺意プレゼンツですよ。
「マイちゃん、ユウくん好きなんだ?」
「はい、憧れでしたから」
あ、そうだったんだ。
「――ならライバルだね」
そう姉貴が今までに見せたことのないような、少し黒さのある笑みを浮かべて。
席を立ちあがり俺の隣に移動したかと思うと俺の腕を取って、抱き寄せた。そうユキ達に、クラスに見せつけるように。
俺は動揺絶好調、ユキやユイに至っては驚きで固まっている。姫城さんがその一方で不機嫌さを醸し出してミナ睨み付けた。
「そうですね、よろしくお願いしますミナさん」
そして姫城さんも俺の空いている腕を抱き寄せた。
どういうことなんだコレ。
「あ、ああああああああミナにマイさん!? どういうことなのっ!?」
「もちつけアタシもちつけ皆。なしてユウジハーレムっぽい展開? ユウジを巡るサン角関係的な展開になっているのでござるか?」
ユキもユイも動揺が伝わっている、まあ、一番驚いているのはその出来事の中心の俺なんすけどね。
「ユウくんは渡さないよ?」
「ユウジ様はあなたの所有物とはなっておりませんので、あしからず」
ミナと姫城さんがバチバチと俺の目の前で、俺の腕を抱くことを止めることなく身を乗り出して睨み合い。
どっちもドス黒いオーラーがたちこめて、俺はその空気の悪さに息を止めたい気分だ。
どうしてこうなった。
そしてなぜ最近の俺はこんな恋愛をこじらせたような展開に巻き込まれがちなんだ。
一学年でも、学校単位で見ても胸の大き目な二人に挟まれる俺は両腕に感じる柔らかさと戦いながら、そう嘆き思った。




